#06 美麗とあさがお

 あの後3回、鬼ごっこをした。



 その後、高崎ゆかりの声かけで、各個人の配信を挟んで、週に3~4回、3D配信をした。

 水色あさがおが配信していた根性坂を、みんなで競争したり、フィールドを替えて缶蹴りをしたり、だるまさんが転んだをしたり。動きに焦点を当てた配信を続けた。

 そのかいあって、転生組のメンバー登録者数は増えていった。




 疲れて寝ていると、LINEの着信音が何度も鳴る。

「うるさいな~」

 タブレットを見ると、こけしはえからだ。

『冬コミ原稿。マジで落ちる5秒前』

 その文面で、一気に目が覚める。あわてて、こけしはえにLINEを返す。

『具体的にあと何時間?』

『時計を見ろ』

 しまった!

 転生組と遊んでいるのが楽しすぎて、原稿、まったく進んでいない。

『今からジェバンニになります』

『一晩で仕上げてください』

 転生組メンバーへ、一斉にメールを送信する。

「私はこれから冬コミの原稿で修羅場です。配信は各自、おこなってください」

 紫は、冬コミの原稿に、ペンを走らせる。



「リーダー、だらしねぇな」

「しょうがないわね」

「また鬼ごっこやりたかった」

 思うところそれぞれだが、可愛かわいれいと、水色あさがおは同時に思う。

「「じゃ、配信しよ」」




可愛美麗●ライブ

「こんにちは、可愛美麗です」

「おはようございま~す! 朝から笑顔、水色あさがおで~す。今日は、可愛美麗ちゃんと一緒に雑談配信で~す」

「あさとふたりきりで配信って、初めてだ」

「そうですね~」

「新鮮だ」

「美麗さんは、デビューして何年くらいなんですか?」

「年?」

「はい」

「まだ五ヶ月くらい」

「もう五ヶ月ですか? ながいですね」

「あさは、どのくらい?」

「車に跳ねられたのが、九月頃だから…。今何月ですか?」

「十一月」

「っていうことは、一ヶ月ですね」

「二ヶ月だね」

「二ヶ月か~。もうそんなにたつんだね」

「実感ない?」

「ないです~」

「あたしもあまり、ありません」


「美麗さんは、ゲームうまいですよね」

「生前、よくやってたから」

「あさは、全然、ダメなんですよ~」

「でも、歌うまいね」

「歌うの好きなんです~」

「歌ってみた、たくさんアップしてたよね」

「そうなんですけど、消されちゃいました」

「配信前に許可とったほうがいい」

「許可ってなんですか?」

「著作権がね」

「どうやって許可とるんですか?」

「あたしも詳しく知らないなあ。紫さんなら知ってるんじゃない?」

「今度、訊いてみます」


「運動も得意でしょ」

「はい! 走るの、投げるの、跳ぶの、なんでも得意です」

「なんでも? 今なんでもって言いましたね」

「はい! なんでもです」

「じゃあ、今からゲームしようか」

「ゲームですか!? いいですよ」

「いいのか」

「どんなゲームですか?」

「そうだなあ、PUBGはやったことある?」

「あります」

「どうだった?」

「1キルもできませんでした」

「じゃあ、PUBGをやってみましょう」


 ヴォン!



 ゴオオオオオオオオオオオオ。

 ふたりはPUBGの空を飛ぶ輸送機の中にいる。

「どこに降りたらいいんですか?」

「どこでも、好きなところへどうぞ」

 突然、水色あさがおは飛びだした。

「はや!」

 慌てて彼女を追う。

 彼女はまっすぐ落ちていって、街の上でパラシュートが開き、家の屋根に着陸する。

 美麗は、彼女のすぐ近くに降りて、武器や防具を拾いながら、彼女が着陸した場所へ向かう。


「あさは、家の屋根に着陸しました。どうしましょう。とりあえず、落ちてるモノを拾いましょう」

 屋根に落ちているモノを拾い終わると、屋根からベランダへ飛び降りる。ベランダから家の中に入り、さらに銃やリュックを拾い集める。

 パパパパパパパパン!

 銃声が轟く。

「ひゃ~撃ち合ってる~。怖い」

 トントンと肩を叩かれる。

「ひゃ~!」

「あたし、あたし。美麗」

「びっくりした~」

「武器、防具は拾った?」

「はい」

「見せてくれる?」

「どうぞ」

「ふ~ん、銃は良いかな。他はいまいちだけど、それはこれから拾って行こう」

「はい」

「さっきの銃声、聞いた?」

「はい」

「近くで打ち合ってるから、建物に隠れながら、狙うよ」

「はい」

 家の中を歩く。

「部屋から部屋へ移動する時は、すばやく。移動したらすぐに身を低くして」

「はい」

「窓からそっと、外を覗き見て、動いているモノを探す」

「小さくてわかりません」

「遠くにいる人を見つけるには慣れが必要かな。スコープで視認できる距離なら、ヘッドショットは確実にできるから、なるべく身を低くして、物陰に隠れながら移動しよう」

「はい」

「いた」

「え?」

 パパパパパパパパン!

