#02 結成
火星の地表に降り立った風景を想像するとき、あなたなら最初に、なにを思い描くだろう。
赤茶けた砂漠のような地面。赤い空。軽い重力。宇宙服を着ているのは間違いない。でも、それは本当だろうか?
多くは、テレビや映画から得た情報を元にした風景だろう。残念ながら、あなたの見ている風景は、テレビや映画から得た創作でしかない。
気圧が、地球の1%にも満たない大気で、嵐が起きたとしても、何トンもある宇宙船を倒すほどの威力はありえないし、ビニールシートほどの厚さしかない保護シートでも、鯉のぼりより高くは泳がないだろう。
フィクションは、往々にして現実を誇張して表現しがちだ。そのへんをはき違えて人に吹くと、情弱のそしりをまぬがれない。
高崎
「今日はお願いがあって来ました」
「お願い? 叶えられるような頭、無いぜ」
「つるつるですしね」
「そうそう、このつるつるの頭な」
にゅっと触手が伸びて、自分の頭をぺんぺんと叩く。
「一緒にライブ配信、しませんか?」
「ライブ配信?」
「はい」
「それは難しいな」
「嫌ですか?」
「嫌じゃない。むしろやいりたい」
「じゃあ、やりましょう」
「俺のメインデータは火星に遺棄された、探査機たちの中にある」
「え? 地球上にあるんじゃないんですか?」
「メインは火星。バックアップは地球にしてある」
「へ~、そんなことできるんですね」
「俺たちはデジタルデータだからな。デジタルで繋がっている世界なら、原則、どこへでも行ける」
「マジですか? じゃあ、インターネットやりたいほうだいじゃないですか。つーか。ハッキングし放題ですか?」
「ハッキングには技術がいるが、その応用で火星にメインデータを置いているのは確かだ」
「なんで火星に?」
「バグが言ったろ? 俺たちはいつ、サーバーから消されるかわからない。地球のサーバーは、どこもパンク状態。火星上に複数ある探査機っていうのは、データを地球に送っちゃえば、メモリーは意外と空いてるんだよ。それをパラレルに連結して、俺がこっそり住んでる」
「へ~。だから火星人になったんですか」
「人あらざる者になりたかったんだよ。サーバーの隙間を探してたら、たまたま火星に放置された探査機達を見つけた。だからそこに住んでる」
「ウインナーなのは謎ですが」
「そこは洒落だ」
「今、私が見てる景色はリアル火星なんですね」
「おもしろいだろ? 世界最初の火星人は俺だ」
「おもしろいです。その発想はなかったです」
「話しを戻します。ライブ配信は難しいんですか?」
「地球と火星の間には最高で20分のタイムラグがある。ライブ配信は無理だな」
「そうですか」
「ライブじゃなければできるだろうけど」
「妙案ありですか?」
「おまえはどうやって、火星のサーバーまで来た?」
「バグに連れてきてもらいました」
「その逆をやればいいんだよ」
私はポンと手を叩く。
「なるほど! タコさんウインナーが、地球へ来てくれればいいんですね」
「そのとおり」
「それじゃあ、一緒に配信をすることはOKなんですね?」
「もちろん」
「良かった。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「でも、意外です」
「なんで?」
「なんとなく、タコさんウインナーは、ソロプレイ派だと思ったので」
「転生した後に、知り合いなんていなかったから、ひとりでやってきただけよ」
「仲間を見つけようと思わなかったんですか?」
「俺以外に転生している奴がいるなんて知らなかったし」
「最初のお仲間ですね」
「お、おう」
「どうしました? 赤い頭がさらに赤くなってますよ」
「うるさい!」
「なんか、某有名RPGゲームで新しく仲間が加わったSEが聞こえてきそうです♪」
♪タコさんウインナーが仲間になった。
「それでですね、実はここからが本題なんですけど」
「なんだ?」
「私たちが転生した事を『売り』にしたいんですよ」
「なんで?」
「VTuber黎明期は、個性によって人気を博したVTuberがVTuber界を牽引しました。キズナアイや輝夜月、ミライアカリ、電脳少女シロなどの方々です。その後、VTuber全体の人気を押し上げてきたのは、個性的なVTuberを擁し、互いの個性をぶつけ合うことで伸びてきた、芸能事務所的な存在です。『
「だから徒党を組もうと?」
「はい。特に『にじさんじ』が顕著な例です。月ノ美兎の個性的なキャラクターが、他のキャラクターと絡むことで、そのキャラクターを知る。絡んだキャラクターから連鎖的にキャラクターが知れ渡って、人気が出る」
「.LIVEも、シロの力によるところが大きいからな」
「そのとおりです。このまま、バラバラで活動していても、知名度をあげるのは難しいと思います。ならば、私たちにしかないつながり。『転生組』を結成したい」
「そこまで言うってことは、他の転生者を知っているってことだな」
「はい」
「そうだな~」
「ダメでしょうか?」
タコさんウインナーは、にょろんと細長い手を生やして、頭をかく。
「そうだな、やってみるか」
「ホントですか!?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
「それで、他の『転生組』さんたちに、話してあるのか?」
「これからです」
「これから?」
「まず、最初に引き入れるべきは、一番、VTuberをわかっていらっしゃる、タコさんウインナーかと思ったので」
「他のメンバーを仲間に引き入れる算段はできているのか?」
「できてません」
「仲間にできなかった時は?」
「仲間にします。絶対に」
キリ
「なんかよくわかんねーけど、おまえならできそうな気がしてきたわ」
「ありがとうございます」
「行って、説得してこい」
「御意」
「朗報、期待してるぞ」
「おまかせください!」
ノシ
ピンクの部屋にいる。ぬいぐるみ、前より増えてね?
