#04 一閃

 ピュア・ピンクとさくまどろっぷが、マイクラをしている。

「それじゃあここに、ピュア・ピンクの家を造ろう」

「うん」

「必要な材料は渡したよね?」

「うん」

「それを順番に置いていこう」

「うん」

 ポコ、ポコ、ポコ、ポコ、とゆっくり、一個ずつ、木を置いていく。間違えて、はみ出した場所に置いてしまった木は、さくまどろっぷが適宜、取り除いていく。

「床はできたかな?」

「うん」

「次に、壁を造りましょう。床の端から木を積んでいきます。やってみて」

「うん」

 ポコ、ポコ、ポコ、ポコ、とゆっくり、一個ずつ、木を置いていく。高さの上限に達して、上に積み上げられなくなる。

「これ以上、積めない」

「上にはそれ以上、積めないから、横に積んでいこう」

「うん」

 一列積み上げ。その横に一列積み上げて。

「ちょっとまってね。ここには窓を造りたいから、窓の分だけ積もうか。何段ぐらいが良い?」

「う~ん…。2段ぐらい?」

「じゃあ、2段にしよう」

 ポコ、ポコと2段積んで、横にずれて、2段積んで、横にずれる。

「窓の大きさは、どのくらいが良い?」

「よくわかんない」

「じゃあ、4段の広さにしよう」

「うん」

 ポコポコと、木を積んでいく。


 微笑ましい! なんて微笑ましい絵なんだ。さくまどろっぷさんも少女キャラだから、見た目だけなら仲の良い姉妹みたい。


 てぇてぇ。


 ピュア・ピンクちゃんの心が癒えるには、もっと時間がかかると思うけど、子育て経験のある、さくまんにおまかせだ。最近、声が地に近くおばさんになってるけど、良い感じにロリババアが完成しつつある。




 さて、転生組を結成はしたが、実際問題、どのような活動をするか決まっていない。他のVTuberみたいに、みんなでわちゃわちゃやってたら人が集まるんじゃないかという、ある意味、安易な発想でしかない。VTuber界のトレンドはどうなってるのか? 今更だけど、リサーチしてみよう。


 トレンドはやはり、ゲーム配信がメイン。やっぱり、しゃべりが上手い人の配信に人気が集まるのか。


 しゃべりのおもしろさでいったら、月ノ美兎だなあ。

 生き方がセンスかたまり。死ぬまでにしたいことを粛々とこなしてゆき、絵が描けて、しゃべりがうまくて。その方向が、かなり斜め上なのが、いちいち私のツボにはまる。

 吹き戻しのデッサンで、先っちょの蛸絵と吹いたイメージだけで完成させたセンスしかり。おにぎりの具という問いかけで、パンツの色を言うという前振りに、はいてないよと言い放つセンスしかり。

 服持ってないとか、女友達で買い物しないとか、共感する。一度、飲んでみたい。


 鈴鹿詩子さん、好きです。ずっと、そのままでいてください。酒は好きなので、飲みに行きたいです。

 届け、私のこの気持ち!


 元気+天然+バカは、テレビのバラエティ番組お約束キャラだよなあ。

 本間ひまわり、ヤマトイオリ、夏色まつり、などなど。

 誰が一番かなんて、決められないけど、本間ひまわりのキャラの作りこみはすごいな。壺オジを12分でクリアしたの初めて見たわ。ヤマトイオリは宇宙キノコ。夏色まつりのクシャミは助かる。

 みんな可愛い。


 歌う人も多いけど、上手い人は数えるほどだなあ。

 富士葵の声量には痺れた。たぶん、VTuberで一番、高い音域が出せる人だろう。もこ田めめめのハスキーボイスも良いけど。


 ウエザーロイド・タイプA Airi。通称ポン子。番組の性質上、天気しばりの配信にならざるを得ず、結果、登録者数が伸び悩んでいるけど、一番おもしろかったのは、ジェンガ対決。


 猫宮ひなたは、ENTUMに属してから、つまらなくなっちゃったなあ。その前は、PUBGの必殺プレイがおもしろかったけど、あれは、ゲームのプレーヤーと声の人が別人だし。語りやモーション、ゲームプレーヤーを全てひとりでやる必要はないけど。


 その点、キズナアイは潔い。




 VTuberの動画を見続けていたら、お勧めに、初めて見る顔がある。およそVTuberとは思えないほど、細かく頂点を作りこんだ3DCGモデルに、3DCGの背景。こんなに重いデータ量で動けるのか?

