#05 鬼ごっこ

 翌日、高崎ゆかりの掛け声で、とあるMMDステージに、タコさんウインナー、さくまどろっぷ、可愛かわいれい、ピュア・ピンク、水色あさがおの、転生組のメンバー六人が集まる。

「みなさん、今日はお集まり頂き、誠にありがとうございます」

「今日はなんだ?」

「なにかしら」

「あたし、こういうところ初めてです」

「なにすんの?」

「朝から笑顔、水色あさがおです!」


「さて、みなさんには、これから殺し合いをしてもらいます」

「そういうのいいから、さっさと本題いけ」

「今日はみんなで、鬼ごっこします」

「「「「「鬼ごっこ?」」」」」

「前回、言いましたよね? 私たちには秀でた3Dモデルがあります。そのモデルでMMDステージを駆け回ることができる!」

「他のVTuberにはできないことだからな」

「さらに! 鬼ごっこの様子は、個々人のアカウントで配信します。しかも! LIVEです。是非、六窓で楽しんでいただきましょう」

「内容は?」

「ステージは、MMDのライブラリーから私がダウンロードしてきました」

「けっこう広そうだが?」

「おそらく、一番広くて起伏と建物があるステージだと思います」

「単純に鬼ごっこするだけか?」

「それだけだと楽しみに欠けるので、とあるゲームのルールを拝借しました」

「なんだそりゃ」

「みなさん、お手元のタブレットを開いてください」


 ヴォン!


 全員の手元に、タブレットが現る。

「タブレットには、ここのマップが表示されています。配信時間は1時間。一定の時間が経過すると、ランダムに選ばれた地点を中心にして、円状の安全地帯が縮小してゆきます」

「PUBGの安全地帯みたいなもんか」

「そうです。ルールは一般的な、鬼が子を追いかけ、タッチされたら鬼と子が入れ替わるというモノです。タッチされ、新しく鬼になった子は、その場で10数えてから子を追ってください。鬼も子も、安全地帯から10秒以上、外に出ていた時点で失格となります。鬼が失格になったら、みんな集まって、改めて鬼を決めます」

「勝敗は?」

「タイムリミットの瞬間に、鬼だった人が負けです」

「了解」

「審判やゲーム進行はバグ、よろしく」

「かしこまりました」

「それじゃあみなさん。リマインダーの設定をお願いします」

「なにそれ?」

「善は急げ。今日の19時からスタートしましょう」

「今日って、金曜日でしょう。19時といったら一番、VTuberの配信が重なる時間じゃない?」

「だから良いんです」

「?」

「その時間に配信しているVTuberは、古参で知名度の高い方達が中心です。しかも、ライブじゃないんでリアルタイム視聴者は、さほど多くありません。21時以降。知名度こそ低いけど、人気上り調子なVTuberのライブ配信の方が、リアルタイム視聴者は多いんです」

「上り調子の若手VTuberと対峙するより、若干、飽きられてきた古参VTuberの配信時間にぶつけた方が、視聴者が集まるということね?」

「言い方に語弊がありますが、だいたいそのとおりです」

「いいわね。おもしろそう」

「みなさん。リマインダーの準備はいいですか?」

「ちょっと待って」

「なんですか?」

「どうせなら全員で同じサムネイルがいいですよね」

「ナイスアイディアです、可愛さん。それじゃあ、今からみんなで、サムネ撮りましょう」

「それじゃあ、みんな集まって」

 わらわらと集まる。

「言い忘れましたが、タコさん。そのサイズだと鬼ごっことして成り立ちません。私たちと同じサイズになってください」

「チッ。気がつかれたか」

 ズズズズズ! っと、タコさんウインナーが、紫と同じ大きさになる。

「はい! チーズ」


 パシャ!