「さくまどろっぷさん、お願いがあります」
「なんだい?」
「一緒に、ライブ配信しませんか?」
「ライブか? そういつはちょっと待ってくれないかい?」
「なんか、問題ありますか?」
「いやなに、前回、あんたと会った時、ロリババアだってあたしのこと、言っただろう」
「はい」
「あれから、いろんな動画を見たんだか、なかなか、キャラがつかめていなくてな」
「まだ、キャラが固まっていない、と?」
「そうなんだ」
「正解の無い世界ですからね」
「自称、小学生、中学生、高校生のVTuberを見てな、キャラがかぶらないように考えれば考えるほど、かぶらないように創るのは難しい」
「毎年、増え続けてますからね」
「人はだいたい、七通りに区別できるという理由から、黒澤明は『七人の侍』を創ったという。七通りを超えているからな。理解するのはたいへんだ」
「すいません。七人の侍見た事ないです」
「映画は見ないか?」
「そういう訳ではないんですが、話題作やアニメ中心でして」
「名作は良いぞ。七人の侍も同人誌であるんじゃないか? 男が七人で斬り合うんだぞ」
「そこだけを聞いたら、絶対にあると思いました」
「それで、ライブ配信の件なんだが、やりたいのはやまやまだが、キャラが固まるまで待って欲しい」
「でも、最初からキャラが固まっているVTuverっていませんよ。最初の配信と今の配信で、キャラが180度変わっているっていっぱいあります。電脳少女シロだって、最初は清楚キャラでしたけど、今じゃサイコパス・シロイルカだし」
「やりながらキャラが固まっていくんだな」
「それでいいじゃないですか。とりあえず出ましょう。その過程で創っていきましょう」
「そうか…。そうだな。出よう」
「ホントですか!? ありがとうございます」
♪さくまどろっぷが仲間になった。
「それでですね、実はここからが本題なんですけど」
「なんだい?」
「私やさくまどろっぷさんを含めて『転生組』を結成したいんです」
「あたしたちの他にも、転生したVTuberがいるんだな?」
「はい」
「いいよ」
「返事、早っ!」
「あたしひとりでやってても、なにも思い浮かばないからね。乗れる船なら乗るよ」
「ありがとうございます!」
「こっちこそ、よろしく」
「ちなみに、他のメンバーはですね…」
「ちょっと待て」
「はい?」
「メンバーは全員、集まってから会いたい」
「なんでですか?」
「この歳にして、人との初対面を、心待ちにする時間を楽しみたい」
「なんかよくわからないけど、わかりました」
「全身集合の時に呼んでくれ」
「了解であります!」
キリ
「それじゃ、全員集合の時に呼びます」
「8時にね」
「8時? 集合は8時がいいですか?」
「わからないなら、いいよ」
「すいません」
「待ってるよ」
「じゃあ、8時に全員集合ですね!」
「いってきな」
ノシ
女の子らしい部屋で、元・男子と話している。もちろん、男子であったのはハードウエアであって、心は女の子。私以上に女の子した、女の子だ。
「
「なに?」
「一緒に、ライブ配信しませんか?」
「具体的に、どのような内容ですか?」
「それはまだ、決まっていません」
「せめて、方向性だけでもわからないと、決めようがありません」
「方向性は決まってます」
「それはなに?」
「ずばり! 『転生組』です」
「転生したVTuberたちと、.LIVEやにじさんじのような団体を作ろうということ?」
「そのとおりです」
「いいですね」
「ホントですか!?」
「是非、参加させてください」
「良かったか~」
「あたし自身、性同一性障害をずっと隠して生活してきて、堂々とカミングアウトしてお話しできる人ができたのは、紫さんが始めてて、凄く嬉しいんです」
「そうなんだ。これからよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
♪可愛美麗が仲間になった。
「なにをやるか、決まっていないんですよね?」
「今、考えてます」
「突然、『転生組』です! って言っても、誰も信用してくれませんよね」
「それな!」
「なにより、死者を騙るのは不謹慎だと、炎上は必至かと」
「はい。私、それやって炎上しました」
「既にご経験済みなんですね」
「おっしゃるとおり、炎上は避けられないのかも知れません。かといって、それを伏せたくもない。なぜなら、私たちは、数奇な運命か、本当にVTuberへ転生したんだから」
「転生した運命は受け入れる。しかし、それが世間には理解されない」
「はい」
美麗は、ポロポロと泣き出す。
「どうしました!?」
「あたしも生前、理解されませんでした。たとえどんなに声を大にして叫んでも、身体は男だけど心は女だということを」
「すいません。辛いこと思い出させてしまって…」
「いえ。大丈夫です。むしろ、紫さんの言葉で、本気でやる気になりました」
「というと?」
「あたしも堂々しようと思います」
「そっか」
さて、困った。
転生組に人は集まった。しかし。それを前面に押し出すと炎上する。かといって、転生した事実は伏せたくない。なぜなら、私たちは本当に生きていた人だったから。
「そうだな、転生したことは『設定』にしたらどうだろう?」
「といいますと?」
「普通のVTuberに中の人がいるように、私たちにも、中の人がいるという『設定』で活動する」
「具体的にいうと?」
「ラノベでは転生モノが流行っているから、その流れに乗って『私たち転生しました!』というノリで押し通す」
「うまくいきますかね?」
「わかりません」
