2章19話 18:12 今までノーパンだった望未のために、ランジェリーショップに!(2)
「はぁ!?」
「バストが93cm、ウエストが58cm、ヒップもバストと同様に93cmです」
望未は冷静に、落ち着いて、ある意味では最も秘匿すべき自分の情報を口にする。
「アンダーバストは?」
「68cmです」
「ってことはGカップの70……。なんという恵まれたスタイルだし……」
「最初からそのように設計されただけですので」
いや、まぁ、なんとなく姉さんが気を付けておきたいことはわかるけどさ……。
「姉さん、全てのブラジャーじゃなくて、そのサイズのブラジャーだけ試着する。まぁ、それは当然のことだと思うけどさ? なにも俺の前で望未に言わせなくてもいいじゃん」
「いやいや、最終的に指示を出すのは悠真の方が好ましいし、一応、悠真にも聞いておいてもらわないと」
「なら、俺じゃなくて姉さんが指示を出すのは?」
「それはもう、人工知能と第三者がコミュニケーションを取る、って形式から逸脱しちゃうし。あくまでもアタシは、エロゲでいうところの、やたら女の子に詳しい親友ポジションだし」
確かに姉さんは望未の開発に携わっているから、俺にとってのガイドであるべき。
それは理解できるけど、だからって比喩表現としてエロゲを挙げる理由はあったのだろうか?
「コホン、なら、望未」
「はい、お兄ちゃん」
「そのGカップの70? のみを、えっと……、その……、うん……、あれだ……。試着してください……。実際の購入回数は1回だけど、最大限回数、購入できると仮定して。ただし、最大限回数、購入できる仮定であっても、1回の試着の際に下着を選ぶ時間は……、とりあえず5分で」
「了解しました」
言って頷くと、望未は自分が試着するショーツやブラジャーを選び始める。
あぁ~、恥ずかしかった!
女の子に試着するブラジャーのサイズを指示するとか、どんな羞恥プレイだよ!
「ちなみにさ?」
「なに?」
「Gカップっていうのは知っているけど、そのあとの70ってなに?」
「Gカップって、トップバストとアンダーバストの差が25cm、だいたいそのぐらいあるおっぱいにピッタリなサイズなの」
「はぁ……」
「でもこの区分だけだと、トップ95cmでアンダーが70cmの場合でも、トップ110cmでアンダーが85cmの場合でも、同じ規格のブラジャーを身に着けるようなことになってしまう」
「あっ、もうわかった、それ以上言わなくていい」
「失敬なヤツめ。ちなみにメーカーによっては、Gカップの中だと70は一番細身ってことになるね。マジでスタイルよすぎだし」
「言わなくていいって言ったじゃん!」
「アタシ、それについて頷いた覚えないし!」
どうだ、見たか! と、言いたげに、姉さんは両手を腰に当てて、渾身のドヤ顔を俺に炸裂させる。
非常に人を煽るような表情だったが、見逃すことにしよう。店内が限られた空間とはいえ、望未のあとを追うのに越したことはないし。
「それで?」
「それで、とは?」
「姉さんまで、なに下着を選び始めているの?」
「いや、せっかくだし。アタシ、実は今、もしかしたら人生で最後かもしれないバストアップを迎えそうだし。ちなみにEからFに」
「知りたくなかった……」
「失敬なヤツめ。これでも中高生の頃は、友達にスリーサイズ教えて、その友達が男子にそれを売って、帰りに女の子みんなでカラオケに行けたぐらいだし」
「もっと知りたくなかった……」
「弟ゆえにアタシの可愛さがわからんとは……」
「っていうか、そんなこと明かしていいのか? 考えてみれば当たり前だけど、例の22人の誰かが、店内か、あるいは外とかにいるんじゃないの?」
「あぁ~、もうバラすけど、確かに万一の場合に備えて、何人かは配置についている。けど、望未がノーパンなのは明らかに予想外だけど、致命的な事態、身体的な危険ではない。だから、例の22人のうち、今は女性だけが配置に着いている、って感じだし」
それを聞けた瞬間に行動に移した、
俺はバッ、と、店内を一度だけ、速く、しかしなるべく確実に見回してみる。
「――流石に、こっちを見ているような人はいなかったか」
「悠真……、アンタは普通に優しい男子だとは思うけど、基本、狡猾だよね……?」
「勝手に俺たちのことを覗き見していた姉さんに言われたくない」
「アタシはしていないし!」
それは逆に、より悪質なのでは?
自分の手を汚さず、責任を研究仲間に押し付けているわけだし。
と、そうこうしているうちに、望未が選び終わったようだった。
彼女の手には桜色のショーツとブラジャーが。
「望未、なんでそれにしたの?」
「私は極端に肌が白く、髪も銀髪です。実験のためにこのように設計されましたが、他の色が存在しているエリアと言えば、瞳、唇、
「わかった。それ以上はマズイから、結論を言ってくれるとありがたい」
「色彩学にはコントラストという配色方法があります。その詳細なデータは現時点で学習していません。ですが、暖色系の色が人間を興奮させる、というデータは記録媒体の中にありましたので。よって仮に誰かに私の下着姿を見せる展開になった場合、寒色系の色の下着を身に着けているパターンと比較して、相対的に興奮して感情的になっているサンプルを得られると判断しました」
「闘牛と同じ理論だし……」
「ちなみに、ならなんで真っ赤じゃなくて桜色なの?」
「私は女性の姿をしています。ですので、見せる相手の性別にかかわらず、その相手にやわらかく、軽い印象を視覚的に抱かせた方がいいと判断しました。深紅ですと、相手を興奮させるには充分の傾向が強いですが、視覚的なやわらかさと軽さが損なわれてしまいますので」
「姉さん、今、望未、やわらかさとか、軽さって表現を使ったけど――」
「――少し色彩学についても学習させちゃったから。図書館での実験で。感情を知ったんじゃなくて、色の明度と彩度の話だし」
「それは残念」
「それで、悠真はこれを聞いて、望未をどんな女の子だと思った?」
「…………」
「ほらほら~、言っちゃいなよ~? 望未のことをどんな女の子だと思ったの? まさか、エッチな女の子とか?」
「…………ひ」
「えっ? ひ?」
「人を煽るのが上手い女の子だと思いました」
「アンタもアンタで逃げるのが上手いな!」
褒めているのだろうか、それは?
「それと、望未?」
「はい、お兄ちゃん」
「女性の姿をしているから女性らしくあるべき、とか。あるいは男性の姿をしているから男性らしくあるべき、とか。当然、望未本人が自分で思っているだけなら自由だ。けど、それを他人にまで強制しちゃダメだからな?」
「わかりました、お兄ちゃん」
「んじゃ、望未にはそろそろ試着してもらいましょう! アタシもいいブラジャーがあったし」
言うと、姉さんは望未の手を引っ張って試着室に連れて行った。
置いていかれるとマズイので、俺も2人のあとを追うことに。
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