#14 天国と地獄

●転生組公式「天国と地獄 ~にげろ!タコさんウインナー~」



 運動会でおなじみ、ジャック・オッフェンバックの『天国と地獄』が流れる。

 『運動会』

 『運動会』

 『運動会』

 『なにがおこるんですか』


 タコさんウインナーが語る。

「毎日、毎日、俺はフライパンで焼かれて、嫌んなるんだ。ある日、弁当箱に入れられた。目の前は真っ暗。この蓋の開いたとき、俺は逃げる」

 『たいやきくん』

 『たいやきくんだな』

 『なつかし』

 『子●真●』


 お昼休みの教室で、制服姿の水色おさがおが、お弁当を食べようとしている。お弁当箱を開け、タコさんウインナーをつまもうとしたとき、タコさんウインナーは飛び跳ねて、机の下へ逃げて行った。

「あっ! タコさんウインナー落としちゃった」


 タコさんウインナーは、教室を走る。机や椅子の脚を避け、女子生徒の上履きを回りこむ。蹴飛ばされそうになる。踏まれそうになる。巧みに避ける。

 『タコさん上見て』

 『カメラ上』

 『カメラ上映して』

 『カメラ上』

 『カメラ上』


 教室を横切って、廊下に出たとき、上履きに蹴飛ばされて、窓から外に飛び出した。空をぴゅ~と飛んで、学校の花壇に着陸する。

「ふう、やれやれだぜ」

 『草』

 『草』

 『どうして上を映さなかった』



 学校の塀に、空いた穴から道路へ出る。

 その時、キラ! と光る目線に気がついた。恐る恐る振り返ると、猫が目を丸くして凝視している。

 『タコさんうしろー』

 『タコさんうしろー』

 『志村うしろー』


 次の瞬間、猫が跳びかかる。タコさんウインナーは脱兎の如く逃げるが、猫は逃げるネズミを追うように俊敏だ。あっという間に、猫との距離は詰まり、猫が飛びかかった瞬間、タコさんウインナーは猫の視界から消えた。

 『消えた』

 『どこいった』

 『どこ行った?』

 『マジどこいった』



 猫から逃げられ、ほっとしたのもつかの間、眼下に街が広がる。

「ひゃーーーー」

 猫からタコさんウインナーをかっさらったのはカラスだった。

 『こんどはカラスか』

 『落下して死亡』

 『ちぎっては投げられるの?』

 タコさんウインナーは、足をジタバタさせたが、カラスはなかなか離さない。触手を一発、カラスの目に打ちつけると、カラスはタコさんウインナーを離した。

 『落ちた』

 『逃げた』

 『落ちた』

 『落ちる野郎どもにあんなスキンいなかったか』


 タコさんウインナーは、宙を舞って、ティーカップの中に落ちる。落っこちたところが、ティータイム中の、さくまどろっぷのカップの中。さくまどろっぷの顔がびしょ濡れになっている。

 『着水』

 『助かった』

 『助かった』

 布巾で顔をぬぐい、にこっと笑ってタコさんウインナーをつまみ上げると、テーブルに押し付ける。バターナイフを手にすると、ナイフをタコさんウインナーに振り下ろす。

 『死んだ』

 『死んだな』

 『良い奴だったよ』

 タコさんウインナーは、足でナイフを白刃取りする。ぷるぷる震えるナイフを跳ね除け、テーブルから飛び降りると、庭の外へ飛び出した。

 『逃げた』

 『逃げた』



 高く生い茂る雑草の中を歩いていると、突然、捕虫網に捕らわれる。捕ったのはピュア・ピンク。

 『虫か』

 『虫かよ』

 『新種発見だな』

 『ピュアピンク・タコウインナシスと名付けよう』


 それを持ち帰って虫かごに入れる。そして、毒々しい色の保存液を並べる。

 『草』

 『草』

 『標本作製』

 タコさんウインナーをピンセットでつまんで、注射液を刺そうとした瞬間、可愛美麗が、ピュア・ピンクの肩をポンポンと叩く。

「殺しちゃ可哀そうよ。あたしに頂戴」

 『助かった』

 『助かった』

 『美麗ちゃんマジ天使』


 可愛美麗は、茶碗にお湯を入れ、タコさんウインナーをそこに入れると、綿棒で、身体の隅々まで洗い始めた。

 『目玉おやじか』

 『目玉おやじかよ』

 『鬼太郎の目玉おやじ』

 『草』

 『俺も洗って欲しい』

 茶碗から出されると、こんどは、ハンカチで丁寧に拭いてもらう。

 『ふう』

 『ふう』

 『ふう』


 夕食。

 テーブルに座っているタコさんウインナーを前に、可愛美麗が食事をしている。

「食べたい?」

 箸でひとつまみ。タコさんウインナーの口に運ぶと、大きく口を開け食べてる。

 『間接キス』

 『間接キス』

 『うやらます』


 パジャマに着替えた可愛美麗は、タコさんウインナーをパジャマの胸ポケットに入れる。

 『え』

 『え』

 『なにがおこるんですか』

 『おまえ俺とそこ代れ』

 照明を消して、ベッドへ横になる。期せずして、タコさんウインナーは、可愛美麗の胸の上で寝ることになる。

 『あー』

 『あー』

 『クソー』

 『うらやましいー』

 興奮のあまり眠れないタコさんウインナーに対し、スースーと寝息をたてる可愛美麗。

「ううん」

 寝返りをうつと、タコさんウインナーは胸に潰される。

 『あー』

 『あー』

 『クソー』

 『うらやましいー』

 息が、息ができない…

 でも、気持ち良い…

 泡吹きながら、恍惚の瞳でタコさんウインナーは気を失った。



 翌朝。

 美麗は、タコさんウインナーをちいさな蛸壺に入れて、それをアクセサリーにしてバッグに付けた。

 『可愛い』

 『可愛い』

 『かわいい』

 『まさに蛸壺』

 『蛸壺で草』

 それを見かけた紫が声を掛ける。

「可愛いわね」

「でしょ?」

「ちょっと貸して」

「どうぞ」

 紫は、面白そうに振り回し、糸が切れて飛んで行ってしまう。

 『草』

 『草』

 『草』


 着地したあと、ツボから出ようとするが、出られない。なんとか二本の触手を出し、落ちていた小さなトンカチを拾い、それを地面に杖のように突き立てて歩く。

 『草』

 『草』

 『壺オジ』

 『壺オジかよ』

 『蛸壺オジ』


 壺オジのように家を登り、アンテナを登り、マンションの外壁からベランダ、洗濯物、干してある布団、下着などを伝って屋上へ。

 『壺オジじゃねーか』

 『草』

 『草』

 『サイズ感ちがくね?』

 屋上の避雷針から、スカイツリーの外壁にへばりつき、さらに上って、そのてっぺんから、富士山峰へ。

 『高低差』

 『高低差は』

 『草』

 富士山頂上浅間大社奥宮の鳥居から宇宙へジャンプし、飛行機に跳ねられ、ISSを蹴って、小惑星の彼方、宇宙へ。


 宇宙の背景から、大きな手がタコさんウインナーをつまむ。背景に映る、二の腕から脇、よこ乳から豊満な胸元をとおって、赤い唇が、にやりと口角をあげる。


 『だれ?』

 『だれ?』

 『だれ?』

 『だれ?』

 『だれだ?』

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