3章9話 21:14 俺と望未、2人きりのベッドの上で――(3)
「逆に、なぜ望未はこの選択肢を?」
ふと、ゲームを中断して望未は身体を起こした。
そして俺と向き直ると――、
「まず、先ほども言いましたが、この時点でも両想いの可能性はかなり高いと推測しました」
「そうだね。好きな男子が別の女子とキスしていたから悲しんでいるわけだし」
「ですので、カップル成立までの過程短縮のため、デートに誘うのは時間の無駄と判断しました」
「ほ、ほぅ、時間の無駄……、デートが……」
「また、最後の選択肢は論外です」
「俺もそう思うけど、理由は?」
「現状維持だと付き合えないと推測されるからです」
「主人公が、ただの身体目的の男子になってしまっている……」
「結果、残る選択は『キスしてみる』『昔みたいにあだ名で呼び合う』の2つです」
「その2つを見比べて、望未はどう考えていた?」
「ベスト・オア・ベターだと考えていました」
「デッド・オア・アライブの間違いでしょ……」
「一般的にキスは特別な間柄でなければ発生しなくて、ニックネームで呼ぶことは友達同士でもありえます。ですので、キスをすればハッピーエンドだと考えました」
「なるほど。――少しコントローラー借りるよ?」
スキップ機能とテキストログを使ってひとまず次の選択肢付近まで跳んでみる。
『もう、信じられないよ……』
『どうしても、なのか?』
『信じたくても、信じられないもん……』
『…………っ』
『怖いもん、少し。あの時、キスされそうになってから』
『ゴメン……』
嗚呼、修復不可能だな、これは。
「キスすれば相思相愛の証明になり、一気に付き合えると考えていましたが、どうやら間違いの可能性が強まってきました」
「逆だから……。キスすれば仲良くなれるんじゃなくて、仲の良さが一定ラインまで辿り着いた結果、キスとかハグができたりすると思うんだが……ん? あれ?」
「お兄ちゃん? どうかしましたか?」
「今日、部活で部長に教えてもらったことがあるんだけど――」
「はい」
「人間の脳って意外と騙しやすくて、人間は、行動が先にあっても、あとから感情を辻褄があうように補正できるらしい」
「なるほど」
「まぁ、どっちにしてもキスしないといけないわけだから、拒絶されたら終わりだけど」
「なるほど。では、お兄ちゃん」
「ん?」
「目を閉じてください」
「えっ? まぁ、別にいいけど」
望未に言われた通り目を閉じる。
そして次の瞬間――、
ふわっと、ミントの匂いが香ると――、
恐らく望未が両腕を俺の首に回してきて――、
豊満な胸を押し当てて、要は抱き着いてきて――、
俺がなにかしらの反応をするよりも早く望未は――、
「――――っ、ん」
「~~~~っっ!?」
唇にやわらかい感触が伝わってきて、俺は即行で目を開ける。
そこには俺にキスしている望未の姿が。
ヤバイ……。
突き放さないと、って頭ではわかっているはずなのに、なぜかズルズルと踏ん切りが付かない。
望未の唇、やわらかい。髪からはミントのような香りもするし。
胸が切なくなるというか、頭が蕩けそうというか。
マジでやめさせないと。
でも、夜更かしした翌日の寝起きのように、現状から抜け出せないというか――。
「ふぁ!? 悠真と望未がキスしているし!」
「姉さん!?」
顔を真っ赤にして驚いている下着姿の姉さん。
ベッドの上。俺はパジャマで望未は俺のシャツ。そして望未が俺に抱き着きながら口付け。
完璧に誤解されたはずだ!
弁解しなければ!
「姉さん! これは違うんだ!」
「ねぇ、悠真」
「な、なに?」
「そのセリフを実の姉に言って頭おかしくならないの?」
「冷静に考えると死にたくなってくる」
「うん、まぁ、なんとなくわかるから、ねっ?」
「やめてくれ。誤解されるのもイヤだけど、そんな微笑ましいモノを見るような生暖かい視線を俺に向けないでくれ……」
「わがままなヤツめ」
愚痴を零すと、姉さんまでもが俺のベッドの上に。
「で、望未、なんで悠真にキスしたの?」
「お兄ちゃんが――『人間の脳って意外と騙しやすくて、人間は、行動が先にあっても、あとから感情を辻褄があうように補正できるらしい』『まぁ、どっちにしてもキスしないといけないわけだから、拒絶されたら終わりだけど』――と言ったので」
「はい」「うん」
「お兄ちゃんは悠乃たちの実験に協力すると言っていましたので、キスは許容範囲内だと思考しました」
「姉さん……」
「なに?」
「この前はカッコつけて即答したけど……」
「……うん、明日、契約書を一緒に読もうか? まだ、高校生だし、むしろこういうミスですんでよかったと考えよう?」
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