第46話 おじさん




♡このイベントは音楽フェスでないから、漫才、落語、手品、素人の一芸など、そうだね、まぁ、万人が受け入れられる構成になっているの。


 漫才が終わり、落語が終わり。beni5が登場する4時まであと2時間。マキノは竹生から100キロ圏内をこちらに向かっているの、この調子だと、開演15分前には入れそうな感じで。


 その間に最前線本部と化した控え室で、あさひ達が慌ただしく各部門に、指示を出しているの演者なのにね。アイドルを通り越して働く集団だったの。


 冒頭から流している動画のアクセスも50万を超えて、beni5が登場するのを首を長くしてまっているわ。広告収入も150万円を突破してまずまずのすべりだしみたい。♥





「あの、あさひさん、ちょっといいかな?」


「近江さんいかがされたのですか?」


「ちょっと話したいことがあって。今言っておかないと、この先一生話せないとおもって。」





♡あさひたちの裏方の仕事を見ていた近江舞子。beni5のメンバーがまるでテレビの裏方みたいに忙しく指示していたんだけど。思うことがあって声をかけたのね。♥





「すみません、あの、やっぱりお仕事を続けてください。」


「あの、何かあるんですよね。さっきも何かおっしゃられたそうでしたし、お話いただけませんでしょうか。こちらは他のものがしますので。」


「あの、伊賀。ちょっとこっちで指示できないからそっちで受けてくんねーか?ああ、沖縄の連中も使ってくれ、伊賀にしばらく指揮をまかせるわ。」





♡近江の雰囲気に機転を利かせていぶきが東京本社で指示をしている伊賀にこの後指示を引き継ぐように言い渡したの。

 いぶきが場の空気を読んで指揮権を東京の本部に戻したんだ、ビジネスモードならこんなに気が効くんだ、いぶきって。♥





「近江さんなんでしょうか?」





♡このあとメンバーたちは長浜社長の本当のことを知ることになるの。近江はその重い口を開いて語り始めたわ。♥





「私は高校を出てから、しばらく小さな楽団でお仕事をしていました。

私のちっぽけな収入と母のパートの収入をあわせてやりくりしていましたが

今よりも収入が増えるからと言われ前の社長に演歌歌手にならないかと誘われて楽団を退団し、修行として場末のスナックや量販店などで歌を歌っていました。

 とても待遇も悪くて衣装代や交通費などを引くと手元には数千円しか残らない毎日で。」



「ジリ貧になってくすんで行く私、悪いことが続き母も病に倒れて、頼るものもなく絶望の淵においこまれていたのです。そんなある日、私の元に長浜社長がお見えになって、母の治療費も合わせて私を援助してくださったのです。

 もちろんそんな関係ではなくて……純粋に助けてくださったのです。

歌のレッスン料も長浜さんが出してくださいました。」



「社長がそんなことを。知りませんでした。」



「なんの関係もない私を援助してくださる長浜さんに理由を聞いたことがあります、わたしはその時に真実を聞きました。

わたしの本名は、あらた舞子。そう、あさひさんと同じ名字です。


 じつは、あさひさんと、わたしは従姉妹の関係なんです。それを長浜社長は教えてくださりました。」


「えっ、そ、そ、それって、どういうことなんですか?」





♡母を亡くして天涯孤独だとおもっていた、あさひなんだけど。しかし舞子のその言葉で同じ血族の人間がいることを知り気持ちが動転していたの。♥





「私の母には妹がいました。つまりあなたのお母さんです、叔母はとある資産家の方と恋仲におちました、そこで一人の女の子を出産したのです。それは決して明るみに出ない恋の果てに生まれた女の子。それがあさひさんあなたなのです。」


「ちょっと、まって、お母さんのこと知ってるの?、ねぇ、近江さん。おしえて。ねぇ。」



「ごめんなさい、私はあなたのお母さんには直接会ったことがないのです。」



「そおですか・・・・」



「人気絶頂だったbeni5さんをプロデュースしていた長浜社長は、私にそっと彼自身が辿ってきた生涯を伝えてくださいました。

 すでにその時もう病が進んで手がつけられずに先が長くないと自覚されていたようです。だから、本当のことをわたしに伝え、そしていつか、あなたに話して欲しいとおしゃってました。」



