第2話 前途多難

 取り合えず二人がギリギリ座れるスペースが確保されたリビングで二人の高校生は顔を見合わせていた。

 一方は高校の制服を身にまとった峰崎水樹。

 もう一方はわけあってブランケットを羽織った金髪美少女、水面楓。


「えっと…………それで、水面さんが一か月の住み込みバイトをも押し込んだ雇い主でいいんだよな?」

「はい。違いありません」

「あの…………一応聞くけど、俺は男だけどその点大丈夫なの?」


 一か月住み込み。それはつまり一か月間、水樹と楓は一つ屋根の下で過ごすことを意味するわけで…………それはもう年頃の男女が一つ屋根の下と聞けば如何わしいことが決してないとは言い切れないということ。


「服の山から救って頂いた時点ではあなたのことは信用していました。ですが先ほどの件で貴方への信用の針はマイナスに振り切れています」


 厳しい指摘に肩を落とす水樹。正直なことを言えば、楓の下着を凝視してしまった水樹の自業自得である。


「あの…………今なら担当変えれるけど?」

「それは難しい話です」

「えっと、どうして?」

「レビューではあなたのお店の店員、つまりあなたの評価が星5だったので」


 そう言って楓はスマホ画面を水樹に見せる。

 そこには確かに星5の評価が記載されていた。ついでに水樹の顔写真付きで。

 犯人は明確。あの人を振り回すことを得意とし、それが人生の楽しみと称するバイトリーダー田中恵美だ。


「いや、こんなものいつの間に開設されてたんだよ…………まぁ犯人は分かってるけど」

「というわけで私は、貴方を採用します」

「そ、そうですか…………」


 雇われた以上は断る権利は水樹には無い。故に水樹は今日、この日を持って一か月の間住み込みで高校の女神、水面楓の身の回りの家事を担当することになった。





 水樹が早速取り掛かったのは当然部屋の整理だった。

 今日中に生活ができる程度に整理しないと、そもそも生活することができないぐらいの環境なのだ。ここは。


「あの、水面さんも手伝ってくださいね?」

「了解です」


 そう言って二人は黙々と部屋の整理を始めた。

 水樹はリビングと思われる場所、楓は玄関と思われる場所を担当。


 水樹はそこからは無言で黙々と手を動かし始めた。ごみはしっかり分別しながらごみ袋の中に。

 段ボールはしっかりお折り畳みひもで縛る。

 服に関しては一回一回、楓にたたみ方に拘りがあるか聞くという徹底ぶり。


 そんな水樹の手際の良さ、生活スキルの高さに楓は自然に見入っていた。

 そしてその楓の視線に水樹は気づき、


「あの~どうかした?」

「い、いえ…………想像以上に手際が良くて」

「あ、そう?もしかして小さいころからやってたからかも」

「小さい頃からですか?」

「うん。俺の家って両親が共働きでさ、よく俺って家に一人でいることが多かったんだよ。だから自然とこういう家事が見に着いたんだと思う」

「そうですか。一人でも頑張ってきたんですね…………尊敬します」

「そんなことは…………」


 水樹は手を止め、楓に視線を向けた。

 しかし楓は水樹の思った以上に真剣な顔で水樹を見ていた。それは家事ができるという水樹に対しての尊敬の目線。

 水樹はそんな真剣な楓の眼差しを見て、頬を少し赤くした。

 そして頭を冷やすため再び作業にかかろうと服の山に手を入れた。


 手に納まったのは肌触りのいい優しい生地のもの。


(ん?これは?)


 水樹は手に握ったその触り心地の良い生地を抜き出した。


「こ、これって…………」


 そして絶句。手に持たれていたのは正真正銘、女性用の下着だった。鮮やかな青色の清楚な色をしたパンツ。

 当然会話の流れから派生した行動だったが故に、水樹がパンツを掘り当てた行動は楓にバッチリと見られていた。


「えっと…………水面さん。こ、これはどのようにたためばいいですか?」


 少しの沈黙。

 そしてゴミを見つめる目で


「前言撤回です。あなたはただの変態ですね」

「誤解だ」


 楓は慌てた様子で、水樹の手に持たれたパンツを奪い取る。


「人の下着を掴んでおいて誤解もありません」

「申し訳ありませんでした」


 先に闇しか見えない状況に水樹はため息と同時に肩を落とすのだった。

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