「だいじょうぶでしょうか? 結局、故人を騙っているって、炎上しませんかね?」
「わかりません。がっ! 嘘はつきたくない!」
「そうですね。あたしも、嘘はつきたくありません」
「じゃ、よろしく」
ノシ
マイクラの世界を歩く、高崎紫とタコさんウインナー。
「タコさんの家。マジでタコさんウインナーですね。大きさが全然違いますけど」
「良いだろう? 丸みと赤色を出すのに苦労したよ」
「マイクラの世界は基本、正方形でできてますからね」
「で、『転生組』のメンバーが集まったんだって?」
「はい」
「活動方針は?」
「それをお訊きしたく、今日は来ました」
「おいおい。活動方針が決まってからの『転生組』じゃなかったのか?」
「とりあえず、メンバーを集めてから、やること決めようと思ってました」
「安易だな」
「はい。安易でした」
「入り口、こっちな」
「つま先から入るんですね」
「ホントは口の部分を入り口にしたかったんだけど、あそこまで階段作ると、外観の悪くなる」
「それこそ、お焦げみたいに、黒い階段をジグザグに作ったらよかったんじゃないんですか?」
「そうか! その手があったか。おまえ天才だな」
「まあ、死んでも元同人作家なので、家の間取りは考えましたね。描けはしませんでしたけど」
中に入る。
「中、ほとんど空洞ですね」
「赤い丸みのあるドームを造りたかったんだ」
「うまくできてますね」
「ホント? そう言ってくれると嬉しいね」
「それで、『転生組』なんですが、転生したことを主張すると、炎上するか、たんなる痛い奴になってしまうので、ラノベよろしく『転生しました』という設定でいこうと思います」
「いいんじゃないか」
「ありがとうございます。それでですね、4人でまず、なにをしようかという話しなんですが」
「お互いのキャラクターがわからないと、なんとも言えんなあ」
「一度、みんなで集まりましょうか?」
「それよりも前に、することがあるだろう」
「なんですか?」
「お互いの配信を見ておくことさ」
「そうですね。ねえ、バグ」
「なんでしょう」
「4人のアカウント、交換したいの。やってくんない?」
「それなら、紫さんが既に持っているでしょう」
「なにそれ?」
「自分の端末を開けてください」
手をかざすと、ヴォン! とタブレットが現れる。
「開けたけど」
「お友達リストに登録されていませんか?」
「おお! 今まで会った人たちのIDが載ってる」
「それを、タコさんウインナーさんに伝送すれば完了です」
「なるほど」
私は、タコさんウインナーに、さくまどろっぷと、可愛美麗のIDを伝送する。
「これで動画を見られますね」
「おう。ありがとう」
「じゃあ、ちょっとメンバー回ってID伝えてきます」
「いってらっしゃい」
メンバー間のIDがわかったので、他の三人の動画が見られる。私は、汚部屋に引きこもり、三人の動画を見ることにする。
最初は、タコさんウインナー、君に決まりだ!
「初めまして。私は、火星人です。いずれ、地球を征服するでしょう」
『地球を征服』すると言っている割りには、丁寧な言葉づかいだな。
「我が輩の背後に広がっている、赤茶けた大地が、火星だ」
「嘘だと思っているだろう。地球との通信に時間差はあるが、マジで今現在の風景だ」
「証明の仕様は無いが、我が輩が火星から配信している時なら、つむじ風や、青い夕焼けぐらいなら見せられるだろう」
ボイスチェンジャーで作られた火星人声とあいまって、ネタ感、半端ないが、なんとか火星人の体を演出している。
「まずは、火星に基地を作る」
画面は突然、マインクラフトのゲーム画面になる。
「よし! ここに火星基地を造るぞ!」
いや、それマイクラじゃないですか!
突っ込まずにはいられない。
造りながら話すことは、おっさん口調で、おっさん語り。
「地球を征服する理由はですね、火星には女がいないんですよ。女が欲しい!」
「火星人が地球人の女に欲情するか疑問だろ? いいんだよ。この世界はそういう風にできている」
「地球を征服して、俺好みの女だけ火星に連れてきて、タコさんウインナーハーレムを築く」
このおっさん。最低だw
「最低だと思うだろ? 男なんてだいたいそんなもんだぞ」
「女がいないのに、どうしてタコさんウインナーは生まれたのか? それは、あれだ。昔、火星には水があってだな。そこで生まれた」
「火星探査機がメタンを発見しただろ? あれ、俺の屁だから」
「タコには八本足があるだろう。そのうち二本はちんちんだって知ってたか?」
「それはイカだって? そんなことはないんじゃなイカ。イカ娘の触手にちんちんついてなかったぞ」
「タコは一本だけ生殖器で、精子の入った袋を雌に挿入する。交接腕と呼ばれる。ふ~ん」
「一生で一回しか性交しない? なんだって? マジか」
「たった一回しかできないのか…」
「ま、俺は火星人だから。タコと違うし。見た目はタコに似てるけどな」
ぶれないなあ。そんなところが実に、キャラクターとして立っている。
その他の配信を、チラチラ見ても、実に、おもしろい配信だ。エロおやじ満載だけどw
次は、可愛美麗ちゃんの動画を見る。
「みなさん初めまして。
「24歳。乙女座。身長158センチ。体重50キロ。サイズは上からバスト83、ウエス63、ヒップ88です。ブラジャーはCカップです。血液型はバーチャル型です」
すっげー。ここまで赤裸々に、堂々と発表する女子はいないぞ。発表したとしても盛るし。たぶん、美麗ちゃんが理想とする数字が詰まっているんだろうなあ。
「今日は、あたしの得意なゲーム。PUBGをやりたいと思います」
なん、だと? PUBGが得意だと?
