#10 麻雀
見た目だけなら8歳の、さくまどろっぷが艶っぽい声で言う。
「ねえ、リーダー。みんなで麻雀やりたいの」
高崎紫は、戦国時代の武将の様に、座して答える。
「いいですね。VTuber界隈で流行ってますし」
「でも、既存のネットゲームはしたくないの」
「と、いいますと?」
「
「つまり、麻雀牌を握れるレベルで3D化しろと?」
「うん」
「御意」
「頼んだぞ、紫」
「というわけでタコよ。さくまどろっぷさんからの下知だ」
「なんだ?」
「我々でも、手で触れて遊べる3D麻雀を作って欲しい」
「かなり手間だぞ」
「その間、メンバーの麻雀力をアップしておきましょう」
「頼む」
「承知」
「美麗は、麻雀、やったことある?」
「テレビゲームでならやったことあります」
「あさは?」
「はい! テレビゲームでやったことあります!」
「ピンクちゃんは?」
「ない」
「まあ、ピンクちゃんはねぇ」
「麻雀っておもしろいの?」
「おもしろいよ。覚えてみる?」
「うん。覚える」
「紫さんも麻雀できるんですか?」
「えっ!?」
「できるんですよね?」
「えっと~、その~。できないです…」
「できないんですか!?」
「テレビゲームでやりませんでした?」
「やりませんでした」
「ルールは?」
「まったくわかりません」
「これは、調教が必要ね」
さくまどろっぷさん、ノリノリだなあ。
「とりあえず、フリーの麻雀ゲームで、プレイしながらルールを覚えましょう」
ゲームスタート!
~~~みんなが、麻雀のルールを、いちから(にじから)覚えています~~~
タコさんウインナーが、完成した3D麻雀牌&雀卓を携え、みんなのまえに現れる。
「おまたせー」
「待ってたよ。タコさん」
「なにその艶っぽい声」
「早く握りたかったの」
「麻雀牌をな」
「乗り悪い~」
「みんなの仕上がり具合はどうだ?」
「ぼちぼちかなあ」
「早速、転送するか?」
「うん。は~や~く~」
ヴォン!
メンバーの目の前に、雀卓と麻雀牌。点棒とサイコロが現われる。
「うひょ~。これよ。これに触りたかったの」
山になった麻雀牌を、さくまどろっぷは早速、じゃらじゃら崩して混ぜる。
「あっ! 乱暴に扱わんで」
「どうして?」
「ちゃんとしたボーン、仕込んでないんで」
「処理落ちする?」
「貫通もします」
「そう。残念」
「作ったのは、3Dの立体以外に、配牌とサイコロの乱数ぐらいだから、力加減に気をつけてくれ」
「了解」
「ゲームのプログラムなんて仕込んでないから、ルールの合否とか、点数計算とか、自分でやって」
「みんなわかってる?」
「「「「わかりません」」」」
「しょうがないわね。みんなには、あたしがいちから(にじから)教えてあげる」
雀卓に、牌山が、モザイク状に積み上がってゆく。
「最初にルールを説明するわね。最近のネットゲームは初心者向けに、東風戦アリアリのゆるゆるなルールだけど、簡単にあがれちゃってつまらないの。ゲーム性を楽しんで欲しいので、ギャンブル性をなるべく排除します。昭和に育ったあたし流のルールね」
「さくまどろっぷさん、8歳ですよね」
「東南戦の半荘。喰いタン無し。後付け無し。赤
「ガチガチのル-ルだな」
「本当は席もサイコロで決めるんだけど、今のままでいいか」
さくまどろっぷの下家が可愛美麗。対面が高崎紫、上家が水色あさがお。
「ピンクちゃんは、あたしと一緒にやろうか」
「俺は紫の肩からレクチャーしてやる」
「まず、親を決めます。とりあえずあたしがサイコロを振るね」
ふたつのサイコロがコロコロと転がる。合計数は10。
「サイコロを振った人から1、2,3,4と左回りに数えて、10番目の美麗が仮親となります。じゃあ美麗、サイコロ振って」
「はい」
ふたつのサイコロがコロコロと転がる。合計数は7。
「美麗から左回りに数えて7番目。あさが親で決定です」
ゲームスタート!
