#12 木枯芽愛
「こんばんは。ニュースをお送りします。
令和xx年秋頃、虐待して亡くなった芽愛ちゃんを、妻の木枯悪子(25)と共謀し、当時7歳の芽愛ちゃんを、虐待の上、殺害し、山中に遺棄したとされています。
今月7日、地元の猟友会から、山中に人の死体らしいものがあると警察に通報があり、警察が捜査していました。遺体のDNA鑑定から、行方不明届けの出されていた芽愛ちゃと一致。木枯悪蔵に話しを訊いたところ、容疑をほぼ、認めているとのことです。
発見された遺体は、腐敗が進んでおり、死後、かなりの時間が経過したとして、殺害された時期はもっと前と、警察は判断しています。妻の木枯悪子からも事情を訊いています」
亡くなった、木枯 芽愛ちゃんの写真がテレビに映る。ランドセルに通学帽の姿は、ピュア・ピンクのそれだった。
「以上、
ピュア・ピンク●ライブ
「ちわ」
『ちわ』
『ちわ』
『ちわ』
「今日は、『落ちる野郎ども』をやる」
『ピンクのスキン姿がかわいい』
『ピンクでね』
『ピンク』
『ピンク●ーター』
「ピンク●ーターってなに?」
『なんだろう』
『なんだろうね』
「えっちな奴か」
『シラナーヌ・ド・ゾンゼーヌ』
『へんじがない』
『ただのしかばねのようだ』
「まあいいや。ゲームやろ。いくぜ」
ピュア・ピンクはゲームの中に飛びこむ。
宙を飛んでいる間、参加者が集まる。
着地したステージは『ドアダッシュ』
ピュア・ピンクは、群衆のど真ん中に埋もれている。
ピ・ピ・ピ・ピーン!
「行くっ!」
ピュア・ピンクは、スタート同時に群衆を離れ、あえて閉まりっぱなしのゲートへ向かう。すぐには開かないが、開かないゲートは無い。開いた瞬間にジャンプでゲートを抜けて行く。
『お』
『うまい』
『じょうず』
『うまい』
『いいね』
ゲートが少なくなると、前の青色をつかんで転ばす。
「ぬおー!」
『やるな』
『やるな』
『えげつない』
次の瞬間、後ろの人に捕まれて転ぶ。
「クソ」
『草』
『草』
ピュア・ピンクは、自分を転ばせた縞々人を追いかけて回す。
『執念深い』
『執念深いな』
とうとう、逃げられてしまう。
「クソ。これで勝ったと思うなよ」
人混みを避け、ハンマーを巧みによけて、ゴール!
「どうだっ!」
『すばらしい』
『すばらしい』
『たいへん良くできました』
その時、ひとつのコメントが投じられた。
『木枯芽愛に似てますね』
コメント欄のメンバー全員。知る由もない。当然、コメントは流れて消えた。
だた、ピュア・ピンクの心をざわつかせるには、十分な一言だった。
アパートの一室に、所狭しと壁から壁。床から天井まで並べられている大小の本棚。
そこに、こけしはえや黒丸墨括弧、サークル『
収まりきらない薄い本や、描きかけの原稿が、部屋中に積み上がっているが、テーブルの上だけは綺麗に整頓されていて、飲み止しのペットボトルは、しっかりと栓がなされていて、空になったコンビニ弁当の箱も輪ゴムで止められている。腐っても漫画家。原稿を汚さないための心得。最小限はたもっているらしい。
小学生の頃から使っている、学習机の上に、PCとタブレット。
部屋の中央に布団が敷いてあって、こけしはえの一日は、ここから始まり、ここで終る。
トントン。
アパートのドアをノックする音が、部屋の薄い本に吸いこまれる。
こけしはえは、今だ夢の中で、口からよだれを垂らしながら、右手でお腹をポリポリとかく。
トントン。
ドンドン!
「こんにちは」
「こんにちは!」
「はぁ、は~い」
誰だこんな朝っぱらから。宅配便? ユー●ーイー●? と思いつつ、こけしはえは、散らかった床の隙間を、縫うように歩んでドアを開ける。
いけね。あたしすっぴん。髪ぼさぼさ。ノーブラでよれよれのスエットだけだ。まあ、いいか。まさかドアの前にイケメン男子がいるわけでもなく。
「はい」
ドアを開けると、そこに、スーツ姿のイケメン男子が立っていた。
「朝早く失礼します。こちら、修生液株式会社でいらっしゃいますか?」
ぼ~とする頭を高速起動して考えた。
「はい」
「警視庁ですが、修生液株式会社で、労働基準法を違反しているとの刑事告発がありました。家宅捜索にご協力ください」
スーツ姿のイケメン男子は、捜査令状を見せた。
「はあ」
「よろしいですか?」
「はい」
「それでは、失礼します」
その後、男女入り乱れて部屋の中をあさり、PCからBL本まで、洗い在来、段ボールに詰めていった。
茫然自失としている、こけしはえに、女性警視庁官が声をかける。
「事情を訊きたいので、警視庁までご同行願いますか?」
「はい」
女性警視庁官に脇を固められ、捜査車両に乗って、気がついたら、刑事ドラマに出てくるような、殺風景な取調室に座っていた。
どうしてこうなった。
こけしはえからLINEが来てる。
「話がしたいので電話ください」
なんだ?