 突然、美麗が銃を連射する。

「どうしました?」

「向こうの丘に人影が見えたから、撃った」

「やりましたか?」

「1キルしました」

「すごい」

「もっと探索して、武器防具をそろえましょう」

「はい」


「ヘルメットあった」

「はい」

「バックパックあった。これがあると、銃を複数持てるから」

「銃を複数持てるといいんですか?」

「銃によって連射できたり、遠くまで届いたり、威力が違ったり、いろいろあるから、シチュエーションで使い分ける」

「なるほど」

「わかった?」

「わかりません」

「実戦で学んでいきましょう」

「イエッサー!」


「ここでめぼしいモノはだいたい拾いました。移動しよう」

「移動ですか! 車に乗ります?」

「車は、あったら乗るかな」

「運転はまかせてください」

「得意なんだ」

「免許持ってません」

「あたしも持ってない。向こうの家に移ります」

 家から出た時、パパパパパパパパンと銃声が轟く。

「撃ってます~」

「近いな。ちょっと待ってて」

「はい」

 可愛美麗が、部屋の二階へ駆け上がっていく。

「どうしよう。とりあえず、武器拾っておこう」

 上の階を走る音がする。

「上から音がする」

 パパパパパパパパンと銃声が轟く。

「ええ? なに? なにが起こっているの?」

 突然、窓から人が飛びこんでくる。

「きゃー」

 悲鳴をあげている間に撃ち殺される。



 ゲームが終って、反省会。

「あさ、すぐに死んじゃいました」

「あの時、家に近づいて来る人がいたから、撃ったんだけど、殺せなかった」

「あさは、その人に撃ち殺された感じですか?」

「そうだね」

「美麗さんはどうでしたか?」

「ドン勝したよ」

「すご~い」

「次はもっとサポートするから、もう一回、やってみようか」

「お~!」


 この後、3回プレイした。水色あさがおは1キルするのが精一杯だった。




「さて、次はあさのターン」

「あさのターンですか?」

「あたしの得意なゲームに付き合わせちゃったから、あさがやりたいことをやろう」

「お~!」

「とわいえ、あたしは運動音痴なので、運動系は難しいです」

「じゃあ、歌いましょう」

「ゴメン。歌も下手」

「ダンスならいけますか?」

「どうだろう。やったことない」

「『おねがいダーリン』踊ってみましょう」

「あたしに踊れる?」

「御伽原江良さんができたくらいだから、大丈夫です」

「やりましょう」

「おねがいダーリンは、たくさん、踊ってみたがアップされているけど、個人的に好きな、足太ぺんたさんの踊ってみたを参考にしましょう」

https://www.youtube.com/watch?v=8K46EmaAhmw


「できる気がしない」

「曲は知ってますよね?」

「はい」

「じゃあ最初から、『おねだりしてみて欲しいの~』は、おねだりするように握った手を振って」

「はい! こうですか?」

「もっとリズミカルに」

「こうですか?」

「次は、両手を頭の上から胸元、広げて腰に」

「こうですか?」

「そうですね。だいたいあってます」

「間奏は腰に手を当てたまま腰を振って、右に、左に、右腕を上げて、口元で手を広げて次の歌詞『ダーリン、あなたわたしの言うことまったくきかない』まで」


♪ちゃらっちゃ、ちゃらっちゃ、ちゃちゃちゃ


「こんな感じですか!?」

「はい、そうですね」

「(;´Д`)ハァハァ すでに大汗かいてます」

「次は足の動きをやります」

「先生、足も動かすんですか?」

「動かしますよ。間奏で右腕と右足、左腕と左足を同時に出します」

「そんな動きできません」

「できますよ」

 あさは、ぺんたの様に踊ってみせる。

「ほら、かんたんでしょ」

 そう言いますか。この運動音痴に。

「あさはさ、転生する前はどんな仕事してたの?」

「あさは、ちゃんとした仕事、したことないんだよね」

「どういうこと?」

「すぐクビになっちゃう」

「どんな仕事してきたの?」

「いっぱい」

「いっぱいって、どのくらい?」

「100ぐらい?」

「100! すごいね」


 話題をそらして時間を稼ぐ作戦。

「一番、短かったのは?」

「3時間ぐらい?」

「どんな仕事?」

「電話が鳴ったら、とる仕事です」

「テレオペ的な?」

「そうなのかな」

「どうして3時間で辞めちゃったの?」

「電話出ても話せなくて、あまりにも話せなくて、お昼休憩の時に帰って。って言われた」

「それは辛かったね」

「美麗さんはどんな仕事してたんですか?」

「あたしはね、夜の仕事」

「夜の仕事ってなんですか?」

「お酒を提供する仕事」

「居酒屋ですか?」

「もうちょっと高いところかな」

「あさ、そういうところよく知らないんですけど、えっちな奴ですよね」

「えっちかあ。まあ、そういうくくりになるかな」

「でも、美麗さんは転生する前、男だって聞きましたけど、やっぱり女性客あいてなんですか?」

「そうだね。ホストクラブ」