【東一局】
親東家:水色あさがお
南家:さくまどろっぷ
西家:可愛美麗
北家:高崎紫
「あさ、サイコロ振って」
ふたつのサイコロがコロコロと転がる。合計数は11。
「あさから1、2,3,4と時計回りに数えて、11番目の山は対面の美麗。その山を左から11列残して切り離します。切り離した山は、さらに7列残して切り離して残します。これを
三萬が現われる。
「今、三萬が出たけど、ドラになるのは、この牌の次なので、この場でドラは四萬になります」
「2列はカンをした時にここから取ります。それじゃ山を取ってゆきましょう。親のあさから反時計回りに、4個ずつ取っていってね」
「4個ずつ取るんですか?」
「そう。2列1山で4個ね」
「はい」
あさがお → さくまどろっぷ → 美麗 → 紫の順番で牌を取ってゆく。
「とった牌は雀卓の縁に当てて開けて、順番に並べましょう」
「ゲームだと、自動でやってくれるけど」
「これがリアル麻雀ですね」
「本当は、牌山積むところからやりたいんだけどね~」
四人が山を取って3周目が終る。
「あさ。手元に12牌あるでしょう」
「はい」
「次は、山の角と、一個飛ばして二個取ります」
「こうですか?」
「そう。どうして一個飛ばしに取るかは、そういうルールだから! と覚えてください」
「はい」
「みんなは右端から順番に牌を一個ずつ取ってね」
配牌が終る。
「はい。ここまで牌を手にしてゲームが始まります。みんながやっているテレビゲームは、トランプでいうところの、カードを切ったり配ったりするところをバッサリ省略したのと同じなのよ。わかった?」
「「「はい。先生」」」
「じゃ、親のあさが牌を切るところからゲームスタート」
ゲームの途中、牌を倒したり、落としたり、崩したり。それはリアルに牌を触っていれば、よくやること。初心者ならなおさらだ。
テレビゲームで勝てるから、俺は強いなどと勘違いしている
それをこれから、教えてあげる。
~~~みんなが、麻雀牌の扱いを、いちから(にじから)覚えています~~~
「みんな、麻雀牌の扱いには慣れましたか?」
「「「はい。先生」」」
「それじゃあ、LIVE配信してみようか」
「マジですか」
「おもしろそう」
「配信中に牌落としそう」
「それでいいんだよ。そういったアクシデントが、おもしろいんだから」
タコさんウインナー●ライブ
「【第一回・転生組杯】争奪。麻雀大会、開催です。3D雀卓、麻雀牌、サイコロ、点棒の提供は俺、タコさんウインナー。ゲーム進行はさくまどろっぷ。解説はピュア・ピンクにおねがいします。ピンクちゃん、どうぞよろしくお願いします」
「お願いします」
「どうですか? ピンクちゃん。ここまでみんなの対戦を見て」
「ルールはなんとなくわかった」
「おー、それはすごい」
「トランプみたいなもんじゃん」
「テーブルゲームという意味では、だいたいあってるかな」
「さて、プレイヤーをご紹介しましょう。麻雀牌は、物心つく前から積木替わりに触ってたというロリババア、さくまどろっぷ」
さくまどろっぷ●ライブ
「よろしく」
タコさんウインナー●ライブ
「麻雀はテレビゲームでしかやったとこがない。牌を積むのはもちろん初めて、水色あさがお」
水色あさがお●ライブ
「よろしくおねがいしま~す」
タコさんウインナー●ライブ
「同じく、牌を積むのは初めて。自分の点棒と、ぶらさがっていたふたつのサイコロを切り捨て、換わりにパイを手に入れた、可愛美麗」
可愛美麗●ライブ
「転生して、身も心も女になりました。郡道美玲さんのように妖艶な女流雀士をめざします! どうぞよろしくお願いします」
タコさんウインナー●ライブ
「ステレオタイプの腐女子が、絵に描いたように生まれ変わった、高崎紫」
高崎紫●ライブ
「麻雀をやるのはこれが初めてです。ちょっと練習させてもらいましたが、勝てる気がしません」
タコさんウインナー●ライブ
「席順と
ヴォンと、牌山が積み上がる。あさがおがサイコロを振る。合計数は3。対面の山を3列残して、牌を取ってゆく。ドラをめくると『発』。この場合、正式なドラは『中』になる。
水色あさがお●ライブ
配牌は、
「それじゃいきます」
一筒を切る。コメントが流れる。
『タンヤオか平和ですかね~』
『ドラも望み薄だし、セオリーですね』
可愛美麗●ライブ
最初のツモと配牌は、極端に字牌によって、索子、筒子、萬子の一、九が絡んでいる。無理せず役牌。チャンタ、三色も狙えるが、無理をすれば大三元も可能だ。
無言でいきなり中切り。コメントが流れる。
『ドラ切った』