「だから、あのとき、社長よくいなくなっていたのか。。。」



「長浜さんは、京都の出身で、お家は地元でも有名な商社のご子息で

 そのお父様が亡くなり、遺言にそって長浜さんの兄がその商社を父から引き継いだそうです。兄は会社を独占するために長浜さんを半ば追い出す形で、アメリカに留学させたとおしゃってました。



 彼は前々から兄の性格ならそうなるとわかっていたようです、長浜社長はアメリカの大学を卒業したあと、現地で情報を扱う職に就きました。



 向こうで日系の女性と結婚して二人のかわいい娘さんを設けて幸せに暮らしていたそうです。娘さんは日本のアイドルが好きで、よく当時人気だったアイドルの真似事をしていたそうです。



 そして、長浜社長は会社から独立してアメリカで自分の会社を立ち上げられました、会社が軌道に乗った頃。あの事件が起こったのです。

 9月の朝、奥様が娘さんたちを連れてニューヨークのワールドトレードセンターの展望室に遊びに出かけられました、そして。



 残念ながら、ご家族は卑劣なテロによってに命をおとされたのです。長浜さんはなんども自ら命を絶とうとしました。でも、目の前にアイドルの真似をしていた娘さんとそれを見ている奥さんの残像が消えなかったそうです。」



「しゃ、社長にそんな過去があったなんて。だから日本で調べてもでてこなかったんだ!」



 「失意の中、さらに運命が長浜社長を苦しめます。兄の商社が経営の失敗で会社を乗っ取られてた挙句に、借金を背負わされ兄が自ら命を絶ったと聞かされて。それと同時に、妾としていた叔母との間の女の子がいるって。」



「叔母は子供産んで2年後に亡くなり、援助を切られ、残されたその子はたらい回しに遠縁を転々と、やがて施設に落ち着いて高校生になっていると。社長はその女の子をずっと探していました。そして、アメリカの会社を知人に売却して単身日本にやってきたのです。」



「社長はその女の子に自分は叔父だと伝えられませんでした、それは父と同じくいつ発症するかわからない難病をもっていたからです、だから、あなたに生きていく術を与えようと生きていく上で大切なパートナーを集めました。」



「それって、俺たちのことか。。。」



「そうです、実際、あなた達は自分で会社を起業して経営しています。普通に想像しても、あなたがのようなエキスパートが揃うなんてありませんよね。全部、長浜社長が長い時間をかけて調べつくしてあなた達を選び、生きていく知恵を贈っのです。」



「ソンナ、全部社長ハ計算シテイタナンテ。」



「おしゃってました。野球場で、あさひさんとマキノさんを見たときに、亡くなった娘さんを思い出したって。もう一度生きてみたいと思ったって。」




【最高の人生やった。ほんまに、わしは君らにええ夢をみさせてもろたわ!】




「何が直感でビビッときたよ!いい加減なことばっかり言って。私たちに宝物ばかり残して。ちゃんとお礼もさせてくてなかったのに!社長、社長のバカァ!

ああああああああん!」




♡泣きじゃくるあさひをそっと舞子がだきしめたの。♥




「ごめんね、本当のことを言い出せなくて。でも信じて、あの人は、おじさんは、わたしたち、そして、みんなのことを本当に愛していたの。」



「うん、社長!私たちにいっぱい幸せをくれてありがとう!こうやって意思を引き継いで、会社を起こしたよ。ぜんぶ社長が教えて残してくれたことだよ。」



「舞子さん、ありがとう、わたし。嬉しい!わたしにも血縁がいたんだ。それだけで嬉しい!」



「わたしもよ!こうやって元気な従姉妹がいてくれて。」



「あの、これをあなたに贈るわ。母が妹さんと二人で撮った写真、つまり、あなたのお母さんよ。」




♡舞子は懐からセピアになった一枚の写真をとりだしてあさひにてわたしたの。そこには、舞子とあさひに似た女性二人が笑顔で写っていたわ。そう。あさひに似た女性こそあさひのお母さんなの。あさひは自分の母親を初めて見て今までの感情が一気に解放されたわ。♥




「おかあさぁあああああああん!」




♡今まで謎が多すぎた長浜とbeni5の関係。時代に隠されていた本当のことが舞子の口から伝えられたの。メンバーはあさひを抱き囲み、あさひの念願だった母親との出会いを喜んであげていたわ。


 そしてこちらに向かっているマキノなんだけど、ちょっとトラブルが起きていたんだ。♥

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