3:ベタな出逢いのプロローグ
アカリの部屋は日が差して暑い様だが、
…ましてや、
そんな者達の中で、
「…ぅ?…んん、あさ…朝かぁ…やべぇ眠いんすけど…でも、起きなきゃなぁ…。」
この男、言葉とは
完全に
が…ここで違和感を感じた彼は、再びシーツから頭を出して
「…ン、ウン?…なんか今…」
彼の幼馴染みは、彼自身よりも彼の習性をよく把握している。
その1つが、天井に貼り付けられた大きめのデジタル時計だ。
「8時半!?やべぇじゃん!寝坊した!!」
跳ねる様に飛び起きて、たった30秒程で制服に着替えると、自室のドアを開け放って閉める事は
そのまま廊下を進み、僅か3歩半ほどで階段に到達し、階下に飛び降りる様にして
リビングに飛び込んだところで、幼馴染みのアカリがコーヒーを飲みながら驚いた顔をして見ている事に気付いた。
「アカリっ!ヤバイ、遅刻だ!もう出ないと!
「ぇ、巴先生?雪彦、何か言われたの?ズズ…」
幼馴染みが何故にここまで狼狽えているのか担任との関係から何となく察しつつ、終業式の手伝いでも頼まれたのかしら?位の気持ちでコーヒーを
「説明してる時間はない!お前、自転車だろ?先に走ってるぞ!」
勢いのまま玄関に向かおうとした彼の口に何かがねじ込まれる。
「ふぁにほれ(何これ)?」
「買い置きのクロワッサン。せめてそれくらい
「ふぁんふぅー(サンキュー)!」
そうして、クロワッサンを手は使う事なくムグムグ食わえながら玄関を飛び出した。
後ろでアカリが恐らく戸締まりなどしてくれている気配に感謝しつつ、学園までの最短距離をひた走る。
雪彦にとって運動と言えば球技全般を指す。
小さい頃から決して早いとまでは言えない彼の足だが、中々どうして球技における一番重要とも言えるフットワークや
スタミナも
その他の、
そんな訳で、学園まで走る程度ならば雪彦の場合、例え急いでいたとしても、体力的には正に朝飯前と言えた。
…クロワッサンをムグつきながらであるこの場合、朝飯中と言うのだろうか。
とにかく、そんな彼にとって今の状況は寝起きこそ
そのせいか…学園までの道を3割ほど消化した辺りからは、このままなら遅刻しなくて済みそうだな、とか…案外アカリの飯食ってきても良かったか?いや流石に吐くな…等と考え事に没頭して苦笑を浮かべる程度には余裕があった。
いや、もちろん間違いなく急ぐべき当然の状況ではあるのだが。
そうして考え事を続けていると…何だかマンガみたいなシチュエーションだな、と思ってしまい…つい面白おかしくなってくる。
ついには口元のクロワッサンが小さくなった事も相まって、とうとうこの
「…ちこくするぅうううー!!(笑)」
この男、本当に
が…まさか次の瞬間にもフラグを回収する事になるとは
完全に衝突しなかったのは、運が良かったのか雪彦の反射神経の
…いや、それにしては現実じゃこんな事起きないのでやっぱり仕事しろラブコメ神。
とにもかくにも、具体的に何が起きたかと言えば…ぇ、説明いる?大体分かるよね?ぁ、はい仕事します。
とっさの事で雪彦は何とか身を
かなりの勢いがあった結果として、彼女の体は
そんな馬鹿な…と、この時の光景を雪彦の悪友が見ていたなら、
「…っ!」
女生徒が倒れ込んでくる事、恐らくは自分のせいである事を瞬時に把握した雪彦はせめて
だが、結論から言えば受け止められたと言えば受け止められたのだが…あまりスマートではない受け止め方になってしまう。
食わえていた残り僅かだったクロワッサンが、彼女の頭の後ろを飛んでいった事に気づき「あー、アカリが見てたら怒るだろうなぁ」と場違いな考えに気をとられたのも理由の1つだろう。
だが何よりも、落ちてくる整った彼女の顔立ちに見惚れたのだ。
そのせいで、格好良く胸の上で彼女の頭を受け止めるつもりが…
別の意味での覚悟までは決める間も無く、その事に気づいた正に
…雪彦の
この時、雪彦は間違いなくもう1つファインプレーを見せていた。
…しかし同時に、それが原因でこの
そう…この時、雪彦はせめてもの抵抗と言わんばかりに首を捻り、ギリギリ彼女の顔が落ちきる直前に左腕を彼女と自分の間に差し込んだ。
不幸な事に、いや
…あたかも雪彦の頬に口付けたかの様に。
もう僅かに雪彦の左腕に筋力があれば、違う結果となったろう。
…あるいは、ほんの少しだけ万有引力が弱かったなら。
…もしくは、いっそ雪彦の頭上を越える位置に彼女の顔があれば…いや、それは
…
正に奇跡、やっぱりラブコメ神は仕事し過ぎだろ。
どうやらそんなラブコメ神は粋な事に、もう1つ仕事をしてくれたらしい。
ーーーキキィッ!!
Q,何の音でしょう?
A,アカリの自転車がブレーキを掛ける音
正解!もれなく正解者には
「ぁ…あんた、何してんのよぉっ!!」
こうして、雪彦の終業式当日は修羅場から始まったのだが…これが一人の少女の
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