「さっそく、ゲームスタート」
ゴオオオオオと、軍事輸送機が、マップの南から北上して行く。
なんの前触れもなく、彼女は飛び立った。
ジグザグ降下で、すばやく着地すると、周りには何人もの敵が着陸する姿が見える。彼女はすばやく手近の建物に入り、ハンドガンを手にすると弾倉をこめ、窓の向こうに着陸しようとしていた人に向けて数発、撃った。
1キル
早っ!
入り口の向こうに人影を見つけると、姿勢を低くし、入り口から頭を出したり引っこめたり。釣られた人が入り口から部屋の中を覗き込んだ瞬間、ヘッドショット。
2キル
その入り口から出て、落ちている武器や防具を装備しながら、マシンガンを装填すると、家の影から影へ、移動する瞬間を狙撃。
3キル
ここで一旦、家を離れながら、武器をチェック。マシンガンからライフルに持ち替えて、物陰から出てきた人をヘッドショット。
4キル
「これで、ここに落ちてきた人は、だいたいキルしたかなあ?」
隙を見せず、ジャンプしながら物陰から木陰へ移動する。
まったくスキのない彼女は、まさに名ハンターだ。
「車の走り去る音が聞こえたから、落下の最中に目視できた人は、一応、いなくなったはず」
私は口を大き開けて、ただ、
「すげー」
と言うことしかできなかった。
「さて、あたしも移動しましょう」
車を快適に走らせる。道ではなく、丘や林の中を突っ切って行くのは、他人に気取られないためなのだろう。
突然、銃弾が車にカンカン! と弾き、何発か本人にも当たる。
「痛い! 痛い!」
車を止めて、岩陰に隠れる。身体を回復して、銃弾の飛んできたと思しき方角をスコープで探す。
「見つけました」
銃をライフルに替えて、敵が隠れていると思しき、木や草に的を絞っていると、兎の様にぴょんと跳びだした敵を、たった一発。ヘッドショットでしとめた。
5キル。
「さて、安全地帯の中心へ進みましょう」
再び、車を走らせる。
「車は狙われやすいですが、安全地帯まで速く逃げられるので有用です」
その時、また、車に銃弾が当たる。美麗ちゃんは冷静に車を岩陰に止めて、回復をし、撃ってきた方角をスコープで確認する。
「いました」
ライフルを構え、隠れている所に的をしぼって、じっと待つ。安全地帯が縮小されるが、あせらない。逃げたいのは向こうも同じだ。しびれを切らして跳びだしたところをヘッドショットで倒した。
6キル。
いよいよ、安全地帯の中心に入る。そこにまだ6人の生存者がいる。
「ここからは短距離戦ですね」
ライフルをハンドガンに替え、敵が潜んでいそうな建物に、手榴弾を雨のように投げ続ける。
7キル。
パパン! パパン! と銃声が轟くなか、生存者はとうとう、ふたりだけになった。
「一騎打ちか」
相手のいる位置は、だいたい予想がついている。当然向こうも、こっちの位置を把握しているだろう。
「ここからは、狐と狸の化かし合い。突進し差し違えるのも手だが、美麗の好きな戦術ではないので…」
「相手が自分をしとめようと思った時、どんな行動をとるか? それを予測し、そのさらに先を行く。美麗的には、こういった駆け引きが好きなので…」
「相手の行動を読み、撃つ!」
「やりました。今日はドン勝です!」
すげーな。見た目だけなら、おしとやかな美人さんなのに。
次は、さくまどろっぷさんの動画だ。
壁紙やカーテン、ベッドのシーツまでピンクに彩られた部屋に、動物のぬいぐるみがところせましと飾ってある。
「はじめまして。さくまどろっぷです。8歳です」
声は可愛いが、話し方が妙に落ち着いている。
「自己紹介をします。好きなモノは、家族です。お父さんと、お母さんと、お兄さんと、妹がいます」
ダメだ。死んだ年齢と死因を知ってるから、もう、涙が流れそう。
「趣味は、ゲームと、読書と、旅行です」
「ゲームは、ドラクエとか、FFとか、マリオとかが好きです」
「読書は、芥川龍之介とか、太宰治とか、夏目漱石とかが好きです」
「旅行は、韓国とか、台湾とか、香港とか行きました」
8歳にしては、ずいぶんとおとなびた自己紹介だな。
「これからもどうぞ、よろしくお願いします」
って、終っちゃったよ!
