3章7話 21:14 俺と望未、2人きりのベッドの上で――(1)



 同日――、

 21時14分――、


 俺は自分の部屋に望未を連れてきた。

 が! こっちはいたって普通のジャージ姿なのだが……、


 驚くべきことに望未の方は……、


「ねぇ」

「はい、なんでしょうか、お兄ちゃん?」

「なんでベビードールなの?」


 かなり肌色成分多めのベビードールだった。

 生脚を晒し、おへそや胸の谷間までかなり露出している感じの。


 水色でフリフリ、スケスケのレース越しには純白のパンツが透けて見えていた。

 当然、いくらなんでもサイズはきちんとあっていたが、望未は巨乳なので、少しでも激しい運動をしたら、ブラの部分から胸が零れてしまいそうである。


 実際に行動に移すなんてことはしない。


 しかし、指を1本でも引っ掻けたら、たゆんたゆんの乳房の頂点に咲く花の蕾が見えてしまうだろうし!

 本物のカーテンの隙間から窓の外を見るようにすれば、レース越しどころか、直にパンツが見えてしまうし!


 いくらなんでも無防備すぎる。あと、俺にとっては刺激が強すぎる。

 正直、もうここまでくると、手を出してしまいたい自分を否定できない。けど、それを未来の望未がどう思うかを想像すると……、あばばばば……。


「流石に全裸というわけにはいきません。それはすでに学習済みです」

「そっち!? いやいや、落ち着け、落ち着け。そろそろ慣れておこう。うん、俺の言い方にもニュアンスが伝わりづらい部分があったことは認める」


「つまり、私に伝えたかったことは別にある、ということでしょうか?」

「確かに、俺と望未は兄と妹っていっても、形式的なモノだ。もしかしたら、恋愛に発展する可能性もあるだろう」


「はい、誰かに恋をすることは、私にとっても望ましいことです」

「とはいえ、だからこそ付き合ってもいない異性にその姿を晒すのは、望ましくないのでは?」


「わかりました。通気性に優れていたのでこれを買ってもらったのですが、やめた方がよろしいでしょうか?」

「ご、ゴメン……、ぶっちゃけ男子高校生には刺激が強すぎる」


「しかしながら、私にはこれ以外に寝間着がありません」

「姉さんはいずこに? なにか貸してもらおう」


「悠乃は今、入浴中です」

「少し待っていてくれ」


 指示を出しておくと、俺は部屋を出て階段を下りて脱衣所へ。

 ドアを開けるとそこには下着姿の姉さんが。


「きゃっ……って、どうしたの、悠真?」

「は? 上がるの早くない?」

「いやいや、今から入るんだし」


 言うと、姉さんは少なくとも下着だけは身に着けていたのに、それまで脱ぎやがった。

 乳首も股間も、隠す気ねぇな、こいつ。


「それは置いておくとして、姉さん。なにか望未に貸せるパジャマってある?」

「ない」


「なんでさ!?」

「は? なんでさ?」


 なぜか静かに怒りの波動を姉さんは身にまとう。

 そして全裸のまま俺の背後に回ると――、

 俺の首に腕を絡ませて、おっぱいが俺の背中にあたっても気にせず――、


「バックチョークっ!」

「ぐぇ! ま、て! 全裸で、えぶ、プロレスごっこはマズイ!」


「いやいや。こういうの、柔道では裸絞めって言うし♪」

「くそぉ……、学歴が高かったとしても、頭に行くはずの栄養を、全部そっちに回したような胸をどけろ……。パジャマが汗で汚れたらどうする……、っっ」


「悠真さぁ? この前、サイゼで自分がなに言ったか覚えている? あの時、お察しのとおり、周りにはアタシの友達がいたのに」

「なんか言ったか、俺!?」


「悠真、アタシが風呂上りはいつも全裸で、寝る時もなにも身に着けない、って暴露したじゃん! 忘れたとは言わせないし!」

「あぁ~、じゃあ姉さんに頼ろうとしたのは間違いだったか」


「それはそうだけど言い方を選べ!」

「ぐぇ!」


 最後にもう一度力を入れて俺を苦しめると、そこでやっと姉さんは俺を開放してくれた。


「っていうか、母さんには借りないの?」

「母さん、身長低いじゃん」


「なら、自分のシャツでも貸したら?」

「やむを得ない……。ベビードールよりはまだマシか」


 そして――、

 数分後――、


「着替え終わりました」

「あ、あぁ……」


 ヤバイ……。

 望未が普段から着ている俺の部屋着を着て、ベッドの上で女の子座りをしている。


 サイズが大きくてダボダボで、いわゆる萌え袖になっているところとか。

 いくらなんでもズボンまで貸すのはアレだったので、男子の服がワンピースみたいになっているところとか。


 理解した。これが尊いという感情か。

 まさか俺の方が望未から感情を教えられるとは……。

 とりあえず、俺は望未とは距離を置いてベッドに腰を下ろした。


「望未、ゲームをしよう」

「はい。それで、どのようなゲームでしょうか?」


「ノベルゲームと言って……、うん、あれだ。小説のように物語が進み、途中に現れる選択肢のどれを選ぶかによって、エンディングが変わっていくゲームだ」

「わかりました」


「ちなみにこれだ。帰りに友達の深水礼人ってヤツの家に寄って借りてきた。遠慮したい理由とか、ある?」

「いえ、問題ありません。それで大丈夫です」


 理解を得ると、俺はそのソフトをゲーム機へ。


「ところでそれは、いわゆるギャルゲー、というモノでしょうか?」

「そうだね。深水、たまにこういうの買うらしいから、オススメを貸してもらった」


「ちなみに、どのような狙いがあってのことでしょうか?」

「これはヒロインを攻略……努力して告白を成功させて恋人同士になるゲームだからね。望未がプレイヤーなら、どのヒロインとどのエンディングに辿り着くのかなぁ、って」


「なるほど、私に恋愛のシミュレーションをさせるわけですね?」

「そのとおり。はい、これ、コントローラー」


 俺は望未にそれを渡すと、とりあえずベッドに腰を下ろした。

 もちろん、ある程度望未から距離を置いて。


「ちなみに望未、リアルとフィクションの区別は付いているか?」

「なんらかの事象の実在を判断できるか否か、ということでしたら、問題ありません。区別できます」


 ならフィクションならではのイベントにツッコミを入れる、ということもないだろう。

 そして数分後――、


「選択肢が出てきました」

「選択した目的地によって出会えるヒロインが変化するのか。ちなみに、望未はどのヒロインを攻略するつもりなんだ?」


「幼馴染のヒロインです」

「その理由は?」


「すでに主人公に惚れているからです」

「身も蓋もないな!」


 そんな、自分は自分のことを好きな人が好き! みたいな理由で落とされるのか、その幼馴染のヒロインは……。

 さて、そろそろ俺も動くか……。


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