第45話 百年祭




♡朝9時、役場では夜通し一夫が驚異的な精神力を発揮し、人間の持てる全ての力を総動員して様々なタスクをこなしていたの。


 そのころ役場から2キロ離れたイベント会場では、午後からのイベントのために莉央がマイクテストをしている。そこにあさひたちが莉央を見に来たの。♥





「莉央!マキノが見つかったって!だから、安心して」


「ほんと、姉さん。マキちゃん無事なの?」


「ああ、彼氏が奇跡的に見つけたみたい。」


「ほんと、優ちゃんが。」


「マキノの彼氏、本当のヒーローになっちゃったね。」


「うん、優ちゃんは、マキちゃんにしか似合わないよ。」


「そうだ、莉央の親父おやじ、必死に祭の裏方やってる、私たちが飛び込みでライブするために、大幅に変更になったことの進行の問題解決、交渉を一手に一人でこなしているよ、たいしたもんだわ。」


「でも、私、許せない・・・」


「だと思って、莉央のために一発殴っておいた。派手にひっぱたいてやったから、左の頬が腫れちゃった、それで親父を許してやってくれない?

 いま、その罪滅ぼしに必死に裏方をしてるみたいだから。

ちゃんと日吉さんも男のけじめを見ていてくれてたから、あとで聞いてみたらいいよ。」


「わかった、姉さんが言うなら。おとうさん、がんばってるんだ。」


「うん、かなかかっこよかったよ。 だからもう何も悩むことは無いでしょ莉央、今度はあんたが輝く時だ、思い切っていきな!私たちは幕袖にいるから!

本当の莉央の仕事をみせてちょうだい!」


「姉さんありがと、思いっきりやってみる!そうだ、マキちゃんがみつかったって、聖也さんに電話しておこっと」


「聖也ってだっれ?」


「ん?誰だろ?」


「もしもし、莉央です、聖也さんマキちゃんが見つかったって、そちらの進行はどうですか?」


「えっ、寝ていないの。そっかぁ。マキちゃんの捜索もあったからね。無理しないように頑張ってね。こっちが終わったら応援にいくね。」


「うん、姉さんあっ、あさひさんもいるよ。えっ、変わろうか、わかった。」


「はい、あらたですが。どちら様でしたでしょうか?」




♡電話口の男の言葉はひどくなまっていたわ。♥




「オラだよ、オラ、虎姫だ!イベントはそっちに任せですまねぇなぁ。あさひたちならやりきってくれるだろ。頼むわ。」


「あんた!何言ってんの!この祭りの総合プロデューサーでしょ!ちょっと、こっちも手伝いなさいよ!」


「あっ、姉さん。マキちゃん捜索の件で、今晩の街並みライトアップが大幅に遅れてるの。みんな一睡もせずに設置してるから。」


「あっ、なんでもない。わかったわ、イベントはこっちで回しておくから、そっちをちゃんとしなさいよ!」




♡そして、あさひからスマホを渡してもらうと。♥




「聖也さん、本当に無理しないでね。終わったらすぐ行くからね。うん、またね。一緒にライトアップ観に行こうね。じゃぁばいばい♡」


「ちょちょちょちょ!ちょっとぉ、なに、あんた虎姫と付き合ってんの?」


「違いますよ、憧れてるだけです。」


「ああ。そうなんだ。まぁ、いいか今は保留にしておこう。」


「とにかくこっちはウチらが回すよ!」


「おー!」




♡ここに来て色々とびっくりすることがあるけど、そんな事も言ってられないわね、最後の最後なのに。。。


 今朝の日の出で私の1500年の修行は終わったの。私の後継神が決まるまでのしばしのあいだ、このお祭りがどうなるか見届けてから高天原に帰ろうとおもっている。

 あなたたちには見えないんだけど、祭に誘われて精霊たちが集まってきているわね。あっ、あのカッパの子が父親におんぶされて会場にきているわ。きっとみんなお祭り好きなのよ。そんなこんなでこのイベントのキーパーソンの近江舞子が現場入りしたの。♥