さっそく電話する。電話が繋がって、開口一番、こけしはえから出た言葉は、
「あたしの家。家宅捜査されたんだけど」
「なにそれ?」
「修生液株式会社で、転生組のVTuberをマネージメントしてるよね。それでですね、児童を不法に深夜労働させていると疑われまして」
「どいうこと?」
「15歳未満は夜10時から翌5時まで労働させてはいけない。しかし、修生液(株)は、その時間に児童をライブ配信させている疑い有りと」
「まあ、やってるね。ピュア・ピンクちゃんとか、さくまどろっぷさんとか」
「それをですね、児童ではないと証明する手立てが無く、半日、警察で事情を訊かれました」
「マジ!? やっぱカツ丼出た?」
「でるか!」
「でもさ、配信者は実在しないんだから、証明のしようもないよね」
「警察がそれで納得してくれたら、こんな苦労、しなかったわ」
「どうやってごまかしたの?」
「あたしは、手続きモロモロをやっているだけで、配信は、配信者の裁量に任せてます。配信者がどこから配信しているかわかりませんと説明しました」
「それは事実だから問題ないんじゃね?」
「配信者の住所、氏名を執拗に訊かれまして。知りませんで押し通しましたよ。実際、知らないし」
「結局、どうなった?」
「あたしの本とか、修生液の本とか、PCとか押収されまして。とはいえ、そこからみんなの情報が出てくることは無いので、とりあえず帰されました。今頃、捜査員があたしのBLを見て、配信者の情報がないか探していると思うと、恥ずかしさで死ねる」
「逆に考えるんだ。イケメン刑事がBLを読みあさっていると。エモいじゃないか」
「そんなこと考えられない。あたしのライフは0よ」
「それにしても、なんで今頃になって警察が動いたんだろ」
「木枯芽愛」
「だれ、それ?」
「ピュア・ピンクちゃんの本名らしい。最近、両親が逮捕されて、芽愛ちゃんの同級生が運動会とか、遠足とかの動画をSNSでアップしてて、芽愛ちゃんとピュア・ピンクが似てると、話題になってる」
「でも、服は当然として、身体は健康に作ったし、顔もVTuberぽくアレンジしたし」
「声」
「声か~」
「声質はもちろん、話し方、口癖が本人に似てるって」
「あくまで、噂でしょ?」
「ピュア・ピンクの配信では、特定厨がいて、荒れてるみたいよ」
「そうなの?」
「彼女の心をケアできるのは、そっちにいる人たちだけなんだから、しっかりしてよね」
「わかった」
さっそく、ピュア・ピンクのアーカイブを観てみた。確かに荒れ気味だ。
『芽愛に似てるね』とか、『死んだ人の真似キモス』とか、『芽愛が転生した設定とか最低』とか、煽りコメントが散見する。ピンクちゃんは無視を貫いているようだ。
これは、私の手に負えない。
タコさんウインナーと、さくまどろっぷさんを召喚する。
「というわけで、どうしたらいいでしょう?」
「こればかりはなー。本人の問題だからな」
「紫ちゃんはどうしたいの?」
「そりゃ、なんとかこの状況からピンクちゃんを助け出したいよ。かわいそうじゃん」
「かわいそう?」
「そう」
「そうか…。まず最初に言っておくけど『かわいそう』って言葉はね、上から目線の言葉なんだよ」
「なんですかそれ」
「上から目線で、この子、哀れだねって思っているという意味」
「そんなこと、思ってないですよ」
「でもね。『かわいそう』って、そういう意味なんだよ」
「あ~。え~。そうなのかな…」
「今まで、ピンクちゃんとどうやって接してきた?」
「それは、転生組の仲間として…」
「そうだね。その気持ちに間違いはないと思う」
「俺にも心当りあるな」
「え?」
「俺には子供がいないから、どう接していいかわからなかった。さらにその子が虐待死したとなればなおさらだ」
「みんな、腫れ物でも触るみたいに接していたんじゃない?」
「そ、それは…」
「もう、解放してあげよ。虐待死した『かわいそうな子』扱いから」
「そ、そうですね」
「どうしたらいいかな」
「支えてあげればいいんじゃない?」
「支える、か…」
ピュア・ピンク●ライブ
「ちわ」
『ちわ』