初回配信たったの5分。せめて、10分でわかるように作ろうよ。
しようがないか。VTuberなんて知らないうちに、転生したんだろうし。
2回目以降は、普通にゲーム配信。テトリス99や、壺男ことGetting Over It。マリオカートなど。声そのものは8歳だが、中の人が56歳なので、リアクションが悪い。
でも、他のVTuber配信を見て勉強したのだろう。一所懸命さは伝わる。伝わってしまうが故に、中の人おばさんだよねと、見ている人に気づかれてしまう。
実に切ない。
ロリバアアのキャラ。定着するといいな。応援しよう。
さて、予習は終った。皆の準備が整った頃を見計らって、『転生組』発足だ!
それから一週間後、4人は火星の大地に集合した。
「みなさん、準備はいいですか?」
「いいですよ」
「いつでもどうぞ」
「さっさとやろか」
「じゃ、スタート!」
「みなさん、こんばんは。高崎紫です。今日は、大事な発表があります」
紫を中心に、向かって右に可愛美麗。左にさくまどろっぷ。左肩にタコさんウインナーが乗っている。
「まず、同志をご紹介しましょう。まずは、見た目そのまま。子供の頃、みんな大好きだったお弁当のおかず、タコさんウインナー!」
「こんにちは。タコさんウインナーです。単独配信ではわかりずらかったと思うけど、これが俺のリアル体長だ」
紫の肩の上で、ぴょんぴょん跳ねる。
「今まで正体を証さなかったのは、怖かっただけだよね」
「ふん! 俺様が誰を怖がる」
「ほら、怖くない」
紫が手をさしだす。
「怖くない」
ペちょ。
手に唾を吐きかける。
「怯えていただけなんだよね」
タコさんウインナーを捕まえようとするが、彼は紫の肩を右へ左へ逃げ回る。
「今度、ホントに食ってやる」
「目が怖いよ紫」
「次にご紹介するのは、見た目は子供、中身はおばあちゃん。その名は、ロリババアさくまどろっぷさん!」
「こんにちは。さくまどろっぷです。はじめましてのみなさんの方が多いかな? 今、さらっと言ってくれたけど、あたし、おばあちゃんじゃないから」
「目が怖いですよ、さくまどろっぷさん」
「まあ、ふたりとも落ち着いて」
可愛美麗が、ふたりの背を、ポンポンと叩く。
「あたしもはじめましての方が多いですね。改めてみなさんにご挨拶をします。可愛美麗です。24歳。乙女座。身長158センチ。体重50キロ。サイズは上からバスト83、ウエス63、ヒップ88です。ブラジャーはCカップです。血液型はバーチャル型です」
「堂々とした自己紹介。ありがとうございました。そして私。生前は人気同人作家、黒丸墨括弧を名のっていた、高崎紫だ!」
全員、元の位置に並び直す。
「私たちは、現実の世界で一度死に、この世界にVTuberとして転生した、という設定」
「なにそれ」
「私たちこそ、中の人などいない、魂そのものなのです!」
「そうだ!」
「今ここに、『転生組』を結成します!」
パチパチパチと、三人が拍手してくれる。
「結成を記念して、マインクラフトに『転生組』サーバーを作りました。みんな勝手に思うモノを造って、罵りあいたいと思います」
「ドンドン!」
「ぱふぱふ」
「それなんですか?」
「ちなみに、サバイバルモードです。ゾンビにやられないよう気を付けましょう」
「自らフラグを立ててきたな」
「このメンバーで、マイクラ経験者の方、手をあげて」
ノ
ノ
ノ
「えっ! 私以外、全員経験者?」
「それこそ指にタコができるぐらいやったな」
「PUBGと同時進行したら腱鞘炎になりました」
「こどもと一緒にやったね」
「そ、そんな。ゲームなんてやったことがないと思っていた、さくまどろっぷさんまで」
「ファミコン、リアル世代ですよ」
「8歳ですよね?」
「8歳よ」
「ファミコンリアル世代なんだ」
「ファミコンリアル世代の8歳だから」
「ロリババアだな」
「誰か私にマイクラ教えてください」
「俺が教えてやんよ」
「ありがとう。タコさん」
「あたしと美麗ちゃんはどうする?」
「勝手に造っててください」
「了解」
「その前に、リスポーン地点に仮拠点を造って欲しいです。そこを『転生組』の拠点にしましょう」
「OK。俺にまかせろ」
「それじゃあ、材料探しに行ってきます」
「あたしも行ってきます。日が暮れる前に戻ります」
あっという間に作業台を完成させると、日が暮れる前に小屋ができあがった。
そこに、材料を持って可愛美麗とさくまどろっぷが帰ってくる。
「羊毛、手に入ったよ~」
「4人分のベッド、作れるぐらいの量、取れた?」
「問題なしだよ~」
「じゃ、さっそくベッド作るかな」
「あたし、石窯作ろうかな」
「作業台追加しました。そちらの工程にあわせて、道具作っていきますね」
私が一歩も動くことなく、日が暮れる頃には、4人が寝られる安全な小屋ができあがった。
「みんなねるよ」
「おやすみなさい」
「おまえも寝ろよ」
「どうやって寝るんですか?」
「ベッドの横でクリックだよ」
「あ、できた。みなさん、おやすみなさい」
あっという間に朝がくる。
「今日はなにをしますか?」
