1章9話 4月10日 意外とリアルにブラコンで、美人なお姉ちゃんと外食へ(5)
「ちなみに、シーカーさんが女性の理由は?」
「男性の姿でも女性の姿でも、私が実験の計画書、及び設計図をもとに造られている以上、運動能力に実験の妨げになるレベルの違いは出てきません。なら、少しでも人間で言う脂肪に相当する部分を増やして、万一の時、致命的な破損に繋がらないために、女性としての姿が選ばれました」
「予想以上に納得できる理由だった……」
「そう考えると、女の子とエロイことするゲームで、アンドロイドが女の子ばかりなのにも納得できちゃうよね。メチャクチャ合理的だし」
高校生の前で大人がエロゲの話をしないでくれ。
反応に困る。
「あれ? 待てよ。そもそも、シーカーさんはどうやって俺たちと会話しているの?」
「私の本体が、私の声の元となる音をシンセサイザーによって加工して、それを喉の奥のスピーカーから出力しています」
「要は、リアルタイムで、人工知能がボーカロイドのようなモノを使って話している、ってこと」
「本体? 人工知能が宿っているPCのこと?」
「肯定です。入出力端末がここにあるのに対し、場所は秘匿させていただきますが、私の本体であるコンピューターは別の場所に。そことの通信によって、この身体は動いているのです」
「鼓膜は……目の次に簡単そうだからいいや。ワイヤレスマイクなんて普通だし。だったら、これは絶対に聞いておきたいんだけど、充電はどうやって……?」
「ワイヤレス電力伝送です」
「ウソ吐けるじゃん……」
「すげぇ、シーカーが事実を言っているのに、人間がそれを固定観念でウソと思っているし。かなり面白い」
「マジで……?」
「シーカーが言っていることは事実だよ。悠真がイメージしているスマホを充電するアレは、非放射型の電磁誘導方式。シーカーに搭載しているのは放射型。伝送元は仙台市内に数ヶ所あって、GPSで効果範囲を絞っている感じ」
「他の機械に影響とかは……」
「周波数が違います。悠真さんが普段から使っていると推測される物で喩えますと、街中でブルートゥースを使っても、他の人の機器と混線しないのと同じです」
「令和が未来すぎる……」
「ワイヤレス充電の構想は20世紀初頭の時点で、ニコラ・テスラがすでに思い付いて、実験の記録では約5km先の電球を光らせた、っていうし。っていうか、6歳も離れた姉よりデジタルに対応していないって……」
「機動戦士を造るために、その道を進もうとしているヤツと比べないでくれ……」
仕方がない。
わからないことはあとで調べておくとして、今はパスタを食べよう。
「パスタ食べたままでいいけど聞いてくれる?」
コクコク、と、頷く。
「最後に話しておくのはこの子の所属について」
「3つぐらいの研究室が共同で生んだんだろ?」
「厳密に言えば、3つの研究室の人たちが集まって、研究室での実験とは別個に、実験に乗り出した。たった22人で」
「…………」
「どうしたん?」
「あのさ……」
「うん」
「もしかして、さ」
「うん」
「あくまでも同人っていうか……自主的な活動、ってこと?」
「YES」
「シーカーさんを、22人で?」
「YES」
「…………」
「んんっ?」
「おかしい……、自分の部屋でとはいえ、風呂上りに素っ裸でアグラをかいて、寝落ちするまでゲームしている姉さんが天才に見えてきた……」
「し、っ、失礼だなぁ、おい! 誰かに聞かれたらどうする!?」
恐らく、風呂上りに素っ裸でアグラをかいて、という部分に反応したのだろう。
姉さんが珍しく顔を赤くして、本気で恥ずかしがっていた。
「でも、さっき言っていなかったか? 経費はそっちが負担する、って」
「建前としてはサークル活動だし」
「なら、大学の計画じゃないのに大学の設備を使っているのも……」
「同じく、建前としてはサークル活動だし」
「えぇ……」
「それにパトロンがいる可能性だってあるし、22人の中に大金持ちがいる可能性もあるし」
「けふぅ!」
どこかから女性がむせた声が聞こえてきた。
店内はそれなりに賑わっていたので、その声の発生源はわからない。
けど、考えてみれば当たり前か。
シーカーさんがいかにその22人にとって大切な女の子かを考えれば、姉さん1人に保護者を頼むわけがない。
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