『ちわ』
『ちわ』
「今日も『落ちる野郎ども』をやる」
『相変わらずピンクの姿がお可愛いこと』
「そです。可愛いんです」
『芽愛ちゃんかわいい』
「今日は別のステージをやりたい。とう!」
颯爽と飛び降りる。
着地したのは『しっぽオニ』
「チーム戦です」
高崎紫🔧『参戦するぜ』
『紫がいる』
さくまどろっぷ🔧『参戦します』
『ロリバアアきた』
タコさんウインナー🔧『参戦だな』
『あれ』
水色あさがお🔧『参戦で~す』
『おい』
可愛美麗🔧『参戦します』
『転生組キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!』
高崎紫🔧『転生組全員が同じチームなんてすごーいぐーぜんだー』
水色あさがお🔧『転生組全員参加ですね~』
『おかしいだろ』
『おかしい』
『しくんだ』
『草』
『草』
『いったいなにがおこっているんですか』
「なんかなみんなきた」
高崎紫🔧『なかまだからね👍』
ゲームが始まる。
ピュア・ピンクがしっぽを盗ってひたすら逃げる。ゲームが得意な可愛美麗と、さくまどろっぷがサポートする。
可愛美麗🔧『ピンクちゃん坂の上に逃げて』
「はい」
さくまどろっぷ🔧『ほい』
捕まれたホットドッグがひっくり返る。
しっぽを付けた紫を、タコさんウインナーと水色あさがおがサポートする。
高崎紫🔧『私どうしたらいい』
水色あさがお🔧『タコさんについて行って』
高崎紫🔧『おk』
水色あさがお🔧『
チームワークで転生組が勝つ。
高崎紫🔧『どうだ転生組の団結力を』
タコさんウインナー🔧『俺たち転生組がいるかぎりぃぃぃ』
水色あさがお🔧『ピンクちゃんはひとりぼっちじゃないのです』
可愛美麗🔧『卑劣な言葉を言う人は』
さくまどろっぷ🔧『月に代わっておしおきよ』
高崎紫🔧『さくまさん古い』
さくまどろっぷ🔧『言いたいことがあったら言っちゃえ』
可愛美麗🔧『みんながついてるよ』
一瞬、間があって、ピュア・ピンクは大きな声で言い放つ。
「木枯芽愛ちゃんとピンクは、まったく関係ないけど、芽愛ちゃんの分まで、一生懸命、この世界で生きていきます」
『えらい』
『よく言った』
┌(^o^)みけねこ┐
│\10,000
└ピンクちゃん大好き┘
┌(○)禿オヤジ┐
│\10,000
└よく言った┘
┌(*^O^*)PinkLove┐
│\10,000
└応援してるよ┘
┌(゚Д゚)タオ┐
│\10,000
└勇気代┘
┌(^_^)ロリロリ┐
│\10,000
└がんばって┘
「そして、一億円稼げるライバーになりたいです」
『え』
『草』
『草』
『台無しだよ』
┌(*^O^*)PinkLove┐
│\20,000
└一億円の足し┘
「ということがありまして」
「ピュア・ピンクへのヘイトは無くなったと」
「無くなりはしないよ。ネットの粘着は半端ないんだから。うちらも散々だったでしょ」
「事件が風化すれば自然といなくなる」
「きゃつらは新しい獲物を求めて、秒単位で移動してるからね」
「労働基準法の方はどうなった?」
「音沙汰無いね。今頃、薄い本を一ページずつめくって、証拠探してると思う」
「イケメン刑事がBL読んでるところを想像するだけで胸熱」
「笑えねぇ」
「世界中のサーバー、漁ってもうちらの足取りは追えないよ」
「そこんところ。あたしもkwsk知りたいんだけど」
「知りたいんなら、このシステムを創った、立川でバカンス中の神に訊いてください」
「ところで黒丸墨括弧。そろそろ、あのシーズンですよ」
「なんだろ~」
「確定申告だよ」
「私死んでるから、できないね~」
「とぼけんな。今はネットでできるんだ」
「必要書類が手元にないし~」
「PDFで送ってやる」
「押印できないし~」
「廃止されました」
「確定申告よろしくね~てへぺろ~」
「クソ。逃げられた」
そう言いながら、転生組の配信は欠かさず観ている、こけしはえであった。
「ピンクちゃん、がんばって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます