第1話 出会い
放課後、水樹は家とは全く逆の方向へと足を運んでいた。
今日から一か月間家事をするというバイト。当然一か月、一人の人間を雇うにしても相当なお金がかかる。水樹は内心では一体どれほどの豪邸なのかとドキドキしていた。
しかし実際に雇い主の家に着くと、
「ボロボロじゃねーかよ」
そこにあったのは築何十年だろうか、お世辞でも綺麗とは言えないボロボロのアパートだった。
水樹は手元にある店長から差し出された地図を何度も見返す。
しかし地図に書かれた場所、住所は間違っていない。どうやら本当に雇い主はこのアパートに住んでいるらしい。
(本当にここに住んでる人が高額のお金を支払えたのか?)
内心では幾つもの疑問が渦巻く。
水樹はギシギシと揺れるさびた階段を上り二階の201号室手前に立ち止まった。
インターホンは存在しないため、扉を手でノックする。
「あの~なんでも屋の住み込みバイトに来た峰崎です」
そして数秒後、扉の向こうからは返事の代わりに物が崩れ落ちる大きな音が聞こえた。
「ええ!?」
水樹は慌てて扉をノックする。
「あ、あの!ダイジョブですか!?」
「…………」
返事が返ってこない。
水樹は止む負えず扉を開けて部屋へと踏み込んで…………
「は?」
そして凍り付く。
視線の先に広がっていたのは足の踏み場のないくらいに散乱した衣服や折りたたまれた段ボール等々。
まさしく部屋の中は地獄絵図だった。
「あ、あの~」
水樹は恐る恐る部屋へと踏み込む。
元玄関と思われる場所で靴を脱ぎ、両手を使い散らかったものをかき分けながら奥へと進んでいった。
そしてリビングだ
・
っ
・
た
・
と考える部屋に着き、散乱した服の山から伸びる一本の腕を見つけた。
「ああ~!!!」
水樹は慌ててその手を取り、服の山から部屋の主を引き出そうと試みる。
「おもっ!!」
服の重量のせいか結構な力で手を引っ張っても一向に体が抜けない。
水樹は自身の持てる最大の力をもって手を思い切り引っ張った。
そして突如重みが感じられなくなり後ろへ倒れこんだ。幸い散らかった衣服で尻餅もつかず痛い思いをせずに済んだ。
「あ、あの大丈夫です……………………か」
そして声を掛けながら視線を前に向け、今日一の衝撃を受ける。
「ご、ごめんなさい。助けていただいて…………」
透き通るような声で答えた彼女も目の前にいる水樹を見て黙り込む。
「え、えっと…………水面、さん?」
水樹の目の前にいたのはあの高校イチの美少女にしてお金持ちの両親を持つクオーター、水面楓だった。
「えっと…………どちら様ですか?」
その言葉を掛けられた瞬間水樹はその場に崩れ落ちた。
「いや、まぁクラスが隣ってだけで特に接点もないし、知られてなくて当然か」
少しショックを受ける水樹。
一方の楓は自分を服の山から救い出してくれた人間であるためか、あるいは感謝の意思表示かは分からないが水樹に手を差し伸べた。
「その…………ありがとうございます。助けていただいて」
「あ、いえ…………大したことは…………!?」
そして楓の手を取ろうとした水樹が再び凍り付いた。
視線の先にいたのは正真正銘、水面楓という美少女。だが問題はそこではなく、楓の服装にあった。
制服のスカートをはいているまでは良い。だがしかし、それよりも上の服装。ブレザーはどこかに脱ぎ捨てられ、シャツのボタンは上から四つほど外れて、薄ピンク色の下着が見えていた。
水樹の視線、顔が赤いのに違和感を感じたのか楓は自分の体に視線を向ける。
そしてリンゴのように顔を真っ赤にしてその場にぺたりと座り込んだ。
水樹を見つめる目は涙目で、声にも出ないといった感じ。
「み、見ましたか」
「み、見てないです」
「見ましたか?」
流石に二回目は言い訳、言い逃れはできないようだった。
水樹は観念して、
「ご、ごちそうさまです?」
「えっち」
水樹は何故か謝罪よりも先に、感謝を述べた。
だってしょうがないじゃん。男の子だもの。
出会いは最低、不穏な空気が立ち込める中水樹は今日から一か月一つ屋根の下で学校の女神様こと水面楓と生活することになったのだった。
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