「おまえは俺とマイクラ初心者講座な」
「あたしは、整地します」
「あたしもそれ手伝うわ。整地しながら木材とか土とか岩とか材料を確保して、日が暮れる前には松明を作りたいし」
「じゃ、そういうことで、解散!」
美麗ちゃんとさくまどろっぷさんは、あっという間に、フィールドへ散って行った。
「おまえは俺と一緒な」
「どうぞよろしくお願いします」
「手取り足取り教えてやんよ」
「いや~ん。言葉遣いがいやらし~。八本の手で私になにをしようというの」
「マイクラじゃヒト型だ」
「触手プレイはお預けなのね」
「ご希望とあれば、マイクラの外でやってやるぞ」
「ご遠慮します」
───中略───
「とりあえず、マイクラを冒険する基本アイテムの作り方は覚えたな」
「はい」
「じゃあ、材料の調達から自分の家を造ってみようか」
「木は斧で切るんですよね」
ポコポコ、ポコポコと、ひたすら木を切る。
「タコさんは、転生前、なにしてたんですか?」
「SE」
「それでコンピューターに詳しいんですね」
「簡単なハッキングができるぐらいまでなら、詳しくなったな」
「それで火星探査機のメモリーに常駐してるんですね」
「あの世界にいて、人として壊れて行くのが実感できた。転生後は人あらざる者になろう思った」
「それで火星人なんですね」
「まあな。そういうおまえは売れっ子同人作家だったんだろ」
「自分で言うのもなんですが、そうでしたね」
「夏と冬の2回、販売するだけで、生活できたんだ」
「できましたね」
「ちょっとしたサラリーマンより良い稼ぎだったんだろ」
「そうでしたね~」
「ちゃんと確定申告したか?」
「しましたよ! 税金払ってましたよ」
「意外だな。ああいうのって、収入の証明が難しそうだから、丸儲けだと思ってたけど」
「壁サークルにはですね、会計士が同席してまして、儲けた額から経費まで全部、筒抜けです」
「ジャンルは18禁BLだろ」
「そうです」
「鈴鹿詩子が好きそうだな」
「あの方はショタなので、私の作品とは若干、ずれますかねぇ」
「方向性の違いって奴?」
「ストーリーより、シチュエーションとエロがメインなのは、合う部分かも知れません」
「そういえば、鈴鹿詩子。ガラス張りの部屋に男を軟禁して愛でる部屋を、マイクラで作ってたな」
「そんなのが作れるんですか?」
「まあ、作れるな」
「作ってみたい」
「まずは基本を学んでくれ」
「かしこまりました、先生」
「どうでしょう先生。だいぶ木材が貯まりました」
「じゃあ、それを加工して、マイクラで生きていく上で必要不可欠なモノを作っていきます。斧やツルハシ、松明、チェスト、ベッドなど、覚える事は多いぞ」
「了解であります」
「日が暮れてきたから寝よう」
「タコさんとふたりきりで寝るなんて、身の危険を感じます」
「マイクラの世界では、セクハラできないから安心してくれ」
「安心しました」
「拠点のベッドで寝よう」
「あ、みんな帰ってきましたよ」
「同時に寝ないと、夜が明けないからな」
「そうなんですか」
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
「首尾はどうですか?」
「上々です」
「美麗ちゃんに同意」
「それじゃ今夜は、皆で寝ましょう」
「おやすみなさ~い」
あっという間に陽が昇る。
「ドラクエみたいにSEはないんですね」
「ゆうべはお楽しみでしたね」
「さくまどろっぷさに言われると複雑な心境です」
「さあ、今日も一日がんばろう!」
「おう!」
それから数日が経過した。
「どうですか、先生!」
「普通に小屋ができたな」
「木造2階建て。屋根も三角にして、バルコニー付き」
「まあ、初めてにしては良くできたんじゃね?」
「もっと手を加えたいですね」
「それはこれから、少しずつ直していけばいい。作っては壊し。壊しては作り込む。それがマイクラのおもしろいところだ」
「ハマっている人の気持ちがわかりました」
「ここまでできたら、あとは自分でなんとかなんだろ」
「そうでね。わからないところがあったら、都度、訊きます」
「OK」
「そういえば、他の方はどうでしょうかね」
「見に行くか」
「行きましょう!」
ふたりで歩いて行くと、遠くに赤い煙突が見える。それは、イチゴが屋根を飾り、白いクリームや茶や黒のチョコレートで着飾った小屋だ。小屋の周りは柵で囲われ、中にはシロや緑、ピンクなどのカラフルな草が生えている。
「いらっしゃい」
「さくまどろっぷさん、これって、もしかしてお菓子の家ですか?」
「正解」
「おお! ホントに食べられるんですか?」
「食べられないねえ」
「ケーキで作ったんじゃないんですか?」
「食材としてのケーキは作れるけど、それで家はできないんだ」
「なんでですか?」
「食材はあくまでも食材として、持ったり食べたり。家は建材でしかできない」
「そうなんですか。じゃあ、この小屋はどうやって作ったんですか?」
「木材や石材を組み合わせて、お菓子の家っぽく作ってみた」
「すっげー」