『VTuber鬼ごっこ』


 19時まであと…

  10

  9

  8

  7

  6

  5

  4

  3

  2

  1


高崎紫●ライブ

「さあ、始まりました。VTuber鬼ごっこ」


水色あさがお●ライブ

「おはようございま~す! 朝から笑顔、水色あさがおで~す! 今日は、転生組のみんなで、鬼ごっこをしま~す」


タコさんウインナー●ライブ

「おう、始まったか」


さくまどろっぷ●ライブ

「タコさん、等身大だと可愛げないねえ」


ピュア・ピンク●ライブ

「きもい」


可愛美麗●ライブ

「なんか、陶芸品? みたいな」


タコさんウインナー●ライブ

「俺いじりはいいから、始めてくれ」


高崎紫●ライブ

「VTuber鬼ごっことは、鬼ごっこです。そのまんまですが、広い3Dフィールドを3DVTuberモデルがLIVEで動き回るのは、たぶん史上初です。

 マップは、MMDで一番広いと思われるモノを用意し、PUBGの安全地帯システムをパクって、一定時間が経過するごとに、安全地帯が縮小していきます。安全地帯外で10秒以上いたら失格。最後まで逃げ抜いたら勝ち。というゲームです。

 論より証拠。百聞は一見にしかず。さっそく始めましょう」


「じゃあ、鬼決めじゃんけん、じゃんけんぽん!」

 負けたorz



水色あさがお●ライブ

「にげろ~」


タコさんウインナー●ライブ

「ほな、さいなら」


さくまどろっぷ●ライブ

「鬼ごっこって子供の頃以来だから、なつかしいねえ」


ピュア・ピンク●ライブ

 !!!


可愛美麗●ライブ

「ピンクちゃん、猛ダッシュだ。あたしも逃げよう。PUBGが如く」


高崎紫●ライブ

「い~っち。に~い。さ~ん…」



 マップ中央付近からスタートした鬼ごっこ。

 南へ逃げたのが、タコさんウインナー、ピュア・ピンクのふたり。北へ逃げたのが、可愛美麗、水色あさがおのふたり。西へ逃げたのが、さくまどろっぷ。


高崎紫●ライブ

「じゅう! くっそ~。さっそく鬼かよ。みんなどこ逃げたんだ」



 南へ逃げたふたりは、川にかかる大きな橋を渡り、東へ向きを変えたのがタコさんウインナー。そのまま南へ直進したのがピュア・ピンク。

 北へ逃げたふたりは、昇り坂が続く北側の道をあきらめ、川沿いに北東へ進路を変えた可愛美麗。そのまま坂道を登って緑深い里山へ駆け上がる水色あさがお。


さくまどろっぷ●ライブ

「遠くにビルとか、煙突とか見えるから、とりあえず、雑多なところに逃げましょう」

 マップ西側は、商業・工業地帯。狙いどおり、大小さまざまなビルや工場が建ち並んでいる。ただ、道が直線でマス目状なため、交差点に立つと、道路の遠くまで見通せる。

「あれえ。意外と視界が良いぞ。どこかに隠れるか? 逃げ回るか? それが問題だ」


タコさんウインナー●ライブ

「猪突猛進だな、ピンクちゃんは。とりあえず俺は、人気のないところへ逃げよう。あっちに見えるのは、田んぼか? 畑かな?」


可愛美麗●ライブ

「あさがおちゃんは体力あるなあ。あたしはなるべく見通しの良い方へ逃げるよ。牧草地? あれは、牛? 銃とかベストとか落ちてないの? 車が欲しいなあ」


水色あさがお●ライブ

「なんかよくわかんないけど、とにかく逃げよ~」

 丘陵地帯に広がる里山に向かってひたすら駆け上がる。


高崎紫●ライブ

「闇雲に探し回るのは時間の無駄。こんな事もあろうかと、私はマップを読み込んでいたのさ!」

 タブレットにマップを開く。

「このマップの東北東から西南西へ向けて川が流れてる。土地も北東から南西へ向けて下っている。北は里山。東は田畑。南は住宅街。西は商業地区。ざっくりそんな地形だ。シムシティなら10万人が可能。川に橋は、中央と、住宅街と商業地区を結ぶ、南西の二ヶ所だけ。問題は、安全地帯の中心がどこになるか? 開始10分で最初の縮小が始まり、以後10分ごとに合計5回ある。とりあえず、最初の縮小で安全地帯の中心を見極めて、行動を開始しよう」


ピュア・ピンク●ライブ

 !

