第13話 素直になりたくて




♡そんなこんなで虎姫抜きで祭りの企画再始動しているわ

季節は10月、山の木々は赤く衣装を着替え、緑だった田んぼが一斉に黄金色に光り輝き実りの秋を謳歌しようとしている


莉央が駅前でバスの待合ベンチで座っているの男をみつけたの。


 黒くて長いコート、ハンチング帽にサングラスあれ、なんかどこかでみたことあるような……その男に背後から声をかけたの。♥





「あの、虎姫さんですよね。」


「いいえ、違い舞ます。」


「ふーん、まあいいや、ちょっとお茶でもしません?」


「ええ、ちがいますから!」


「マキノさんが心配していましたよ。」


「ええっ!ほんとですか?」


「嘘です、知りません、とにかく話だけでもしましょ。」





♡以外と単純だわマキノっていう言葉に反応しちゃったのよねぇ。

突然音信普通になった理由はもちろんボートでの一件だとわかっていたけど、

マキノに叩かれたのがショックだったみたいね。♥





「虎姫さん、心配になって駅前にいたんですよね?」


「やりかけの仕事だし、竹生の町の人が怒ってるかなって思って。」


「時間が時間ですし、ちょっといい飲み屋があるんですけど、そこ行きません?」


「あっ、はい。」




♡まぁ、飲み屋って言ったらもう、あそこだよね。

虎姫がマキノの実家だと知らないのをいいことに居酒屋日吉に連れて行ったのね、もちろんマキノと鉢合わせになると思っていたんだけど。


 マキノは実行委員会の件で県庁に出向いていたのよね。だから、日吉と莉央と虎姫の3人になっちゃったの。♥





「へいらっしゃい!あれ莉央ちゃん、今日はひとりかい?」


「いいえ、ちょっと連れがいまして。」


「おお、入って、入って。莉央ちゃん、あれかい、コレかい?」


「違いますよ。じゃぁ、とりあえずビールで、いいよね。」


「あいよ!」





♡莉央と虎姫はカウンターに座り出されたお通しとビールに口をつける。塞ぎがちな虎姫に特に言葉をかけることもなくお互い隣同士に座りながら。♥




「あれっ、おにいさんなんか見たことあるなぁ。実行委員の先生だよね。最近失踪したとか何とか?」


「はい、おはずかしながら。」


「そうかい、でも、ここにいるってことは…ああ。あの件でかぁ」


「ご存知なんですか?」


「そら知ってるよ、でも、命拾っただけでもみっけもんだよ。」


「あのね、虎姫さん、この人、マキちゃんの叔父さん。」


「えええ!そうなんですか!」


「申し訳ない、姪っ子があんたをひっ叩いたんだろ?すまなかったなぁ。」


「いいえ、やめてください、頭を下げないでください、悪いのは俺の方ですから。」


「あっ、そういうことか、先生マキノと顔を合わせづらかったから消えたのか。」


「それもありますし、実行委員のみなさんにも迷惑かけちゃった感じですし。」


「なに、なに、はっきりしないわね。虎姫さんはなんでこんな地方のお仕事を引き受けたの?」


「わたしは、大学を卒業して間もなく、とある地方創世を目指した小さなイベント広告会社に務めていたですが、不況で倒産しちゃって。

路頭に迷っていたら、とある人に拾われたんです、そこでマキノさんたちと知り合って。」


「ああ、長浜社長のことかい?」


「社長のことをご存知なんですか?」





♡何!日吉ったら、帰りの新幹線の中で寝ていると思ったら、マキノと浜が話していたことを全部聞いていたのね。

 そら、姪っ子の話なら気になるかぁ、虎姫はビールを3杯お代わりして胸の内のことを話し出したの。♥





「じつは、オラが育ったのは、深い山沿いにあるちっさな集落でさぁ。

谷間にちょこっとした田畑があってさ、夏前には蛍が飛び交って、それは綺麗なところだったんだ。


 でもな、オラが中学に上がる頃。ダム建設の話が持ち上がったんだぁ。オラの村はな、駅まで車で40分かかる田舎でな。暮らしも不便だったんだけんども、でもみんな和気藹々わきあいあいと暮らしていたんだぁ。」





♡都会的なイメージのある虎姫なんだけど、お酒の力で本当の自分のことを語り出したの。言葉のひとつひとつが真剣な思いをのせて、重みのある言葉だったわ。♥




「ダム計画の話が進むにつれて、反対運動が起こってなぁ、住民が計画の白紙撤回を求めて団結して反対運動をしたんだ。


 でもな、一軒、一軒切りくずされていって。国策だから仕方なかんだ、最後に残った3軒も出て行くことに決めた家に説得されてよぉ。

 それで、オラたち中学生でこの村のお別れ会しよって話になってな。」


「それって、虎姫さんが企画したの?」


「んだ、最後くらい、みんな笑えたらいいなって思ってな。

それで、地方創世のイベントに興味が湧いたんだ。


 そしたらな、県がお祭りの予算を出してくれてよぉ、もちろん県もしぶしぶダムの認可を出したもんだから、後ろめたいもんがあったっんだろなぁ。


 反対派と県知事も一緒に酒飲んでたわ。どっちも泣いてたけどな。んでも、ダムのおかげで川下は田畑が広がったし、下の街の洪水も減ったからなぁ。


 だれしも生まれ故郷はあるだろ、それが元気になってくればと思っていたんだだから、東京の地方創生の企画会社に勤めたんだけんどもよ。不景気で会社が無くなってしまって、路頭にまよってたら長浜社長に拾ってもらって社長の下で経営の勉強をさせてもらってたんだ。」


「そうかい、長浜って男、生きてたら一緒に酒でも飲みたかったな。」


「伝説の男でしょ、以外と日吉さんとウマが会うかも、あんまり知らないけど。」


「ほんと、マギノにはひどいことをしたと思っているんだ、beni5では辛い役を引き受けてもらって、それになお、恋人まで奪いかけたんだから。」


「それって事故じゃん、虎姫さんがそこまで気に追うことないよ!」


「なるほどぉ、惚れてたんだろ、マキノに。」


「ちょっと、日吉さん!そんなこと言わなくても!」


「酔ってるついでも言わせてくんろ、マギノはオラの初恋の先生に似てたんだよなぁ、いつもニコニコしてさぁ、ちょっとほわっとしたとことか。それに結構世話焼きで。

 でも、あんな必死に彼氏を助ける姿を見ると、おら本当に悪いことしたなぁって。大事な人の命をうばったかもしんねって。」


「そっか、先生もつらいなぁ。」


「オラ、マギノの前にいるど、素直になれなぐて。カッコつけてしまうんだぁ。」

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