第02話 台風娘




♡新幹線に乗ると前席に座っている日吉はおきまりのようにビールを飲んで上機嫌だね、あらっ、もう寝ちゃったみたい。

 後部座席の窓側に座っている浜は膝の上に小海を抱きしめ。

通路側の席のマキノは黄昏たそがれに暮れていくコンクリートの町並みをみている。♥




「あのね、おばあちゃん。」


「なんや、マキノちゃん。」


「あたしおばあちゃんに聞いて欲しコトがあるんだ

トメさんの家を出て施設の入ってから、あたしがいろんな人に出会って、

助けもらって、いままでやってこれたかってこと。」


「うん、きっと小海も聞きたいって言うと思うし、ぜひ聞かせて。」




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♡マキノは小海が亡くなったあと、どのようにして竹生に辿り着いたかを浜に切々と話している。


 大好きな小海と永遠の別れをした幼いマキノを、しばらくトメたちは大切に保護していてくれたの。マキノを誰にも渡さないつもりでね。


でも、法律が祖父祖母のように接してくれていたトメたちからマキノを引き裂いたの。


 それはある寒い日だった。マキノは弁当屋の旦那とトメに手を取られて、とある施設の門をくぐったの

 そこには元気そうに園内をかけまわる子供達がいてね。賑やかだったんだけど、人見知りのマキノはちょっと気後れしちゃってね。♥





「マキごめんなぁ、おじさん何もしてやれなくてなぁ。」


「マキちゃん、元気で暮らすんだよ。負けちゃダメだよ。」





♡マキノは長い影を残して小さくなっていく二人の後ろ姿をみて必死に唇を噛んで我慢していたの。


 中のいい友達とも引き裂かれ一人ぼっちのマキノ。それからあんなに元気だった笑顔が消えちゃって。


 つい、母と過ごしたあの家に帰りたいと思うんだけど、でもなにもできなくて

いつも泣いていたマキノだから新しいお友達もできないでいたの。

でもね、ある日マキノの人生を変える、台風の目のような女の子が施設にやってくるの。♥





「はい、新しいお友達です、あらたあさひちゃん、小学四年だから、マキノちゃんと同じ学年ね。」


といいます。よろしくな!」


「こら、女の子らしくちゃんと挨拶しなさい!」


「何でだよ!ちゃんと挨拶したじゃんか!」





♡園に入って早々、ふてぶてしい態度で園長に口答えするあさひにマキノはビビっていたのね、こんな子いままで見たことなかったから。

 その頃、マキノはみんなにいじめられていてね、でも園長にも言わずに黙って心の中にしまい込んでいたの。♥





「おい、やめろよ!てめ!男のくせに女に意地悪してサイテーだな!」


「なんだよ、おまえこそ、女のくせに!」


「なんだと、やんのかてめ!」





♡年上の男の子にいじめられていたマキノを見て、あさひがその男の子に食ってかかったの。

 まさに絵に描いたような展開で、取っ組み合いの喧嘩になってしまって、気の強いあさひだけど、年上の男の子に力負けして、頬を叩かれたの。♥





「なんだよ!てめ!弱いものしか手が出せないのかよ!」


「なんだよ、おまえこそ、ギャーギャーうるさいな!」





♡自分をかばってくれたあさひが頬を叩かれて、マキノは男の子の背後に立ち腕を羽交い締めにしたの、男の子が必死に暴れるけどマキノの方が力が強くて。


 じりじり男の子はあさひから引き離されていったわ。男の子がのけぞった頭がマキノの顔に当たって鼻血をだしているんだけど、それも御構い無して、男の子を床に倒してしまったの。♥