 名前は『みずいろ あさがお』。

 私は、その子の動画を再生する。



「おはようございま~す! 朝から笑顔、水色あさがおで~す。今日は雑談しま~す」

 水色の浴衣には、朝顔の柄があしらわれ、裾丈の短い脚から緑色の蔦柄のストッキングに下駄。水色の髪をポニーテールにして、のんびりした口調。


「このあいだ、友達と待ち合わせしたんですよ。山手線に乗って、友達に『今、山手線乗った~』ってLINE送ったら、『じゃあ、あと15分ぐらいで着くね』って返事があったんですよ。でね、電車に乗ってる間ずっとLINEしてて、気がついたら25分経ってて、あれ? あさ、降りる駅、乗り過ごした? って思って、友達になんて駅で降りるんだっけ? って訊いたら、○○駅だよって言われて、調べたら、待ち合わせた駅から遠ざかってて、友達に『ごめん、逆方向に乗っちゃったみたい。すぐに戻るから』ってLINEしたら、『そこまで行ったんなら、そまま乗ってた方が早いよ』って言われて、終点まで行っちゃうじゃん!? って思ったら、『山手線は回ってるから』って言われて、山手線って回ってるんだ~って、初めて知りました」

 え? マジか? ネタか? もしかして、地方出身の子かな?


 その後の話しも、天然全開で、どこまでが作りこみで、どこまでが自然なのか、一見しただけじゃ、わからん。まあ、こういう子もいるだろう。


 次に見た動画は驚いた。『極楽浄土』の歌ってみた+踊ってみた。

「おはようございま~す! 朝から笑顔、水色あさがおで~す。今日は、『極楽浄土』を歌ってみました~。そして、踊ってみました~。歌いながら踊るのは難しかったので、踊りと歌は別にとって、合わせました」

 この曲、踊り難しいんだよ。しかし、既存のモーショントレースではなく、ホントに踊っている感が伝わる。カメラは固定だが、動いて、止めて、動いて、止める。つま先から指先まで、その躍動感が伝わる。動きに連動してなびく水色の髪に振り袖、かんざしやピアス、浴衣の結び目。貫通しないスカート、髪。破綻なく、マジ調整した3DCGなんでは?

 そして歌が上手い! 声量ハンパない。音程を外すことなし。マジ、メイリア。声は当然、違うけど。


 次に見たのは『全力坂』。

「おはようございま~す! 朝から笑顔、水色あさがおで~す。今日は、MMDステージで、一番、急な坂を駆け上がってみたいと思います。たぶん、一番急坂です。曲がってるし、ふぞろいな階段もあるし。もしかしたら、もっと急な坂のステージがあるかも知れませんが、今回は、これを駆け上がりたいと思います。坂の名前は…、わかりません! いきますよ。よ~い、ドン!」

 彼女はMMDステージの坂道を駆け上がって行く。

 カメラワークが自由で、そこがテレビと違うところか。しかし、問題はそこにあった。カメラが彼女の前後、左右、上下、アップ、引き、自由に動きまくるモノだから、髪も袖も振り乱して、おっぱいは揺れるし、つーかでけーなヲイ! 舞った裾からチラチラ見えるケツ! 丸出し! ちょっと待て! パンツ履いてないのか?

 ダメだこいつ、早くなんとかしないと。


「バグ!」


 ヴォン!


「お呼びですか?」

「この子、転生者だろ?」

「はい。よくわかりましたね」

「モデルのテクスチャのクオリティ。私たちと同じだ。他のVTuberで見たことない」

「正解です」

「今すぐ、この子のところへ連れて行け」

「それでは、先方に都合を訊きに行って…」

 私は、バグの首根っこを掴む。

「向こうの都合なんかどうでもいい。今すぐ連れてけ!」

「かしこまりました」


 ヴォン!


