2章20話 18:12 今までノーパンだった望未のために、ランジェリーショップに!(3)



 2人で更衣室に突撃したあと、俺はその近くの壁に寄りかかって待つことに。

 ここにいたら誰かに睨まれる可能性は否定できない。けど、だからと言って他にいる場所もない。結局、2人の近くにいた方が賢明なのだろう。離れたタイミングで万が一、誰かに難癖を付けられても困るし。


「先輩、今度はこれ、どうですか?」

「ゴメンね~、付き合わせちゃって?」

「いえいえ~、お構いなく」


 居心地悪すぎ!

 姉さんが着替えている試着室から隣に2つ。望未が試着している試着室からだと、隣に3つ。そこに別の女性が入っているようだ。しかも、声がなんとなく10代の女性っぽい。


 幸いにも試着室の外で待機している後輩さんは、こっちを一度見たきり、なにか攻撃をしかけてくることはなかった。

 姉と妹の買い物にて、荷物持ちとして駆り出された弟にして兄、とでも認識されているのだろうか?


「お兄ちゃん、試着、終わりました」


 想像だが、望未は本当に身に着け終えたらすぐに出てきたのだろう。


 それにしても、望未はウソ偽りなく、美しさと可愛さの次元が違った。

 前回裸を見てしまった時とは違う。本当に互いの合意の上に俺は望未の下着姿を視界に収めている。


 銀色に瞬くロングヘアーと色白の肌。

 そして桜色のショーツとブラジャー。


 見惚れているのは事実だし、エッチだと思っているのも事実だ。

 でも、上手く表現できないけど、なんとなく、ハレンチではない。


 SNSで誰かがリツイートして自分のタイムラインに流れてくる。そんな、確かに女の子が下着姿になっているけど、綺麗な背景もきちんと描き込まれているイラスト。感覚的に言えば、あれが自分の目の前に、本当に広がっている感動に近い。

 真っ先にイメージするのは、雪と桜が同時に舞う3月の景色。


「悠真、感想を言って!」


 その景色に姉が突撃してきやがった。


 いや……、姉さんも確かに美人のカテゴリーには入ると思う。

 顔じゃなくて、身体の方も、それはもう素晴らしいモノだと認めよう。誇張表現も比喩表現も抜きで、グラビアアイドルになれるぐらい。


 割とくびれているのに、きちんと肉感的な白いウエストも?

 パステルなパープルのブラジャーに包まれている大きめな胸も?


 エロイか否かと訊かれれば、メチャクチャにエロイ。姉さんが実の姉さんじゃなくて、近所に住む世話焼きなお姉さんだったなら、その仙波悠乃で性に目覚めるぐらいには。


 が、物質的とか! 形状的とか! 造形的にメチャクチャにエロかったとしても! 精神的とか! 心情的とか! 感情的にエロイと認識できるか否か? そう訊かれれば、俺は迷わずこう答える。


「あまり視界に入れたくない」

「ひどくない!?」


「なら、姉さんは俺に――、すごくエロイと思うし、正直興奮する、とか。あるいは逆に、恥ずかしくて照れまくって、赤面して目を逸らして、感想を言えない状態に陥る、とか。そういう――」

「――き、気持ち悪い! あまりにも気持ち悪い!」


「そう、それが今の俺の気持ちだ」

「さーせん」


「別に風呂上がりに視界に入る程度ならかまわないけど、感想を求めるのはやめろ」

「おーきーどーきー」


 さて、これからどうするんだろう?

 俺としては実験という建前のデートを続けたいし、同じぐらい、ここから撤退したい。


 姉さんの目からすれば、デートという形式をしている実験として映っているはずだし、本当はそれが正しいんだろうが、それはともかく。

 この空間にいて、なにかを自分から言い出す勇気がない。


 となると、姉さんがなにかを言い出すか、俺に促すかをしないと、状況が動かないわけだが――、

 ――その時だった。


「これに決定!」

「ヤバッ、先輩、ドスケベボディじゃないですか~」


「うわ!? なに、そのオジサンみたいな感想!? 正直、キモイ!」

「いや~、別に本気で言っているわけじゃないですけど、オッサンが先輩の肉体を見たら、絶対にそう言うな~、って」


「やめてよ~、まだウチ、好きな人にも見せたことないなのに」

「早く告っちゃえばいいじゃないですか~」


「…………は? ……白崎?」

「……………………………………えっ? …………………………仙、波…………?」


 そこには俺のクラスの委員長、白崎美弥がいた。

 そう、下着姿で。


 なんというか、感覚が違った。

 望未はもちろん圧倒的な美しさではあるが、出会って数日で全裸と下着姿を、もう2回も見ている。

 姉さんは比較の対象外。仮に形状がエロくても、感情が拒絶する。街中にたまにある全裸の女性の銅像を見てもドキドキしないとの一緒だ。


 それで白崎は……、……、……、1年の頃から同じクラスだったけど、初めてクラスメイトの下着姿を見てしまった。


 いい意味でも悪い意味でも動揺がヤバイ。

 いつも一緒の教室で勉強している委員長の、他に誰も見たことがない姿を見てしまった、という意味でも!

 だからこそ、月曜日に会った時、どんなテンションで会話すればいいかわからない、という意味でも!


 そして思い出す、天音との帰り道。

 帰宅してから本当にいろいろ調べたけど、エロイ出来事は記憶に残りやすい、とのことだ。


 水色のショーツとブラジャー。

 胸の谷間に1つ、ホクロが見えたとか。

 そもそも谷間ができるぐらい胸が大きいとか。

 女子からしたら致命的かもしれないけど、男子かしたら、かなり許容範囲内なのに、それでもすごくやわらかそうなお腹とか。


「姉さん、望未、外で待っている! 会計が終わったら戦略的撤退だ!」


「わかりました。悠乃の会計が終了後、再度集合する、ということで」

「りょ~かい!」


「あっ!? ちょ、っっ!? 待っ!? えっ!? ~~~~ッッ、しぇんば~~っ!?」


 最後に視界に映った白崎は、それはもう見事に顔を赤らめて、両手で胸と股間を隠し、可哀想なぐらい涙目だった。


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