「行き止まり」

 きょろきょろ、周りを見回す。周りは閑静な住宅街。しかし、人はいない。

「怖い」

 遠くにビルが見える。

「あっちに行ってみよ」

 周りをきょろきょろ見回しながら、早足で道を進む。


水色あさがお●ライブ

 里山の、長い林のトンネルを抜けると、そこは行き止まりだった。

「行き止まりか~。どっちに逃げようかな~?」


可愛美麗●ライブ

 牧草の生える丘に、牛が何頭も放し飼いにされている。

「ここは農場ですね。ここから南西へ向かって下り坂で見通しが良いので、追跡者は見つけやすい。物陰に隠れながら逃げられるかな」


 10分が経過する。バグの声でアナウンスが流れる。

「安全地帯が縮小します」

 マップの東側が、月の弧のように欠ける。


高崎紫●ライブ

「ほう。東側が縮小しましたか。そうすると、弧の形状から逆算して、中心は商業地あたりですかねえ。ここはPUBGの基本に習って、安全地帯に逃げてきた人を迎え撃ちますか」

 紫は橋を渡り、川沿いに東へ歩みを進める。


タコさんウインナー●ライブ

「思いっきり、田んぼと畑だな。見通しが良すぎて、遠くから簡単に見つかるな。安全地帯の境が目の前にあるし、ここは引き返すのが良策かな」

 タコさんウインナーは、来た道を引き返す。


高崎紫●ライブ

「あの赤いの、タコさんじゃね? 安全地帯に逃げてきたのか? 私の勘は当たった」

 身を低くして、道を進む。


タコさんウインナー●ライブ

「ここまま来た道、引き返すと、鬼が来そうだな。ちょっと南寄りの道へそれるか」


高崎紫●ライブ

「私に気がついてなさそう。このまま近づくのを待とう」

 紫は歩くのを止めて、その場でさらに体を低くする。


 紫の近くを、タコさんウインナーが歩いて行く。畑の作物と、高低差が、絶妙に紫の姿を隠す。タコさんウインナーは紫の存在に気がついていない。

「もうちょっと引きつけて…」

 今だ!

 脱兎の如く、畑の中から飛び出す。

「待てー!」


タコさんウインナー●ライブ

「うおっ! 見つかった」

 八本脚をムカデのように動かして逃げる。


高崎紫●ライブ

「待ちやがれ、このタコ野郎!」


タコさんウインナー●ライブ

「待てと言われて待ったら鬼ごっこにならねぇだろう」


 意外と足の速いタコさんウインナー。運動オンチの文化系腐女子漫画家の紫がかなうわけもないが、そこは人の足。少しずつ距離を詰める。

 あともう一息!

 突然、タコさんウインナーは横倒しになって、転がり始める。転がるタコさんウインナーは、坂道を爽快に転がり落ちてゆく。

「ふははははははは」


高崎紫●ライブ

「転がって逃げるなんて卑怯だぞ!」


タコさんウインナー●ライブ

「転がって逃げちゃいけないなんてルールはなーい」

 タコさんウインナーは転がりながら加速し、道の彼方に消える。


ピュア・ピンク●ライブ

 !

