3章8話 21:14 俺と望未、2人きりのベッドの上で――(2)



 俺は現在、ベッドの縁に脚を下ろして座っていた。しかし、ここで少し移動し、壁を背もたれにして脚を伸ばしてみることに。

 続いて、同じくベッドの縁に座りながらプレイ中の望未に対して――、


「そういえば、もしかして望未って、ずっと同じ姿勢でも疲れないのか?」

「駆動できなくなる、という意味でしたら疲れることはありません。しかしながら、ボディに負担をかけ続ける、という意味でしたら、基本的にいつも負担をかけ続けています」


「? 例えば、立ちっぱなしだと大なり小なり、脚にはずっと負担がある、みたいな?」

「はい、そのとおりです」


「なら、このゲームが終わるか、一時中断するまで、楽な姿勢になっていいよ」

「わかりました」


「えっ?」

「? なにか?」


 望未が俺の脚に頭を乗っけてきた。

 膝枕じゃん、これ。


 っていうか、俺、今、短パンだから!

 望未の頬が直に俺の脚に!


 それと、吐息がくすぐったい。

 微妙に湿っぽくて生暖かくて、妙に生々しいし。


「望未って呼吸できるんだ」

「私の身体の中には吸引式冷蔵庫のように、吸引器、再生器、分離器、凝縮器、蒸発器などがあります。そしてその冷蔵庫自体の排熱のために、なるべく素肌を大気に晒す必要や、呼吸する必要があるのです」


「それと、さ」

「なんでしょうか?」


「なぜ、膝枕?」

「幸運なことに、お兄ちゃんのマットレスは睡眠時、身体に負担をかけないような構造になっているようです。この時点で私が横たわることは決定しました」


「したのですか?」

「しました」


「それで、続きは?」

「しかし、枕がなければ首をある程度傾けることにより、当該部位に負担をかけると判断しました。そこで、本物の枕とお兄ちゃんの膝枕、どちらに頭を乗せた方が画面を見やすいかを考えた結果、お兄ちゃんの膝枕が選ばれました」


「いやいや、絶対に普通の枕の方が首への負担は少ないって」

「しかしながら、枕を使用すると画面が非常に見づらくなってしまいます。特に、勉強机のイスが障害物になってしまうでしょう」

「枕かイスの位置をズラせば……」


「他人の所有物を勝手に移動するのは好ましくない、と、以前学習しましたので」

「そりゃそうだけど……」


「では、改めて移動しますか?」

「…………む」


「? お兄ちゃん?」

「いや、仲良しな兄と妹になれ始めている気もするし、このままで」


「わかりました」


 失敗した……。

 いや、望未に悪い印象を与えたわけじゃないけど、思惑が外れた。


 むしろ俺としては、真っ先に寝ころぶことはない、と、判断してしまったんだが……。俺がベッドの中途半端な位置に座り直したから……。

 望未が俺をミラーリングするなら、壁に背を預けて脚を伸ばすのかなぁ、って考えていたんだけど、誤算だったか……。


「お兄ちゃん、また選択肢です」

「あっ、ゴメン、少しぼ~っとしていた。ちなみに、どんな流れ?」


「疎遠だった幼馴染のヒロインと、再度仲良くなり始めた主人公。しかし、彼を奪おうとする先輩ヒロインにキスされてしまい、その現場を幼馴染ヒロインに目撃されました」

「重っ!?」


「その場を去る幼馴染と、それを追う主人公。いつの間にか2人は昔遊んでいた公園へ。ベンチに座り、そこで遊ぶ子供たちを眺め、回想が入りました」

「あっ、でも、選択次第で意外と状況が好転しそう」


「次に、疎遠になっていた理由が、小学生の頃、当時の先輩ヒロインに主人公がファーストキスを奪われたことによるショックだと発覚。今以上に、昔みたいに主人公と仲良くなるためになにをしたらいい? と、訊いてきて、『デートに誘ってみる』『キスしてみる』『昔みたいにあだ名で呼び合う』『今のままで充分と遠慮する』という選択肢が出てきました」


「教えてくれてありがとう。では、どうぞ選んで」

「はい、では――」


 望未は即行で『キスしてみる』を選択!


『目、瞑って』

『えっ?』


『大丈夫、誰も、見ていないから』

『~~~~っっ、ダメ!』


 パンッ!


『なんで……? なんで、キス、なの?』

『ゴメン……、イヤ、だったか?』


『イヤじゃない! わたしだって、本当は――』

『なら――』


『でも、っ、こんな形は、イヤだよ……』

『ゴメン……』


『今日は、もう帰るね? また明日、ね?』

『あぁ……』


 そして主人公のモノローグとして『悪いこと、したかな?』とテキストが表示される。

 いや、当たり前やん。


「お兄ちゃん」

「はい」


「これはつまり、どういうことでしょう?」

「これはつまり、幼馴染ヒロインとのフラグをバキバキに叩き折った、ということです」


「私は彼女を攻略したくてキスを迫ったのですが?」

「イヤじゃん。ほんの十数分前に別の女子とキスした好きな男子が、その口で強引にキスしようとしてきたら」


「なるほど」

「わかってくれたか」


「少なくとも、私の中で辻褄があいそうな推測は用意できました」

「そうか、流石望未だ」


「ありがとうございます。とはいえ、私のIQは人間と比較してかなり高いので、流石なのは当然かと」

「で、その推測って、具体的には?」


「恐らく、性病の可能性を危惧しているのでしょう」

「違うから。モラルの問題だから」


 貞操観念という意味じゃ、それもあながち間違いと言えないのがもどかしい。


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