「あたしはいいけど、あさひちゃんをいじめるな!、あさひちゃんをいじめるな!」





♡鼻血をポタポタながしながら馬乗りになって叩いてくるマキノに恐怖を感じた男の子なんだけど防御してもマキノの方が力強くて、何度も何度も打たれていたの。♥





「おい、マキノ、もうやめろ、相手も泣いてるじゃねーか!」


「えっ、あさひちゃん、あたし。………ケンジくんごめん、あたしひどいことしちゃった、ごめんなさい。」





♡あさひは泣いている男の子の背中をさすりながらなだめているわ

マキノに意地悪したらひどい目にあうからもうすんなって。


 次第に施設内での小学生の力関係はあさひがトップになり

その下にマキノというカーストが成立するの。

あさひは、曲がったことには徹底的に反抗するんだけど、でも優しい子でね、弱い子をみたら放っておけないのよ。


 そしてあさひはマキノが自分のために立ち上がってくれたことが嬉しかったみたい、それから二人はまるで双子の姉妹みたいに仲良くなっていってね。


 えっと、そうそう、だいたいあさひが、問題を引き起こして、マキノが巻き添えを食う感じで。問題を起こすたびに、担任と園長先生に怒られて、でもあさひは退かない、マキノは引きずられるみたいな。


 マキノとあさひはしょっちゅう喧嘩してたけどね、そして中学にあがり高校生二年生の夏休みに人生を変える大きな出来事が起こるの。♥





「ねぇ、マキノ、割のいいバイトを紹介してあげるって言われたんだけど、一緒にやんない?」


「バイトって、学校に届け出でしないといけないじゃん。」


「夏の間だけだからヘーキよ。」


「つか、割のいいって、変なバイトじゃないでしょうね。」


はちゃんとしたバイトだ。」


「どんなバイトなの?」


「健全だよ、野球場で、ジュースやビールを売る仕事だよ」


「ジュースやビールね。。ビールってお酒じゃん、無理に決まってんでしょ!」


「大丈夫だよ、女子大生って言えばだっていえば平気よ。」





♡結局マキノはあさひに押し切られてバイトの面接に行くんだけど。

黒髪ストレート、どう見たって高校生だよね。


 あさひはマキノを連れてバイトを紹介してくれた先輩の家に転がり込んで。

その女子大生の先輩とマキノを引き合わせたの。♥





「ああ、この子があんたの言ってたおかっぱちゃんね。どれどれ、可愛い顔してんじゃん。」


「そうなんすよ、でもなんか垢抜けないっていうか。」


「じゃ、メイクしてみっか。」


「ちょっと、待ってください、あたしまだメイクってしたことないし。」


「心配しないでいいわよ、ちゃんと教えてあげるから、今日は見てな。」





♡鏡の前に座らされたマキノは先輩の技で少女から女性に変わっていくの

あまりの不思議さにぽんやりしいるんだけど、鏡の前には自分じゃない自分が座っていたの。マキノはなんだか不思議な気持ちになって自分を見ている。♥




「おお、なかなか美人じゃん。でもなんか足りないなぁ、そうだ、パーマ当てよ。」


「ええ、パーマまでいいよ!それにそんなお金持ってないし。」


「心配するな!任しておけって。」


「先輩明日から宜しくお願いしまっす!」


「まぁ頑張りな。」




♡マキノはそのまま美容院に連れて行かれてねあさひが店長らしき人と話していているの。


 そして店長がマキノの髪の毛に薬剤を塗ってカールで巻いて…

それから1時間、栗色のゆるふわパーマになっていたのよね。

まるでお人形さんみたいに可愛いくてね、じつはマキノはずっとゆるふわのパーマに憧れていて、念願叶ったというか。


 この時からずーっと、今も同じ髪型をしているの。まきののトレードマークが誕生した瞬間だったのね。♥





「あさひ、なんか、あたし、かわいいよね。ねぇねぇ!」


「だから言ったじゃん。」


「あの、店長さん、じつはお金が…。」


「いいよ、その代わりにまたしたくなったらうちに来てよ、その時はちゃんといただくからね。」





♡大学生になりすました、マキノとあさひはビールの売り子の面接に向かうの

結果は即決採用だった。

えて高校2年の夏休み、二人は野球場でのアルバイトがはじまったの。


 毎朝先輩の家に向かいメイクをしてもらって、夏の太陽が照りつける下で汗だくになりながら。


 外見が変わったマキノは心から明るくなったの、笑顔がかわいくてまるで、夏のひまわりみたいに


 気がつくと苦手だった人との会話もできるようになっていたわ

そんな夏の終りかけのある日、人生を左右するある男と出会ったのね。♥

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