「なんか来る」


「ふははははははは」

 と、大声を上げながら、坂の上から転がってくる、タコさんウインナー。

 ピュア・ピンクの目の前を、転がりながら猛スピードで通りすぎ、転がって、川の土手にぶつかって跳ねて、川にドボンと落っこちる。


「な、なんだいまの」

 恐る恐る橋を渡り、川面を覗きこむ。

 ブクブクと泡立っている。

「死んじゃったかな?」

 どっばー! っと、タコが川から顔を出す。

「ぎゃーーーーーーー!」

 びっくりして、脱兎の如く逃げる。



 二回目の安全地帯の縮小が始まる。

 東側はさらに縮小され、マップの1/4が安全地帯外になった。


水色あさがお●ライブ

「やば~。危うく安全地帯外で失格になるところだったよ」


可愛美麗●ライブ

「あっぶな~い。こっちのエリアはどんどん、安全地帯が縮小されていくな。中心は向こうのビルが見える方かな」


 ふたりは突然、出会う。

「あ」

「あ」

「美麗さんだ~! わ~い」

「ちょっと待って! あなた鬼じゃないよね」

「鬼じゃないですよ~」

 あさがおは、美麗の体をギュッと抱きしめる。

「ずっとひとりで心細かったんですよ~」

「そ、そう。ところで、あたしが鬼だったらどうしたの?」

「?」

「…」

「あ! そう言われると、やばかったですね~」

 大丈夫かな、この娘。

「これからどこ、行くんですか~」

「安全地帯が狭まってるから、中心の方に行こうかなって」

「一緒に行っていいですか?」

「いいけど」

「良かった~。あたし方向音痴なんです~」


 あさがおは美麗と腕を組んで、ふたり坂道を下っていく。

 ちょうど、鬼ごっこがスタートした地点まで戻ってきた時、橋の向こうから、紫が歩いて来る。

「あ、みんなおそろい? 私も仲間に入れてー!」

 この時、PUBGで培われた可愛美麗の直感が、心の中で叫んだ。

「逃げろ!」

「え? なんで~」

「たぶん。紫さんが鬼だ!」

「ウソ~。なんでわかるの?」

「勘」


「お~い! お~い!」

 そう呼びかけながら、紫が駆けて来る。

「ほら! 月ノ美兎が幼い頃、下北沢駅前見た、ドラえもんを呼びかける、のびたみたいな声。無害を装っている」

「わかった。逃げる!」

 そのとたん、あさがおは脱兎の如く走って逃げた。

「疾っ!」

「お~い!」

「紫さん、鬼ですよね?」

「なんのこと~?」

「鬼ですよね!?」

「なに~? 聞こえな~い」

 ダメだ、逃げよう。


 走り出すと、紫が全力で走って来る。

 ふたりの距離は徐々に縮まり、ついに。

「タッチ! 捕まえた!」

「マジッスか!?」

「じゃ、次の鬼は可愛ちゃんね。10数えてからスタートだよ。じゃ!」

 満面の笑顔で逃げて行く。


「くそ~。油断した」

 しょうがない。気を取り直して10数えよう。

「い~ち。に~。さ~ん…」


ピュア・ピンク●ライブ

 びっくりして全力疾走した先は、高いビル群の中だ。

「ここ、どこ?」

 恐る恐る、ビルの谷間を歩いて行く。


さくまどろっぷ●ライブ

 とあるビルの中に潜んでいると、ピュア・ピンクの歩いて来る姿が見える。

「ピンクちゃん!」


ピュア・ピンク●ライブ

 !

「だれ?」

 さくまどろっぷが、ビルの中から手招きをしている。

「鬼じゃないよね?」

「大丈夫だよ」

 タタタタっと、さくまどろっぷに駆けよる。


さくまどろっぷ●ライブ

「こっちで一緒に隠れよう」

「大丈夫かな?」

「マップを見ると、安全地帯の中心はこの近くだから、隠れてた方がいい」

「わかった」



 3回目の、安全地帯縮小が始まる。

 東側の限界は、マップ中央の橋まで迫る。


可愛美麗●ライブ

 工場地帯に入った可愛美麗は、建物の影から影へ小走りに移動を繰り返す。

「PUBGだと、建物の中から、安全地帯へ逃げて来た人を迎え撃つシチュエーションですね」

 パイプラインの影。並び立つ丸いタンク。陽炎をなびかせる煙突。遠くから、ゴーという低い音が、止めどなく轟き辺りを包む。

「今はあたしが狙う側だけど、これだけ広いと、建物に隠れられたら見つけようがない。さて、どうしましょう」

 工場地帯と商業地帯の間に、大きな道路が延び、その先に、風力発電の大きなプロペラが何枚も旋回している。

「鬼ごっこで子を捕まえる方法はふたつ。ひとつは、追いかけて捕まえること。しかしこれは、足の遅いあたしには難しい。もうひとつは、奇襲。物陰に隠れながら、子に近寄って、一気に襲いかかる」