「近江舞子さん入ります!」




♡午前11時、あと開演まで1時間と迫った控え室に近江舞子がやってきて。あさひ達が楽屋挨拶に行ったのね。まぁ小さな控え室だけど。♥




「近江舞子さん。今日は突然私たちのライブをねじ込んでしまってすみませんでした。」


「あっ、あさひさん。beni5さんでお揃いですね。こちらこそ挨拶にもお伺いできずに……。」




♡そう、実は、beni5のほうが近江舞子よりも結成が古いの、つまり、芸歴が長く先輩ってことになるのね。♥




「いえいえそんな丁寧に。挨拶いただいて、恐縮です。」


「beni5さんはリハはもう終わったのですか?」


「いいえ、ウチはぶっつけ本番になりそうです。スタッフが足りていなくて、もうバタバタで、なんなら、アカペラになるかもしれませんが。」


「ほんとに解散しちゃうの、勿体無い気がするけど、でもこれがケジメね、ちゃんと私に見送らせて。」


「そう言っていただけると、ありがたいです。」


「あの、マキノちゃんだっけ?見つかったの?」


「よくご存知ですね。早朝に見つかったそうです、ただ、能登にいるらしくて、間に合うかどうか、微妙なんですが。」


「そうなんですね。じゃぁ、わたしと変わりましょうか?」


「だめですよ、近江舞子さんは、のこイベントのトリなんですから!」


「ふふふ、わかりました、でも何かあったら言ってください、だって、長浜社長の愛弟子のみなさんですから。あの、あさひさん、。。。いいえ、なんでもないの。お互い頑張りましょうね。」


「はい。わかりました。」




♡そして12時にイベントが始まったの。8月にしては、適度に雲があって、涼しくて最高の天気になったね。マイクを持った莉央がステージに上がっていくと、会場から大きな拍手が舞っているわ。♥




「みなさん!お元気ですかぁ!竹生町の町政百周年、おめでとうございます!

はい、わたしは伊香蝋燭いかろうそく店の娘、竹生育ちの伊香莉央です!


 みなさん拍手ありがとうございます。こんなに沢山の人にあつまっていただいてほんと感激です。


 そして、この百周年に合わせていま、ここで、地域ラジオBレイディオが開局いたしました!


 はい、こちらは、黒壁町をキーステーションに、竹生、日牟礼のサテライトスタジオ、そして各鳩マートからお届けしています。インターネットでも同じ放送がきけるので、パソコンが近くにある方はそちらで聞いてくださいね。


 すごいいい天気ですね。こんなに晴れてるのに、ちょうどよく雲の太陽の光を和らげてくれて、絶好のイベントびよりですが。………




♡正直莉央がここまでうまく話せるなんて私も思っていなかったわ。会場内の雰囲気をあっという間に掴んでしまって、うまく進行しているの。物怖じせずにマイクに自分の声を乗せている姿についみとれちゃうなぁ。


 きっと、地道にレポーターの仕事をしていたから、言葉が自然につむぎ出されるんだよ。それにマキノにもらったいい言葉をお守りにしているから。


 そう、その頃マキノはというと。こちらに向かいながら優作様と車の中で話をしているね。♥




「じつは、あさひさんたちが、ネットのうそを早めに正すためにこの企画を提案してくれたんだ。急遽のことだったんだけど、実行委員、役場、商工会、町民、そしてあさひさんの会社の人までスタッフとして変更に対応してくれているんだよ。」


「うん、すごくうれしい、でもあさひたちは社員旅行まで削ってきてくれたなんて。」


「電話でいってたよ、マキノが背負った十字架をみんなで背負いたいんだって。」


「あさひのばか。」


「ねぇ、マキノその十字架をおれにも背負わせてくれよ。」


「優くん。」





♡車は再び高速に乗って竹生に向かっている、ギリギリ3時のbeni5の公演には間に合いそうだったので、サービスエリアで食べ物を買いに入ったの。マキノはトイレに駆け込み、崩れたメイクを落としてすっぴんになる、そしてベースメイクだけして出てきたの。♥





「あれっ、マキノ顔が白いよ。」


「ごめん、恥ずかしいから、あんまり見ないで。時間がないから後は車でメイクさせてもらってもいいかな?」


「わかった、じゃぁ、後ろの席に乗るかい?」


「うん、優くん大変だろうけど、運転おねがいしてもいい?」


「まかしておいて!」





♡マキノのバッグの中には、大阪でスタジオ撮影した時のメイク一式が入っていたの、バンの後部座席でメイクをしていくマキノ。優作は揺れないよう車を慎重に走らせていたの。♥





「できた!優くん運転かわろ、優くん寝てないんでしょ。」


「平気だよ、ミラー戻すね。」





♡優作様がルームミラーを見ると、そこには綺麗にメイクが仕上がったマキノがいたの。あまりの綺麗さに優作はちょっとドキドキしてるね。


 それもそうか、普段はすっぴんみたいなもんだもんね。まるでシンデレラの変身みたい。♥





「大丈夫だよ、それよりさ、観光船の事故の時も二人で朝を迎えたね。なんか懐かしい気がするよ。」


「うん、あの日も優くんかっこよかったよ。」


「おれも、あの日もマキノも今のマキノも綺麗だよ。」




♡あーあー。なんでもいいけどさ、いっぱい惚気のろけてちょうだいよ。♥

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