「もてたんじゃないんですか?」

「心は女だったから、良い相談相手ポジションだったかな。女の子を話して慰める」

「もてそうじゃないですか」

「本当にもてるのは、そこからさらに、男を魅せる人だね」

「へ~」

「夜の仕事したのも、手術費用を稼ぐのが目的だったから、仕事としてはドライだった」


「自分の性が、外と中と違うって思ったのはいつ頃からですか?」

「小さな頃から、人形とか、魔法少女モノとか、好きだったし、女の子と遊ぶことが多くて、それが原因で男子にはいじめられたね」

「あたしも子供の頃、バカだったから、よくバカにされました」

「思春期になって自覚した。修学旅行とか、体験学習とか、学校行事で外泊すると、男は男子浴場にみんなで入るでしょ? それができなくて。親に告白したら、勘当されて家追い出された」

「ひど~い」

「バイトしながら安普請で一人暮らし。二十歳になってすぐ、夜の仕事はじめて、手術費用稼いでって思ったんだけど、生活しながらだから、なかなかお金貯まらなくって。やっと貯まったお金握りしめて、格安航空券で某国に行って、施設はまともそうだったんだけど、やっぱ、お金はケチるもんじゃなかった」

「そうですか~」

「じゃあ、今日はこの辺で終わりにしようか」

「なにいってるんですか! まだまだ全然、できてません。踊ってください」

 ちっ。無かったことにならなかったか。


 6時間後。


「とりあえず、一番だけできました」

「(;´Д`)ハァハァ できましたか?」

「一回、通しで踊ってみましょう」

「イエッサー!」


 お願いダーリンの一番を、ふたりで踊る。しかし、お世辞にも上手いとはいえない完成度。


「人に向き不向きはあります! ここだけアーカイブに残しましょう」

「勘弁してください」

「だいじょうぶ。鈴鹿詩子の『ハッピーシンセサイザ』よりはうまくできてます」

https://www.youtube.com/watch?v=a8Zc7yn6bCQ&t=261s



「先生。そろそろ終わりにしましょう」

「もう?」

「PUBGから合わせて、8時間以上やってますし」

「あさは、まだまだいけますよ」

「日本的にも深夜、というかもう早朝です」

「あさたち、この世界に住んでるから、時間感覚なくなりますよね~」

「そうだね」

「最後に、紫さんのいっていた3DVTuberぽいことやりたいです」

「3DVTuberか…。それじゃあ、一度、行ってみたかったプールがあるんだけど、どう?」

「プールですか!?」

「そう」

「言っておきますが、あさは泳ぐの得意ですよ」

「よろしい。ならば戦争だ」




「というわけで、例のプールにやってきました」

「例のプールってなんですか?」

「とある撮影によく使われる、実在するプールのスタジオを、MMDモデルで再現したところです」

「とある撮影ってなんですか?」

「いろんな撮影です」

「へ~、そうなんですか」

「とりあえず、水着に着替えましょう。バグ、よろしく」

「かしこまりました」


 ☆キラキラっと輝いて、可愛美麗は、ビキニにチェンジ。


 ☆キラキラっと輝いて、水色あさがおは、スクール水着にチェンジ。


「あさ、スクール水着ですか?」

「それが一番、似合うかなと」

「胸が苦しいです」

「水泳が得意っていってたからさ」

「わかりました。我慢します」

「思ってたより小さいプールだね」

「競争しましょう」

「競争? 勝てる気がしない」

「でもさっき、戦争だ! って言ってたじゃないですか」

「あ~、言いましたね。それじゃ、やりましょう」

「バグ、合図して」

「了解しました」


「いきますよ。よーい、ドン!」

 バグの合図で、ふたりはプールに飛びこんだ。

 勝負はスタート時点で決まっていた。

 あさがおは、綺麗なフォームで水に飛びこむと、腕を真すぐ伸ばし、2~3回水をかいただけで、対岸に到着。

 美麗は、飛びこんだところでバシャバシャしているだけで、まったく進まない。あさがおは、対岸から引き返して、美麗の手をとる。

「美麗さん、泳ぎもダメだったんですね~」

「小学生の頃は泳げたんだけど、歳はとりたくない」

「まだ若いじゃないですか」

 バシャバシャ、バタ足に、あさがおが手を引いて、やっと対岸に到着。

「完泳、おめでとうございます」

「ありがとう」

「今度、転生組で、水泳大会がやりたいです」

「あたしは不参加でよろしく」

「なに言ってるんですか! 踊りも水泳も、練習して、みんなで3DVTuberやりましょ~!」


 満面に笑顔のあさがおを見て、この元気に身をまかせたら、あたしの配信も、元気が出るか。

「そういえば、ひとつ言い忘れてたんだけど」

「なんですか?」

「このプール。泳ぐとそれだけで妊娠するんだよ」

「マジですか?」

「マジ」

「妊娠は困りましたね~。その時は、美麗さんに責任とってもらいます」

「それは、困る」

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