 道路を小走り駆けて渡り、ビルの影に隠れる。

「そのためにはまず、獲物を先に見つけなければなりません。つまり、先に見つかっては意味がない」

 ビルの中を、ガラス窓越しに、丹念にクリアリングしながら、先へ進む。


タコさんウインナー●ライブ

 川から河川敷にあがる。

「ゼエゼエゼエゼエ。は~。えらい目にあったな」

 体中に水草をまとって、見た目だけなら怪獣だ。

「ここは商業地区か?」

 ヴォン! とパッド開きマップを見る。

「安全地帯の縮小具合から見ると、この辺が安全地帯の中心ぽいな。俺の姿のまま動き回っても目立つし、さて、どうするか」

 気がつけば、自分は草まみれ。

「これで行こう」

 タコさんウインナーは、河川敷の土を体中に塗りまくり、雑草をペタペタと貼る。

「どうだ! これで俺はこの河川敷に、完全に同化した!」

 見た目だけなら、土まみれに草まみれ。その姿はまさに、草。

「ここでしばらく、身を隠そう」


可愛美麗●ライブ

 ビルの谷間を影から影へ足早に移りながら、人の気配を探す。

「誰もいないなあ。みんな時間まで隠れるつもりなのか」

 ビルの谷間。遠くまで見通せる道路に出る。その先に、川が見える。

 川が見渡せる場所まで来て、河川敷に不自然な物体を発見する。

 それはまるで、海坊主。

「なにあれ? なんかのモニュメント?」

 河原の草に身を隠しながら近づいて、それがタコさんウインナーだとわかる。

「あっはっはっはっはっは!」

 思わず、大声で笑う。

 笑いながらタコさんウインナーに近づく。

「タコさん、なですか、その格好」

「…」

「一瞬、なにかのモニュメントかと思いましたよ」

「…」

「あれ? もしかして、それで隠れてるつもりなんですか?」

 タコさんウインナーの前に立って、頭をポンと叩く。

「そのつもりなら大失敗です。目立ちまくりです」

「マジ?」

「マジで」

「そっかー。いけてると思ったんだけどな」

「全然、ダメです」

「そっか」

「じゃ、鬼、タッチしましたから」

「えっ!?」

「10数えてくださいね。バイバーイ」

 ノシ

「鬼って、マジが」



 4回目の、安全地帯縮小が始まる。

 安全地帯はとうとう、マップ西側の商業地区を切り取る。


高崎紫●ライブ

 息を潜め、安全地帯外から逃げてくる人を待ち受ける。しかし、誰も出てこない。

「みんな建物に隠れてるのか? こうなると、5回目の安全地帯がどの範囲まで縮小されるかが問題になるなあ」

 鬼ごっこなのに、誰も追いかけてこない。つまんない。

「おーい! 私はここにいるぞお~!」

 いるぞぉ…、いるぅ…、いる…

 声は山彦のように、ビルに反射して、静まり返った商業地を、いっそう静かに感じさせる。

「しょうがないなあ。いっちょ引っかき回すか」


「うおおおおおおお!」

 紫は、商業地のビルの谷間を走り回る。

「うおおおおおおお!」

 あれぇ? ホントに誰も出てこない。

「ちょっと! 鬼ごっこなんだから、追いかけっこしようぜ!」

 静まり返った路地から返事はない。

「う~ん。こういう趣旨で鬼ごっこを企画したんじゃないんだけどなぁ」



 5回目。とうとう最後の、安全地帯縮小が始まる。

 安全地帯は商業地の一角を中心に、体感で直径100メートルに縮まる。


「うわ~」

「きゃー!」

 ここまで小さくなると、さすがに隠れていられなくなり、みんながビルのあちこちから跳びだしてくる。

「みんなあ。これは鬼ごっこなんだから、追いかけっこしようぜ!」

「そんなデュエルしようぜ! みたいに言われて素直に出て行けますか」

「そうですよ。負けたらキッツい罰ゲームが待っているのは明白です」

「え!? ちょっと待って。私、そんなこと言った?」

「言わなくても想像できます」

「紫ちゃんならやりそうだもんねえ」

「そ、そんな。みんな、私のことをそんな風に見ていたんだ」

「「「うん」」」

「それで、今、誰が鬼なの?」

 一同、ポカンとしてお互いの顔を見合わせる。

「そういえばタコさんがいないね」

「あたし、タコさんにタッチしました」

「いつ頃?」

「だいぶ前ですよ」

「そんなことより、もう一時間経ちますね」

 残り1分を切る。が、タコさんは姿を現さない。

「負けを認めたのか?」

「迷ってるんじゃない?」

 その時、ビルの谷間に、タコさんの声が轟く。

「ふはははははははは!」

「どこだ!」

「ここだ!」

 はっ!

 全員が上を見る。すると、水草をまとったタコが空から降ってきて、紫の上に落っこちる。

「ぎゃー!」

「ほい、タッチ」

「卑怯だぞ! 時間まで隠れてたんだな!」

「今から10数えて追いかけてくれ。鬼ごっこだからな」


 ヴォオン! とバグが現れる。


「時間です」

「終~了~」

「みんなで記念写真撮りましょう」

「いいですね」

「ささ、集まって」

 タコさんウインナーに潰された紫を中心に、みんなでポーズをとる。


「はい、チーズ!」



 第1回転生組鬼ごっこは、高崎紫の負けで、決着した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る