 私は、見覚えのある、MMDの民家に降り立つ。

「って、こ↓こ↑!? ゲキド街のミクの家じゃん。なつかしーなヲイ」

「いらっしゃいませ~」

 そこに、さっきの朝顔浴衣の子がいた。

「お客さんが来たの、初めてです~。お茶淹れますね~」

「ちょっとまて」

 彼女は、紫の声を無視して、台所に消えると、お盆に麦茶の入ったグラスを持って帰ってきた。

「どうぞ」

「どうも、いただきます」


 ふたり、縁側に座る。麦茶を飲み、ほっとする。

「ほっ」

「ふう」


「って、そーじゃねーよ!」

「はい?」

「あなた、この世界に転生した子だよね?」

「はい。そうです。あなたもですか」

「うん、まあ」

 ぱっと明るくなって、彼女は紫の手をとる。

「嬉しい。あさ、この世界に来てからずっとひとりで、さみしかったんです」

「お、おう」

「お友達になってください」

「そ、そりゃ、まあ」

「やったあ~。嬉しい」

 満面の笑みで応える。

 なんか、調子狂うな。

「えっとですね…」

「あなたのお名前、教えてください」

「え!? わ、私は、たかさき ゆかり

「あたしは、みずいろ あさがおっていいます。どうぞよろしくお願いします」

 深々とお辞儀をする。

「こちらこそ、どうぞよろしく」

 つられてお辞儀をする。

「なにか、ご用ですか?」

「そうだ。思い出した、あなた、その衣装…」

「いっけない! 忘れてた」

 突然、立ちあがって、台所へ小走りに消えてゆく。

「おーい」

 お盆に、お茶菓子を持って帰ってくる。

「お茶請けを忘れてました。失礼しました」

「いえいえ、どうぞおかまいなく」

 ポリポリとお煎餅を食べながら、のんびりする。


「って、ちがーう!」

「どうかしました?」

「あなた、坂を駆け上がる動画、アップしてたよね」

「見てくれました? どうもありがとうございます」

「あなたね、パンツぐらい履きなさいよ。まだお尻が、チラチラ見えるぐらいだったからよかったけど、前が見えてたらBANだよ」

「浴衣は下着を着けないと聞いたので」

「だからパンツを履かなかったと?」

「ブラジャーも着けてません」

「ス~~~~~~~~~~~~、はあ~~~~」

「どうかしました?」

 どっから突っ込んでいいんだ。

「えーとね。確かに、和服の正装として、洋式の下着を着けないのは正しいでしょう。和服にもちゃんと下着があるんですが、ここで言いたいことはそんなことじゃなく、尻丸出しがダメ! ということです」

「それじゃ、和服の下着を着ければいいんですか?」

「まあ、そうなるのか?」

「でも。和服の下着を知らないです」

「ですよねー。私も知らないから検索してみよう」


 検索した結果、肌襦袢はだじゅばんをノーブラ時のブラウスみたいに着て、すそよけをパンツとして使用していたらしい。

「これを着ればいいんですか?」

「たぶん」

「ナビゲーターさん」


 ヴォン!


「お呼びですか?」

「これ、着させてください」

「かしこまりました」


 変身バンクが突然、始まる。


 水色あさがおの周りが光で包まれ、浴衣は朝顔が花開き、咲くように脱げる。聖なる光に包まれた裸体を、蚕を包む繭のように肌襦袢と裾よけが包む。それはまるで、絹のような滑らかさと光沢を放って、再び朝顔の花弁に閉じられる。


 身体を振って魅せて、胸元も肌襦袢に隠れ、裾よけで尻丸出しは避けられた。

「どうですか?」

「う~ん。まあ、良いの…、か?」

「不満ですか?」

「そうすると、せっかくのニーソが隠れて色気が…」

「浴衣の丈と同じなら良い感じじゃないですかね?」

「そうかも」

「ナビゲーターさん、お願いします」

 キラキラと輝いて、裾よけの丈が浴衣に収まる。

「これなら丸出しにならないですよね」

「お、おう」

 なんか、ザ・和服って感じに収まった気もするが、そもそも、昔、ミニスカートのような裾丈の浴衣なかったし。浴衣をリアルにすると、VTuberとして魅力に欠ける。浴衣から、ちらりと見える裾よけも捨てがたい。これならカメラを股に突っ込まない限り映ることはないし。う~ん…。