「素材集めに時間をかけたから、あまり大きくはできなかったけど」
「良いじゃないですか。大きいより、むしろかわいらしいです」
「ありがとう」
「ちゃんとベッドとか、作業台とか、チェストとか置いてるんですね」
「基本だからね」
「暖炉と本棚もある」
「雰囲気」
「これからもっと作りこめそうですよね」
「紫ちゃんならどこを作りこみたい?」
「そうだなあ。家を拡張したい気もするんですが、お菓子の家としては、一部屋で完結してるかな」
「あたしも同感」
「じゃあ、この家はこれで完成ですね」
「そうでもない」
「そうなんですか?」
「マイクラはアップデートごとに、使えるアイテムが、増えることがあるから、それに合わせて、建材が増えたら変えたいところがある」
「たとえば?」
「建材には『向き』があるのね。それを応用すれば、丸太も表現できる」
「なるほど! 丸太小屋ができますね」
「色や柄、質感にバリエーションができれば、ベッドのモコモコ感で壁を表現できるようになる」
「夢が広がりますね」
「広がるね」
「開発者、がんばって」
「それじゃ次。三人で、可愛美麗ちゃんのところへ行きましょう!」
「OK」
「行きましょう」
三人で歩いて行くと、真っ白な海岸線にでる。ヤシの木が生え、三日月型に整地された砂浜に、海の家があり、そこになんと、水着姿の可愛美麗がいる。
「な、んだと。ビーチを造って、海の家造って、あまつさえ水着って」
「いらっしゃい」
「なんだここは! 沖縄か!? ハワイか!?」
水に足を入れる。ちょうど1マス分だけ沈む。走り出すと、1マス分だけ水の中を駆けられる。
「なにこれ!? なにこれ~!! まるで遠浅の浜辺みた~い」
「紫さん。その先は…」
言い終わる前に、紫は沈んでいった。
「紫さ~ん!」
間。
「やっべ、溺れ死ぬかと思った」
「まあ、落ち着いて紫さん」
「へ~。マイクラってこんなのも造れるんだ」
「あこがれだった、女性用水着が着たかったので、それにあうビーチを造ってみました」
「そっか。君は元、男だからね」
「似合ってますか?」
「似合ってるよ。悔しいが私の何倍も」
「紫さんに褒めてもらうと嬉しいです」
「その水着、けっこう、きわどくない?」
「そうですか? 普通のホルターネックのビキニですけど」
「カラフルだね。あたしがこどもの頃はなかった」
「さくまどろっぷさん、今、こどもじゃないですか」
「あたし用の水着、こんど作ってくれない?」
「花柄でいいですか?」
「ひまわりがいい」
「承りました」
「紫さんはどうしますか?」
「えっ!? 私にそれを訊く」
「今のスタイルなら似合う水着が作れるんじゃないですか」
「ああ、そうか。今はナイスバディだったのか。時々、自分の設定を忘れるよ」
「忘れないでくださいよ」
「転生前は、嫌でも鏡で毎日、見てたからね。今は、鏡がないから、自分をモニターに映さないとわからないという」
「鏡、作ったらいいんじゃないんですか?」
「作れるのかな? 今度、バグに訊いてみよう」
「それにしても」
三人の目線が、タコさんウインナーに集まる。
「日焼けしたサーファー?」
「日焼けしたライフガード」
「打ち上げられた死にかけのタコ」
「さんざんだな」
「海の家の中、入っていい?」
「どうぞ」
「海側がオープンになってるんだ」
「海の家ですから」
「フロアにテーブル。海側にキッチンがある。急に焼きそばが食いたくなった」
「焼きそばはまだ、マイクラに実装されてませんね」
「これからもされないと思うぞ」
「タコ黙れ。焼くぞ」
「既に焼かれていますが、なにか?」
「海の家の奥は部屋になってるだ。ベッドがある」
「そこはリスポーン地点なので」
「なるほど。良いね!」
「ありがとうございます」
「タコさんウインナーのタコ家は見たし、マイクラライブ配信は一区切りしましょう」
「OK」
「次はなにしますか? 紫さん」
「次ね~。どうしようか。まだ考えてない」
「またなにかゲームでもしますか?」
「それだとワンパターンになっちゃうからなあ」
「とりあえず、今日は解散でいいかしら?」
「そうですね。解散しましょう。かいさ~ん!」
「おつかれさまでした」
可愛美麗がログアウトしました。
「おつかれ」
さくまどろっぷがログアウトしました。
「決まったら呼んでな」
タコさんウインナーがログアウトしました。
さて、ホントに次はなにをしようか。もっと、転生した事実をネタにしたいなあ。
しばらく、個人活動が続く。
可愛美麗は、ゲーム配信メイン。なにをプレイしても、ほぼ完璧な仕上がりで、見ている人を飽きさせない。
さくまどろっぷさんは、マイクラやマリオの他、料理や裁縫動画をアップしている。ロリが完璧にこなす料理や裁縫の技術に、人気が集まりつつある、ちょっとずつ、ロリババアキャラが定着してきているのかな?
タコさんウインナーは、なんでもありだな。ゲーム強い。特に、最近、発売されたミニファミコン、ミニスパーファミコン、メガドライブミニなどを巧みにこなす。見た目がキッチュだから、低年齢層に人気なのかな?
