2章18話 18:12 今までノーパンだった望未のために、ランジェリーショップに!(1)
「あのさ、姉さん?」
「なに?」
「人生初のデートで、その相手と姉同伴でランジェリーショップとか……。恥ずかしすぎて死ねるんだけど……」
「人生初のデートでサイゼの会計を、同伴した姉にやらせたヤツがなにを今さら」
「安心してください、お兄ちゃん。第一に、私との外出時には極力、悠乃にも一緒にいてもらった方が緊急時のリスク回避にも繋がります。第二に、恥ずかしすぎて死ねる、というのは比喩表現だと推測しますが、私の方はお兄ちゃんを恥ずかしいと認識していません。よって、お兄ちゃんが現状に批判的である必要はありません」
「いつか誰かと、人生初のデートでなにした? って恋バナになって、仮に正直に答えたら、ありえな~い! って嘲笑されそう……」
「先ほど悠乃とも話しましたが、第三者がそれをありえない、と、そのように断言するのはなぜでしょうか? 私が問題ないと判断しているのに」
「よくわからないけど、共感したつもりになっているんじゃないの? 自分がその立場なら、ありえな~い! って」
「共感、ですか? わかりました。一時的に質問を撤回します」
「えっ? 悠真に質問攻めしなくていいの!?」
「現時点での私にとって、共感性を獲得することも実験の目的の1つです。それを獲得したあとでないと、質問に意味がないと判断しました」
「アタシがしどろもどろになりながら、ようやく質問攻めから解放されたのに……。悠真のヤツ、たった1回で解放されやがったし……」
「それはともかく、恥ずかしいことには変わりないから、早く望未の下着を買おう……」
何気なく、怪しまれないようにというか、誰かを不快にさせないように店内を見回す。
ランジェリーショップなんて写真でしか店内を見たことがなかった。が、まさに絵に描いたようなランジェリーショップだった。
表を素通りして多少視界に入る店の入口なら、そこまで緊張しなかったかもしれない。
あまり堂々と言えるようなことではないが、なにかしらの理由があった時、そこに立つ自分をイメージできるから。
しかし奥まで入るとやたら緊張する。
いつもどおりなのか偶然なのかは知らないが、店内に男は俺1人。他は店員さんもお客さんも全員女性だった。
ハンガーにかかっているショーツやブラジャーは当然売り物だ。誰かの持ち物ではない。が、逆を言えば、いつかは誰かの持ち物になるショーツやブラジャーで……。
試着室では今も1人の女性が何回か試着しているらしい。外で待っている友達に、新しい下着を持ってくるように指示をしていた。突撃するなんてことは絶対にしない。が、たった1枚の仕切りの向こうで見知らぬ女性が着替えている、と、一度でもその考えが頭を過ってしまったら、それが烙印のように消えてなくならなかった。
繰り返すが、それはもう緊張する。
自分が本当はあまり積極的にいたらいけないような店にいることにも。
今から3日前に妹になったばかりの女の子が、今度は本当に、互いの了承を得て下着姿になろうとしていることにも。
いろいろと俺にはまだ早いような感じがして、イケナイコトをしている気になってしまう。
「俺、店の外で待っていたらダメ?」
「ダメ、絶対」
「なんで!?」
「いや、厳密にはダメっていうわけじゃないけど、別に悪いことしているわけじゃないし。言ってしまえば、外で待つ意味がなくない? 本当にダメだったら、店員さんがそれとなく教えてくれるはずだし」
「ぐぬ……」
「ぶっちゃけ誰も気にしないよ? 悠真はアタシと望未と一緒にきているわけだし。アンタが勝手に気にしているだけでしょ。それとも――」
「それとも?」
「なにか、やましいことでもするつもりなの?」
「しないけど!?」
「じゃ~、決定! っていうか、そこまで初々しい反応されると、アタシ個人的には、もはやランジェリーショップにいても男として見られないし」
「実の姉に男として見られたくないし!」
「アッハッハッ、そりゃそうだ」
からかうのように、イタズラっぽくニヤニヤしている姉さん。
パンクファッションも相まって、それがいいか悪いかは置いておいて、どこか小悪魔のようにも見えた。
「そもそも姉さんが、望未に着ていく服装の指示を正確にしていたら、こういうことにはならなかったのに……」
「いやいやいやいや! 無理だし! すでに下着を身に着けている状態で、今日はこのワンピースで過ごしてね? って指示したんだよ? そこから下着を脱ぐ展開なんて予想できないって!」
「母親みたいなポジションにいるんだし、きちんと見ておいてくれ……」
「待って! ちょっと待って! 母親であろうと、16歳の娘の着替えを監視するわけないし! 悠真こそ、お兄ちゃんどころか微妙に父親の代わりみたいなポジションにいるんだし、アタシに責任を押し付けるのはよくないと思います!」
「待て! ちょっと待て! 仮に望未がそれを許可したとしても、兄貴や父親が16歳ぐらいの女の子の着替えを監視するのはマズイだろ? 世間体を考えてくれ」
「なにを~っ!?」
望未の教育について言い争う俺と姉さん。
自分の表情なんて鏡を使わないとわからない。が、少なくとも姉さんは頬を小さく膨らませて、身長差がそこそこあるので、見上げるように俺を睨んでくる。
その時だった。
不意に、望未が俺の服の裾を控えめに、クイッ、クイッ、と、2回引っ張ったのは。
「どうした、望未?」
「私には感情がなく、連動して、誰かのそれを想像することもできません」
「? あぁ、これから宿るといいよな」
「ですので、物理的な事実だけを言うと――」
「「言うと?」」
「悠乃もお兄ちゃんも、少し、周囲から見られています」
バッ、と、俺と姉さんは同時に周囲に目を向ける。
望未の言うとおり数人の店員さんとお客さんが、こちらを見てなにか話していた。当然、その声なんて聞こえてこないが。
「どうする?」
「どうする、とは?」
「個人的には、ここでも望未にやらせてみたいことは多い気がする。けど、これは予想していなかったスケジュールでしょ?」
「そうだな」
「ここで時間を使うか否か。悠真はどうする?」
「む~ん……」
天井を仰ぐ。
いや、他の方向に目を向けたら、ショーツやブラジャーが視界に入ってしまうし。
ここで一番いい展開は、俺が早くこの絶対乙女空間から脱出できるのに、姉さんと望未にもメリットがある展開だ。
とはいえ、そんな都合のいい展開なんてあるわけがない。
あっ、いや……。
待てよ?
「姉さん」
「なに?」
「例えば望未に、試行回数が無限回……だと、ややこしいことになるから、この店の下着を最終的には全て買う仮定、これを前提とした指示を出す、ってことはできるか?」
「なるほど。さっきはウソを吐いてその状況を作り上げたけど、今回は最大限回数の試行をそもそも前提にする、ってことだね?」
「どう?」
「う~ん、その前に1ついい?」
クルッ、と、姉さんはその場で望未に振り向いてみせる。
「望未ってスリーサイズ、どのくらいだっけ?」
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