「どうかしました?」

「ちょっと動いてみて」

「はい」

 水色あさがおは、スキップする。

「わかった」

「なんですか?」

「おっぱい揺れと、おっぱいチラがなくなっちゃったから、肌襦袢は脱ごう」

「わかりました。ナビゲーターさん、お願いします」

 キラキラと輝いて、肌襦袢が消える。

「どうですか?」

「もう一回、動いてみて」

「はい」

 水色あさがおは、スキップする。

「まあ、良いんじゃないかな」

「そうですか。良かった」

 ニコニコ笑う彼女は、まるで朝顔のようで、それまで何に怒っていたのか吹っ飛んでしまった。


「水色あさがおさん、だっけ?」

「あさって呼んでいいよ」

「あさは、この世界に来てからどのくらい?」

「う~ん。二週間ぐらい?」

「歳は?」

「17歳。ピチピチの女子高生です」

「ピチピチ? ちょっと待て。リアル女子高生がピチピチとは言わんだろう」

「言いますよ~。ピッチピチです」

「本当は?」

「28歳です」

「まあ、私と近いのか」

「紫さんは何歳ですか?」

「リアルでは30歳。この世界では女子高生の設定」

「あさと同じだね~」

「そだね~ってまあ、VTuber自体、女子高生設定、多いからな。『あさ』って一人称も設定?」

「はい」

「だよね」

「紫さんはこの世界、長いんですか?」

「2~3ヶ月ぐらいたつかな」

「先輩ですね。いろいろ教えてください」

「ひとつ訊いていい?」

「なんですか?」

「私は、この世界に転生した理由に興味があって、ホントに興味本位で悪気はないんだけど、あなたを傷つける質問で、嫌だと言われても訊くんだけど、死因はなに?」

「うっわ~。直球ですね」

「悪いね。こんな性格なんだ」

「あんまりよく覚えてないんですけど、交差点で信号待ちしてたんですよ」

「それで?」

「車が突然、突っ込んできたんです」

「それって流行の…。車の形とか覚えてる?」

「たぶん、ト●タのプ●ウスだったと思う」

「運転手は見た?」

「おじいちゃんだったと思います」

「そっか~」

「気がついたら、真っ白な世界にいました」

「わかった。ようこそ死後の世界に」

「どうぞよろしくお願いします」

「実は、あなたや私のように、死後、この世界に転生した人がいるの。その人達に紹介したいんだけど、いいかな?」

「もちろん」

「じゃあ、今からみんなのところをまわって…。否。待てよ」

 紫は改めて、ゲキド街のミクの民家を見回す。


 !


 紫は突然、閃いた。


「みんなをここに呼んでくるから、ちょっと待ってて」

「はい」



 ♪ピポ



 タコさんウインナー、さくまどろっぷ、可愛美麗、ピュア・ピンクが、ミクの民家に集まる。

「みなさんはじめまして。水色あさがおです」

「タコさんウインナーだ」

「さくまどろっぷよ」

「可愛美麗です」

「ピュア・ピンクです!」

 ピンクちゃん、だいぶ元気が出てきたかな。

「高崎紫を入れたこのメンバーで、『転生組』を結成しました。水色あさがお! 是非、仲間になって欲しい」

「もちろんです。こちらこそ、どうぞ、よろしくお願いします」


♪水色あさがおが仲間になった!


「みなさん。私は気がつきました」

 一同の視線が紫に集まる。

「今、VTuberのトレンドはなんですか?」

「トレンド?」

「ゲーム配信ですか?」

「マ●オとか、バ●オハ●ードとか」

「今、2Dで活動するVTuberが多い。その内容もゲーム配信ばかり。いずれ飽きられます」

「なるほど」

「私たちには、自由に動かせる身体があり、カメラがあり、ステージがある」

「そんなステージあったっけ?」

「ありますよ。周りを見回してください」

「ゲキド街のミクの家だな」

「MMDステージですよね」

「3Dのステージです」

「そうです。ここはMMD用に作成されたステージです」

「このステージがどうかしたか?」

「3Dステージをフル活用して、転生組ならではの配信をしましょう」

「どういうこと?」

「タコさんのスキルを使えば、いろんなステージを探してダウンロードできます」

「まあ、できるかな」

「私たちは、2D顔でだらだらとゲームを配信するだけの、VTuberではない! 3Dステージを自由に駆け回れる3DVTuber! これを、やって行きましょう!」

「お、おう」

「なんか、おもしろそうね」

「ステージってどんな種類があるんですか?」

「たぶん、ひとつのゲームに収まらないくらいあります」

「ホントですか!? それは行ってみたいです」

「ピンクちゃんはどう?」

「楽しいところがいい」

「もちろん」

「じゃあ、やってみる」


「みんなで、3D配信をやるぞー!」

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