さて、私はなにするか。昔取った杵柄だ、絵でも描くか。
高崎紫●ライブ
「みんな~! お絵かきのお姉さんだよ~。 リクエストに応えて、なんでも描くよ~」
『ん?』
『ん?』
『ん?』
『ん?』
『今、なんでもって』
『おまえの素顔』
『おまえのマ●コ』
『おまえち●こ』
『おまえのおっぱい』
『乳輪でかい奴』
「さすがみんな、ぶれないな~。BANされたくないので、エロは描きませ~ん。VTuberの先駆者、キズナアイさんでも描きますかね」
キズナアイの全身をささっと縁取って、髪、瞳、胸から腰にかけて服のラインと、腰からつま先へかけてのラインを、スラスラ描いていく。
『うめえ』
『意外とうまい』
『筆速いな』
「キズナアイは、いじると炎上しそうなので、キービジュアルの模写でいきます」
下書きが終ると、髪、服、肌にざっくり色を付けて、顔のディテールを描きこむ。
「アイちゃんの垂れ目はチャームポイントだから、可愛く描いてね~」
ぐりぐり描きこんでいくライブ配信は、煽りが少なくなり、コメントも少なくなって行く。
ピンクのリボンはジャンプに合わせて、片方を跳ね気味、片方を垂れ気味にして躍動感を。髪はふわっと舞っている感じ。シャツも舞ってへそが見える。駆け足だから右手あげて、左足が蹴りあがる。
『さすが、腐ってから死んだ元漫画家』
『プロでもここまで描ける絵師はなかなかいない』
『マジモノだったのか? 転生したって』
服や髪、顔や足など、陰影を付け、ハイライトを入れ、頬はちょっとだけ紅潮させたら、できあがり!
「ま、こんなもんかな」
『88888888』
『88888』
『正直、ここまで描けるとは思わなかった』
『描けすぎて草』
高崎紫●ライブ
このライブ配信が好評だったので、紫はお絵かきライブを続ける。
「高崎紫のお絵かきコーナー」
『ドンドン』
『ぱふぱふ』
「今日はなにを描いて欲しいかな?」
『おまえのア●ル』
『おまえの脇』
『60デニール網タイツ』
「今回もVTuberの先輩でも描こうかな」
『前回、キズナアイだったんだから、今回はミライアカリだろうJK』
「ミライアカリ、あんまり知らないんだよね~」
『輝夜月とか電脳少女シロとかあるだろう』
「じゃあ、輝夜月が『赤いきつね』と『緑のたぬき』をたたき割るシーン」
動画だとイラスト映えしないので、スイカ割りにアレンジしよう。床に赤いきつねがあって、それをバッドでたたき割る構図だな。
カメラは赤いきつねと同じ低い位置。画面の手前に置き、奥へ広がって見上げる構図。
的になる赤いきつねの当たりを大きめに丸くとって、振り下ろすバッドから、身体のラインができる。身体全体を弓なりにして、バッドを振り下ろすのと同時に、勢い余って頭が下がる。叩く勢いで髪と胸と、つま先が跳ね上がっる。頭は下がっても顔は上げて、狂気の目つきでたたき割る。
身体のディテールより、勢い優先。カップ麺が破裂し、血しぶきのように汁や具が飛び散り、狂気の目から光が流れて、バッドの×印はYMCの残像が混ざって虹色に。
『怖いわ』
『狂気だな』
『また古いネタを』
『だが月っぽい』
背景に、つぶれた緑のたぬきでも小さく描いとくか? 蛇足かな。
「こんな感じで、完成で~ス」
『8888888888888888』
『躍動ありますね』
『草』
高崎紫●ライブ
「さて、今日こそ月ノ美兎を描きます」
『嫌な予感しかしない』
「月ノ美兎は、制服しか着てないから、ポーズ映えしないなあ。ムカデ人間にしましょう」
『まて』
『口と肛門をつなげる奴だな』
「誰をつなげようかなあ…。やっぱりJK組かな」
『やめろ』
『楓ファンや静凜ファンに怒られるぞ』
三人を四つん這いにしてつなげる。アングルを低くするとえげつなくなるから、カメラは上から。つなげられて困った感じを表現したいので、四つん這いにした三人を三日月状に並べる。先頭の月ノ美兎のお尻に、樋口楓が口を埋めてクンカクンカしている感じ。樋口楓のお尻に静凜が口を埋めて頬を赤くし照れてる感じ。月ノ美兎の表情は、くすぐったい感じ。「ちょっと止めてよ楓ちゃん!」な気分。
下書きが終ると、制服に色を塗り、三人の表情を描きこみ。
『やめろ』
『それ以上やっちゃいけない』
『同人誌で見たような気もする』
あまり細かく描きこむとグロくなるから、つながってこまっちゃた感が伝わる程度にしておきますか。
「完成で~ス」
『草』
『意外とエロくない』
『三人がお尻に顔を埋めてるように見える』
『これでお尻丸出しだったら薄い本向けだな』
概ね好評なようでなにより。
その頃、ひとりの女の子が転生した。その子はデフォルトの、真っ白な部屋で、呆然としている。小さな身体にランドセルを背負い、長い黒髪に黄色い通学帽を被っている
バグが現れる。
「はじめまして」
「あんた、だれ?」
「転生後のあなたをナビゲートさせていただくAIです」
「ナビゲート? AI?」
「いきなり、こんなこと言って、わかるかな? あなたは死にました。」
「死んだ…?」
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