第03話 スカウト
♡夏休も残すところあと3日、二人は連日ドリンク売りに精を出している。
二人が担当している外野席ではひっきりなしにドリンクが売れていくの、タンクを交換してもあっという間に無くなって………。
とくにあさひの売り上げはすごくて、1週間で例年の8月の売り上げを軽く超えちゃったんだ、いまや10月分さえ越えてしまったんだから、雇い主もホクホクだね。
一方マキノの方だけど、あさひには及ばないものの、3週間で8月の平年売り上げを上げてしまったんだから、この子たちすごいよね。♥
「はぁ、マキノのどうなの?」
「あたしは子供が多いから大変だわ。」
「うふふ、ビールの方が効率いいよ。」
「あんた、ほんとにおじさんの懐に入っていくのうまいね。なんかスッと入って行って、あっという間に売りつけるじゃん。」
「そうでしょ、魔性の売り子なの、うふ。よし、ドリンクチャージできたし頑張って稼ぐぞ!」
「あたしも行ってこよ。」
♡バックヤードでお互いドリンクをタンクにチャージしている二人。
アルバイトの契約は基本ノルマを越えるとそこから出来高制に変わっていくの、一日五千円にノルマ越えた分だけ加算されていく方式なんだけど、二人ともとっくに10倍は越えてるって、大したもんだわ。
そして夏休みのバイトの最後の日、その男は二人の前に現れたの。♥
「おねーちゃん、わしにもビールくれへんか?」
「はい、わぁ、かっこいいスタイルですね。ビールですね。中、大、小、とありますが、この暑さなら大サイズはいかがですか、体の中からキンキンで、身も心もスカッとしますよ。」
♡細身、ギョロ目、アロハシャツを着てすこし
「おねーちゃん、やるなぁ、大サイズを順番の真ん中に言うなんて、どこでそんなやり方おそわったんや、ほな、大もらおか。」
「えへへ、ありがとうございます。」
「そやそや、熱波がまとわりつく夜にこのビールをぎゅーっと最高やな。それよりおねーちゃん、大学生ではないやろ。」
「そ、そうです、短大生です、ビール大、700円になります。」
「どや、オネーチャン、アイドルになる気はないかぁ。ビール売りの数十倍は稼げるで、これわしの電話番号や、気になったらいつでもええし電話してくれるか?」
♡あさひはビール代金と一緒に一枚の名刺を渡されたのね
名刺に目を通すと、サーバーを背負ったまま男の隣に腰を下ろしたの。♥
「えっと、
「なんや、ラウンジのオネーチャンみたいやね。かっこいいことあらへんがな、どこにでもある名前やがな。」
「あの、なんでわたしが大学生でないってわかったのです?」
「そんなもん、「直感」や!さっきからオネーチャンがビール売り歩く姿みてたら、わしのお
「アイドルってもうかるんですか?」
「そんなもん、儲かるくらい!ちゅうか、わしが儲けさしたるがな
おねーちゃん、前見てみ。選手が必死になってプレーして、こんだけ多くのお客さんがじっと見てるやろ。
ほら、ほな、あんたがあのマウンドに立ってマイク持ってやな、歌を歌ってると
あんたの歌に合わせて、ホームランみたいなどよめきと歓声がおこるんや、腹に響くくらいの大歓声や!
みんなあんたに注目しとる、あんたの踊りに、歌声に観客が反応してくるんやほら見てみ、こんなぎょうさんおる端から端までの人間を、感動させることができるんやで!」
「あの!やります!」
「ほんまかいな!ええ判断やな、わしに似てええ勘しとるわ!」
「一つだけお願い言ってもいいですか。」
「なんや?どーんと言うてみぃな!オネーチャン。」
♡八回の裏、そろそろ、飲み物も売れなくなってくる時間、あさひはマキノに手招きをして呼び寄せた。♥
「あの、社長さん、この子も一緒じゃだめですか?」
「えっ?ちょっと何よ、なんのこと?、それよりあんた油売ってないで、働きなよ。」
「何いってんのよ、次の営業よ。」
「なにさ、営業って…ああ、こんばんわぁ。」
♡まきのがちょっとビビりながら
「そちらの髪の毛くるくるのオネーさんは、あんたと性格が180度ち違って、
「はっ、オレンジジュースですか?」
「あのね、まきの、この人は芸能事務所の社長さんなんだって、まきのも一緒にアイドルしようよ!」
「てか、さっきから何言ってるの!全然話が読めないんだけど。」
「よっし!二人とも合格や!明日からでもうちにおいで。」
「はぁ、だからなんの話よ!」
♡そうやってまずはbeni5のメンバーの二人が決まった瞬間なの。
ふつうならこんな状況で声かけられて絶対ノーって言うひとがほとんどだと思うけど、あさひのカンは当たったのね、とりあえずおめでとう。♥
♡あっ、後の先ってスロースターターだけど勢がつくと止められないってことね。♥
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