1章10話 4月10日 意外とリアルにブラコンで、美人なお姉ちゃんと外食へ(6)



「さて、悠真、今度はこっちが、1つだけ質問させてもらう」

「答えはYESだ」


 ちょうどパスタを食べ終わったので、フォークを置いて口を拭いた。


「まだなにも言っていないんだけど?」

「俺がシーカーさんのコミュニケーションの練習相手になるか否か、だろ?」


「ちなみに、YESの理由は?」

「青臭い理由だけど、この子の笑った顔が見たいから」


「エロイことがしたいの間違いじゃなくて?」

「本人が無知だからって、騙して性的なことをするなんて、俺にはできない」


「へぇ?」

「その……、えぇ、っと……、あの……、うん、あれだ、あれ。仮にだぞ? あくまでも可能性の話だからな? 仮に、もしも、たとえば、俺とシーカーさんがそういう、うん……、、あれだ……、とにかくそういう時は、シーカーさんから誘ってきてこちらが頷くか、もしくはシーカーさんの了承を絶対に得る」


 クソめ……。

 姉さんのヤツ、微笑ましいモノを見るような目で俺に微笑みやがって。


 せめてもの救いは、シーカーさんに今の段階では羞恥心がないから、俺に特に不快感を示さない、ってところだ。

 いや、その情報をさっき聞いたから、こういう発言ができたんだけど……。


「っていうか悠真、もしかしてシーカーに惚れた?」

「本当にそういうわけじゃないんだけど――」


「けど?」

「家族になる以上、俺はその子の笑った顔を、一度ぐらいは見てみたい。だから仮に、シーカーさんが男性の姿をしていても、俺は同じことを答えたと思うよ」


「――――」

「もちろん、シーカーさんはすごく美少女だと思うし、一緒に暮らす上で、異性としてドキドキすることもあると思う。けど、今の笑った顔が見たいって答えは、きっと、お兄ちゃんとしての発言じゃないか?」


 なんとなく話も終わりそうだし、コーヒーを飲んでしまおう。


「シーカー、我が弟ながらヤバイよね、こいつ」

「ヤバイ、ですか?」

「失礼な姉だな。むしろ大切なことをキチンと言えていただろ」


「それは認めるけど、恥ずかしくて言えなくなるでもなく、意図的にさらにカッコつけるでもなく、大切なことだからって、必死に早口でまくりたてて、過剰にアピールするでもない」


「普通じゃん」

「普通じゃないんだよなぁ」


「どっちが正しいのでしょうか?」

「それはこれから悠真と過ごして、シーカー自身が答えを得る問題だ」


 そこで、姉さんは伝票をピッ、と、人差し指と中指でつまむ。

 そして金額を確認。


「シーカー」


「はい、なんでしょうか?」

「こいつが今日から、シーカーのお兄ちゃんだ」


「確認しますが、私と悠真さんの間に血縁関係も、戸籍上の繋がりもありません」

「そうだね」


「年上で異性の幼馴染を、女性の方がそう呼ぶことも稀にある、という情報は、確かに以前教えてもらいました」

「うんうん」


「しかし、私は悠真さんの幼馴染というわけでもありません」

「当然っ」


「お兄ちゃんの定義を、私の方で決めろ、ということでしょうか?」

「今すぐにじゃなくて、答え合わせは当分先だけどね」

「わかりました」


 すると、シーカーさんはこちらを向いてきたので――、


「早速だけど、シーカーさん。呼び方、変えてもいい?」

「かまいません」

「なら、これからは望未のぞみって呼ばせてもらうよ」


 スマホを取り出して、メモ帳にすでに書いてあった漢字を2人に見せる。


「昨日、夜更かししている気がしたけど、名前を考えてあげていたの?」

「まぁ、そんなところだ」


 厳密には、名前を考えるために夜更かししたんじゃなくて、眠れずにベッドの上でゴロゴロしている最中に、どうも眠れなさそうだから考え始めたわけだが……。

 いつまでもシーカーって呼ぶわけにもいかないし。


「あと、なんで『悠』って字を使わなかったの? いや、使わなきゃいけないルールなんてないけど、アタシにも悠真にも使われている文字だし」

「名前に規則性があるから家族、っていうわけでもないじゃん」


「ちなみに、なんで望未っていう名前にしたの? 実験の成功を望んで、ってこと?」

「違う」


「答えは?」

「将来の展望が、可能性が、未知数でありますように、って」


 視線を感じた。

 勘違いかもしれないけど、俺の主観だと。


「どうしたの?」

「理解できない、ということを、暫定的に理解しました」


 と、その時だった。

 俺のスマホが震えたのは。



はるの : 『名前を付けたことで、つらいことも、あるかもよ?』

仙波悠真 : 『それはその時、乗り越える』



 スマホをしまう。

 そして、俺は、俺の妹に目を向けると――、


「じゃあ改めて、望未って、呼んでもいい? 妹になるわけだし、呼び捨てで」

「問題ありません。私の方は、悠真さんのことをなんとお呼びすれば?」


「論理的でもいいから、望未が考えて決めてくれると嬉しい」

「では、悠乃が――、こいつが今日から、シーカーのお兄ちゃんだ。そのように先ほど言っていたので、お兄ちゃん、と呼ばせていただきます」


 それをキチンと聞くと、俺は望未に対して右手を差し出した。

 すると望未は、俺の手を握ってくれて――、


「望未、これからよろしく」

「よろしくお願いいたします、お兄ちゃん」


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