3章1話 4月14日 黒髪ロング委員長の胸を転んだ拍子に……(1)



 月曜日――、

 朝のHR前の教室にて――、

 俺と雪村ゆきむらが席に着きながら読書していると――、


仙波せんばァ!? テメェ……ッッ、破りやがったなァ!? 古の盟約を破りやがったなアアアアアァァァ……ッッ!?」


 パァァァンッッッ! と、勢いよくドアを開けながら深水ふかみのヤツが登校してきやがった。

 もっと静かにドアを開けてくれ。男子も女子も、ハァ、またか……、みたいな目を向けているぞ……。


「ど、どうした、急に……? っていうか、いきなり教室で大声をあげるから、深水にはカノジョができな――」

「アァ!? カノジョ持ちの御仁は常に余裕でございますねぇ!?」


「えぇ……、なんだ、その雪村になり切れていない雪村のような言語は……」

「この紋所が目に入らねぇのか、テメェはよォ!?」


「スマホじゃん……」

「フッ、スマホで紋所を表示できる時代か――。水戸黄門に見せてやりたい」


 ウザイ感じに絡んでくる深水から一応、スマホを受け取る。

 そこには学校から最寄り駅までの並木通り。そこでキスしている(ように見える)2人の生徒を撮った写真が映っていた。


 その2人とは俺と天音あまね

 写真内部のシチュエーションを鑑みるに、金曜日の帰り道で彼女が俺に密着した時に撮られたのだろう。っていうか盗撮じゃん!


「なっ……!? おま、っ、これ!? どこで……!?」

「違う、違うぞ、仙波ァ?」


「は? 違う?」

「逆に、オレの方が、お前に訊くぞ? お前、この子、どこで知り合った?」


 目がマジだ……。

 どこまで女子に飢えてんだ、こいつ……。


「――正直に言ってもいいのか?」

「もちろんだ」


「本当に本当か?」

「あぁ、オレを信じてくれ」


「俺に、あくまでも俺に、制裁を加えたりしないと約束してくれるか?」

「いいぜ、約束してやる」


「友達としてか?」

「あぁ、オレたち、友達だろ?」


「あくまでも、俺には制裁を加えない約束、ってことでいいな?」

「? 流石に少ししつこすぎねぇ?」


「もちろん、俺だけじゃなくて、雪村も深水にとって友達だよな?」

「そりゃ、もちろん。でも、盟約を破ったのは雪村じゃなくて仙波で――」


「――この女の子、雪村の紹介で知り合ったんだ」

「雪村ァァァ!? テメェエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!?」


 バッ、と、深水は雪村の胸倉を掴もうとする。

 しかし流石は雪村。音を立てることさえ気にせずに、イスを倒してまで深水から上手に距離を取った。


 結果、雪村の机を挟んで対峙する2人。

 深水は雪村を捕まえたくて、翻り、雪村は深水から逃げるために思考を巡らせていることだろう。


「なっ!? 仙波!? ウソを吐くな!? オレはお前に女子なんて――」

月島つきしま天音」


「…………っっ!? バカな!? あいつに恋愛感情なんてあったのか!?」

「怯んだ!? よくやった仙波! 今だ!」


 いくら深水でも机に土足で乗っかり、最短距離で接近するということはなくて安心した。

 迂回して迫ろうとする深水に対して、雪村は後方に逃げながら他人の机を障害物として利用する。そして、教室前方のドアを指差して――、


「委員長が来たぞ! 落ち着け!」

「――――」


 チラッ、と、深水は教室の前方のドアに視線をやる。

 しかし、同時に雪村からも意識を離さない。


 いくら深水でもこの程度の揺さぶりで隙を見せるわけがなかった。

 雪村ならその程度のこと、把握しているはずなんだが……。


「ずいぶんと古典的な手を使うじゃねぇか、雪村」

「深水」


「あ?」

「後ろからくるぞ、気を付けろ」


 瞬間、教室の後方から誰かのペットボトルが飛んできた。

 そして深水の側頭部にクリーンヒット。


「痛ぇ!?」

「朝からなに騒いでいるの!? いい加減、風紀委員に風紀なんて取り締まらせないで! メンドくさいじゃない!」


白崎しらさき、その発言は風紀委員としてどうなんだ……」

「フッ、素晴らしいタイミングだ、我らが委員長」


 教室の後方のドアから白崎がこっちにやってきた。

 そして空のペットボトルを回収してゴミ箱へシュート。


「しかし、どうも今朝は遅い登校だな?」

「べっ、別に、どうでもいいじゃん、そんなこと……」


 不意に、なぜか俺に視線を向けてきた白崎と目があってしまう。

 が、それも一瞬のこと。


 頬を赤らめた白崎はすぐに俺から顔を逸らす。

 一方で俺も一昨日の白崎の下着姿を思い出して、どうしても白崎のことを視界に入れることが気恥ずかしくなってしまう。


「で? どうしてバカ深水は騒いでいたわけ?」

「聞いてくれよ、委員長! 仙波と雪村のヤツが風紀を乱したんだ!」

「はぁ?」


 頭をさすりながら、深水は白崎に事情を説明し始める。


「仙波がさ? まぁ、カノジョかどうかはまだ未確定だけど、少なくとも通学路でキスしたらしいんだ」


「ねぇ、深水」

「あ?」


「ウチ、少し寝不足で今から仮眠取るから――」

「OK、任せな」


「いやいやいやいや! キスなんてしてないし! 今日の昼食と数学の宿題を懸けてもいい! その子は雪村に紹介してもらった月島天音さんだって!」


「えっ!? マジで!? 月島天音って女の子だったの!?」

「そもそも、オレは一言もあいつのことを男だと言った覚えはない」


「雪村ぁ……、なんで教えてくれなかったんだぁ……。それはオレのワガママだとしても、せめて誤解は正してくれよぉ……」

「許せ、友よ。仙波に勘違いさせたまま会わせた方が面白そうだと思ったんだ」


「と、いうわけで、出会ってその日のうちにキスをすませるなんて、ありえないだろ? 少なくとも俺には無理だ。その写真はあれだ。内緒の話があるからって、誰にも聞かれないように天音が接近した時のモノだ」

「あぁ~、脅かすなよ……」


 深い息を吐くと、深水は俺に手を差し出した。

 俺はそれに応え、持っていたままだったスマホを返してあげる。


「深水、その写真、どこで手に入れたの?」

「んっ? 軽音部の後輩が、これ、先輩の友達の仙波さんっすよね? って送ってくれたんだけど」


「一応、その写真、ウチも見ていい?」

「別にいいけど」


 言うと、深水はスマホを操作したあと、その画面を白崎に見せる。

 そして数秒後、白崎は微妙にワナワナと震え始めて――、


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