1章8話 4月10日 意外とリアルにブラコンで、美人なお姉ちゃんと外食へ(4)



「用意自体はできていますが、それは当分先になると聞いております」

「えっ、そうなの?」


「はい。今のままだと在校生の方々と円滑なコミュニケーションが取れず、イジメに発展する可能性が高いから、と、そのような理由で」

「開発費もバカにならないからねぇ」


「ってことは……俺はもしかして、練習相手?」

「正解♪ 仮にも姉がシーカーの開発者の1人だからね。シーカーの保護者にもなれるし、悠真の相談相手にもなれる」


「母さんと父さんの許可は?」

「すでに取ってあるし、なんなら協力のお礼も支払われる。もっと言うなら、悠真がシーカーを遊びに連れて行った場合、領収証があればその費用は全てこちらで負担する」


「……なんで、俺なんだ?」

「? それは今言ったじゃん」


「そうじゃなくて、環境を変えることになったのはわかった。そして、その環境に適応できないと判断されているのもわかった。でも、水族館とか、動物園とか、少なくとも駅前には何回か連れ出しているはずだろ?」

「そうだね」


「変わっているの、場所じゃなくて、話し相手じゃん」

「お~、流石我が弟、意外とさとい」


 その時だった。

 姉さんがカプチーノを一気に飲み干したのは。


「シーカー、ゴメン。メロンソーダ、持ってきてくれない? 一度炭酸で限界になったら、それが消えるのを待って、アワアワなしの状態でコップのだいたい9割程度」

「了解しました」


 小さく、淑女のように頷くと、シーカーは姉さんの指示に従ってドリンクバーに行ってしまう。


「アタシは、シーカーの製造者だからね」

「あぁ、聞いたぞ、さっき」


「アタシたちは、もう、あの子を人間の女の子と見なしている。かなり空気読めていないけど」

「それも聞いた」


「悠真は?」

「話を聞いても、俺には彼女が人間の女の子にしか見えない」


「現実は違うけど?」

「俺がそんなふうに見たいから、勝手にそんなふうに見ているだけだ。ダメなことか?」


「いや、お姉ちゃんも同じ意見。でも、1つだけグループのみんなと、悠真には違いがある」

「違い? 製造者じゃないってこと?」


「もっと鮮烈に言えば、あの子が1から組み立てられていく瞬間を見ていない。出会ったその瞬間から、すでにあの子のことを人間としてしか見ていない。ってこと。ある意味、羨ましいと思うね」


「だからか?」

「なにが?」


「俺になにも伝えていない状態で、シーカーさんを昨日、全裸待機させていたのは」

「さぁ、なんのことだろうね? とはいえ、それが最初にあったからこそ、悠真はシーカーのことを女の子として認識している。というのは事実かもしれないけど」


 その時だった。

 各々の料理が運ばれてきたのは。


 そしてシーカーさんがメロンソーダ片手に戻ってきたのも。

 一応、シーカーさんが席に着くのを待ってから、俺も姉さんも食べ始める。


 と、思いきや――、


「シーカーさん……」

「はい、なんでしょう?」


「なにしているの?」

「食事です」


 バッ、と、俺は姉さんに視線を向ける。

 いやいやいやいや、少し落ち着こう。


「食事もできるアンドロイドなんて、どうやって作っ――生んだんだ?」

「この子はこの子だけよ。設計図もあるし、データも取るけど、量産や複製には向いていない。現時点では。もちろん、生むための費用はかなりの高額になったけど」


「思い返せば東口で触った時、体温があったけど、あれは……」

「発熱を36度前後に維持できれば、温度に関して言えば人間と見分けが付かないと思わない? 機械なんだから発熱は当然だし」


「なら、どうやって冷やしているんだ?」

「スマートフォンと同じ。冷却ファンを付けられないから、熱伝導に優れている素材を使っているの。さっき悠真が触ったおっぱいに関して言えば、人間の豊胸手術に使うシリコンをベースにしているし」


「それだけで本当に――って、シーカーさん、なに水飲もうとしているの?」

「ダメだったでしょうか?」


 例のごとく、シーカーさんは可愛らしく、稚く小首を傾げる。

 キョトン、という効果音が聞こえてきそうなぐらい。


「壊れないの?」

「水冷機能が全身に巡っていますので」


「食事に申し訳ないけど、本当に真面目な話、この子、疑似的なおしっこもできるから。とはいえ、老廃物は混じっていないけど。ポンプの中身の入れ替えが目的だし」


「味覚は?」

「疑似的にはあるよ。糖度計とか酸度計とか塩分濃度計。そういうのを彼女の舌に搭載しているから。これも食事がくる前に言っておくべきだったけど、まぁ……、えっと……、大きい方も。厳密には食べた物を消化していな――」


「いや、それ以上言わなくていい。シーカーさんが恥ずかしいだろうし、可哀想だ……」

「いえ、悠真さんが私を可哀想と思うのは自由ですが、私には羞恥心がありませんので」


 瞬間、俺も、姉さんも、無言になった。

 どうすんだよ、この空気……。


「コホン、そういえば、シーカーさん。味覚以外の五感はあるの?」

「はい、視覚も、聴覚も、嗅覚も人間と同程度の代替機能があります」


「あれ? 触覚は?」

「触覚は手足と女性器の部分のみ完璧に」


 うぐ……っっ、コーヒーを吹き出しそうになったから、強引に口をふさいだけど、っっ、む、むせる……。

 っていうか、本当に聞いている方が恥ずかしい!


 遊んでいるわけでもなく、それ以前に、遊ぶ意味さえわかっていない。

 そんな純真無垢な美少女の唇から、女性器なんて単語が飛び出るなんて!


「他に顔面、首、バスト、ウエスト、ヒップ、背中、腕、ふくらはぎ、太ももなどは部分的に。また、私には痛覚がないので、代わりに衝撃力測定器などが備わっています。最後に、温度覚は温度計で代用を」


「姉さん、なぜ大切なところを……?」

「いや、気持ちはわかるけど、手足の次に完璧にすべきはそこでしょ。シーカーには、いずれ恋だってしてもらう予定だし」


 いや、こっちもそれはわかるけど!

 感情についての実験らしいし、その上で、面積が他と比べて少ないって言うのもわかるけど!


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