『しかも一巡目』
『キャー!』
『いきなりドラキー(どらきり)』
『役牌は』
『大三元えぇ』
『もったいない』
さくまどろっぷ●ライブ
最初のツモと配牌は、やや萬子偏重。役牌から平和まで、幅広い手筋が見える。
「がんばっちゃおうかなあ」
この時、手牌を見ているメンバーは驚愕する。
『牌そろえてないよね』
『配牌のママ』
ツモった牌は右端に入れ、不要な牌を手牌の中から切る。
『
『これで役が見えてるの?』
『理牌すると、切った牌から手牌を読まれるから、プロは理牌しない』
『プロか』
『俺は訳がわからねぇ』
高崎紫●ライブ
最初のツモと配牌は、索子と筒子が良いバランス。オーソドックスな平和、タンヤオ手筋だ。
「なにを切ったらいいか、まったくわかりません」
『最初はな~』
『最初はね』
『わかる』
一牌だけあった字牌を切る。
タコさんウインナー●ライブ
「一巡しました。さあここで、俺のライブを見ている奴らだけに、スペシャルサービスだ」
なんと、牌山が半透明になって、牌の種類が透けて見える。
『なんだって』
『ここれは』
『贅沢な』
『次になにツモるかまるわかりじゃん』
『こんな麻雀やりてー』
「3D雀牌だからこそできた、お遊びだ」
『サンキュー』
『タコさんありがとう』
『他の面子には見えてないんでしょ』
「見えてません」
『ツモる牌がわかってる麻雀って贅沢だな』
『残り三枚のドラのうち、王牌に一個あるので、ドラで点数は作れない』
『後半に字牌が固まってるな』
『早めに平和かタンヤオ作った方が勝ちの流れかな』
『牌に偏りのある、さくまどろっぷが不利かな』
水色あさがお●ライブ
二巡目のツモは、今切った筒子。
「同じのきた」
そのままツモ切り。
『かぶった』
『しゃーない』
可愛美麗●ライブ
ツモったは二萬。さらに端の字牌を切る。
『初心者にありがちな字牌整理して平和タンヤオ狙いなんか』
『字牌はツモりにくいからこれは正解かも』
さくまどろっぷ●ライブ
ツモは六萬。サクッと筒子切り。
『混一色ねらいですかねぇ』
『つーか理牌してないからわかんねえ』
高崎紫●ライブ
ツモは三索。字牌切り。
『平和ですね』
『平和だな』
そんな感じでゲームは進行してゆく。
しかし、事前に何をツモるかわかっている麻雀が、これほどじれったい事はない。
『あさがお~! そこで白切っちゃダメだ~。連続でツモるんだぞ~』
『大三元余裕に見えて、絶対ツモられない牌があるな』
『俺だったら大三元狙って、最後の捨て牌で満貫あがられてたわ』
『やっぱ平和、タンヤオ、役牌だけで上がるのが最速だな』
『役満はできない』
『四暗刻ですらこの半荘で出る可能性はなかったからな』
などなど…。
タコさんウインナー●ライブ
「半荘終了で~す」
『終った』
『終った、のか?』
「成績発表」
一位「さくまどろっぷ」64200点
二位「水色あさがお」31000点
三位「可愛美麗」24500点
四位「高崎紫」300点
「みんなの感想でも聞こうかな。起親のあさがおからどうぞ」
「31000点でした。これって勝ったってことですか?」
「1000点勝ちだね」
「勝ちだ! やった! あたしすごい!?」
「一位じゃないけどな」
「1000点勝ちなんでしょう。なんで一位じゃないの?」
「一位はさくまどろっぷ。64200点。ダントツ」
「一位じゃないのに、なんで勝ちなの?」
「30000点超えてるからな」
「じゃあ、何位?」
「二位」
「美麗はどうでしたか?」
「テレビゲームではプレイしたことあったんですけど、実際、麻雀牌に触ってプレするのとは勝手がちがいますね。実際にトランプを手にしてポーカーをやった気分です」
「ダントツ優勝、さくまどろっぷ」
「ありがとうございます。勝ちました」
「あんた大人げねーな」
「あたし8歳だよ。こどもだよ」
「こどもが理牌せず、相手の手牌の切り場所から手札読んだりしねえ」
「あれ~? そんなことしてないよ」
「大負け紫」
「一回もあがれなかった」
「まあ、次は頑張れよ」
「最後に、解説のピュア・ピンクさんから一言いただきましょう」
「こんどはあたしも参加する」
「ルール覚えた?」
「覚えた」
「それじゃ第二回は、参加してもらおう」
「一位は余裕だね」
悠々とたたずむピュア・ピンク。
「この子、マジでトップとりそう」
「恐ろしい子」
「みなさん、また次回でお会いしましょう」
ノシ
「次こそは勝つ!」
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