第10話 キャラ変




♡弁護士が遺書を読み上げると、社長らしい気を使った文章に泣き笑いで

ただ、あさひだけはまだ笑顔が作れなかった。


 仕事は虎姫が回している、なんとか社長のつながりで仕事はもらえているものの仕事量が減っているのも事実。


 なにより、あさひのモチベーションが上がらなくて、虎姫は起死回生の策をメンバーに投げかけたの。♥





「ねぇ、ちょっと話があるんだけどさぁ、最近beni5以外にもアイドルグループが林立してきてさ、このままじゃ、埋まってしまうと思うんだよね。」


「そんなことわかっているわよ!」





♡あさひは二つ返しに虎姫に強く言葉を返したの、あさひの中には社長とメンバーの二人三脚で創り上げてきたことを誰よりも強く思っていたわ

 でも自分でもせっかく社長が残してくれたグループをうまく元にもどせないジレンマもあって、すこし塞ぎがちになっちゃたんだ。♥





「そこでだよ、今のメンバーの一人を毒舌キャラになってもらい、メンバーがフォローするっていう形にして新鮮さをアピールして注目させるのってどうかなって思って。」




♡虎姫は突飛とっぴもないアイデアを出してきたの、いままで出来る限りいい子ちゃんの面だけを押し出してきたbeni5だけど、それも行き詰まってしまってるし。あさひを除く四人はそれもいいかもと思い始めていたの、そして。その役を。♥




「ぼくは、マキノちゃん、がいいとおもうんだけど、失礼な言い方してごめんねマキノちゃんはチームの中では居ないと困るメンバーだよ


 みんなを繋ぎ止めてくれているのはよく知ってるし、でもステージに上がと

みんなの陰に隠れてしまって、キャラが立ってないし、マキノちゃんが毒舌キャラで古いbeni5のイメージをぶっ壊してくれたら、再ブレイクすると思うんだ。」





♡この言葉にあさひは腹の底から怒りが湧き上がってきて、虎姫の胸元を握って築き上げたの。♥





「ナニ言ってんの、てめー!マキノにそんなことさせられるわけねーだろ!」



「あさひ手を離して、虎姫さんもあたしたちの事を考えて言ってくれてるんだし、あたし、グループがまた人気でるなら、がんばってみるよ。」



「バカ!マキノまで何言ってんだよ!、あんたにできるわけねーだろ!、ごめん、そおいうことさせたくないんだよ、きっと辛い事がマキノを苦しめる事になるから、だから考え直せ!」



「いいよ、あさひ、ここまで頑張ってこれたんだ、あるよ。」


「心配すんな、あさひ、俺たちがマキノの味方だろ。何があってもさ辛さも分け合おうじゃん!」





♡いままで、社長やあさひに従ってきたメンバーが、自分たちの意思でこの先の事を選ぼうとしている、あさひは自分だけが一番このグループを愛していると奔走してきたのだけど、各局、みんなそれぞれグループの事を思っていることを再認識したの。♥





「わかった、でも、マキノが辛くなったら、元にもどすわよ!いいね。」


「心配しないでよ、あんたたちがいるから、あたしはがんばれるんだから。」





♡マキノが毒舌キャラになって、テレビに登場すると物珍しさが引き立ってグループはプチブレイクをしたの。

 濃いメイクに、ひとを刺すような毒舌、毎日無理して頑張るマキノ。メンバーも陰で支えていたんだけど、次第にその鮮度も消費されていったわ。


 マキノが苦しんだ毒舌キャラだけど、もう使い古されたみたいに。仕事も減って行ってめっきり露出も減り、グループ解散の噂が流れたの。

その原因は無理してbeni5のバランスを崩してしまったと。


 インターネットの掲示板にはマキノをバッシングする書き込みばかりになってしまったの、各々それぞれマキノに対して憎悪をぶつけて、目に見えない闇はどんどん大きくなってしまったの。挙げ句の果てには殺人予告まで。♥





「もういい!マキノ。もうやめて!あんた壊れちゃう、おねがい、もういいよ!」





♡日に日に表情から笑顔が消えていくマキノを見てあさひがもう無理しないでと泣いてせがんだの。スキャンダルが広がり、勝手にトラブルメーカーにまつり挙げられてしまったマキノ。そして仕事もとうとうなくなってしまい。ホームページで活動休止が宣言されたわ。


 それから、その責任をとって虎姫が退職したの。もう、悪名の方が大きくなっちゃって営業ではどうしようもない状態になったのね。表にも出られなくなったマキノは寮にこもってしまって、でも、仲間がマキノを励まし続けたの。

 できない料理を頑張ってみたり、マキノが好きなケーキショップのケーキを買ってきたりと。できるだけマキノを世間の情報から遠ざけてね。♥





「味噌汁てどうやってつくるんだ?」


「オサカナ焦ゲチャッタ!」


「ケーキ買ってきたよ、マキノ食べよ。」





♡いままで、みんなの愚痴を聞き、そして、笑顔で美味しい料理を作り続けたマキノに対してみんな心から昔に戻って欲しい、マキノの代わりに自分が悪役を受ければよかったと自責の念をおさえながら。

 社長がのこしてくれた、このマンションと、事務所。そして結婚支度金を使いながら5人で暮らし始めたの。


 そう、それから3ヶ月東京は今年一番の寒波におそわれて、外には雪がちらちら降り始めていたの。クリスマス色の染まった街の足元に白いベールが覆われて、一晩で都会の汚れたものを全部上から覆い隠したの。


 真っ白な綺麗な東京は、マキノの気持ちをいやしてくれたわ。

いま、自分を支えてくれている4人が最高のプレゼントだって。……いつものように夜中まで飲み明かしてみんな雑魚寝で寝てしまったわ。そして朝が来て。♥





「クンクン、何カイイ香リデス。」


「おはよ、みんな、長いことごはんさぼっちゃってごめんね。今日からあたし頑張る。もう平気だよ。」




♡4人が目をさますと、懐かしい、味噌汁の香り。いつもの朝が戻ってきたの。4人は楽しそうにキッチンに立っているマキノを見て嬉しくて泣いているみたいね。♥




= = = = = = = = = = = = = = = = = = = = =




「ちょっと、おばあちゃん、泣かないでよ。」


「ほんなん、言うたって、マキノちゃんがかわいそうや!」


「大丈夫、だってみんながあたしの薬になってくれたんだもん、だからあたしは平気なの。」


「ほんまは、みんなのとこに居たかったんとちゃうのんか?」


「そんなことしたら、おばあちゃん、日吉さん、永吉さん、協会のお姉さん、実行委員のみんな、莉央、優くん、そして、またお母さんにも会えなかったもん。」

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