1章11話 4月11日 文芸部の妖精は退廃的で、耽美的だった。(1)
翌日――、
放課後――、
俺は雪村の紹介で月島天音くんと会おうとしていた。
彼が指定したのは部室棟3階にある文芸部の部室。
とりあえずそこを目指して歩いているのだが――、
「こっちが迷惑をかける立場とはいえ、深水はともかく、雪村まできてくれないとは……。雪村の知り合いなのに、あいつ抜きで大丈夫だろうか……」
周りに誰もいないから大丈夫だろう。
廊下を歩きながら独り言を呟く。
どうも、雪村は月島くんのことをライバル――あいつなりに言い換えれば不俱戴天の仇と思っているらしい。
ヤバイよな……、中間テストも期末テストも、入学からずっと同率学年1位って。
仙波悠真 : 『月島くんってどういう人か知っている?』
MIYA SHIRASAKI : 『なんでウチに訊くの? 雪村の方が詳しいでしょ』
仙波悠真 : 『訊いたら既読スルーされた』
MIYA SHIRASAKI : 『もしかしてアレじゃない?』
MIYA SHIRASAKI : 『高校のテストなら互角だけど』
MIYA SHIRASAKI : 『それ以上だと月島くんの方に軍配が上がる、とか』
仙波悠真 : 『雪村に勝つってヤバイな』
仙波悠真 : 『ちなみに深水にも訊いたんだが』
仙波悠真 : 『男には興味ない、って』
MIYA SHIRASAKI : 『残念! ウチも特に知りません!』
MIYA SHIRASAKI : 『っていうか、成績学年1位はすごいと思うけど』
MIYA SHIRASAKI : 『だからって、調べようとは思わないじゃん、その人を』
仙波悠真 : 『確かに。別のクラスならなおさらか』
MIYA SHIRASAKI : 『話変わるけど、土日って暇?』
仙波悠真 : 『ゴメン、どっちも埋まっている。駅前とか映画館に行く予定だ』
MIYA SHIRASAKI : 『神は死んだ』
仙波悠真 : 『悪いな。また明日』
MIYA SHIRASAKI : 『また明日(´・ω・`)』
LINEを終わらせるとスマホをポケットにしまう。
そしてあと10歩程度歩けば――、
「ここだな」
ドアの上のプレートにも『文芸部』って書いてあるし、間違いないだろう。
遠慮がちにノックをしてみると、中から声が聞こえてきた。
『入りたまえ』
聞こえてきたのは、やたら演技っぽい中性的な声だった。
俺は多少緊張していたが、それでも言われたとおり、部室に入らせてもらうことに。
が――、
いきなり目の前に現れたのは――、
「……本棚の位置、おかしくない?」
「気にしないでくれるとありがたい。本の日焼けを防ぐためには、こうするのが一番だからね」
だとしても、ドアを開けて目の前の位置に本棚はやり過ぎだと思う。
その上、横幅も高さも2m近くありそうだった。
「地震きたらヤバイでしょ」
「抜かりはないさ。このボク、月島天音を甘く見ないでほしいものだ。いざという時は縄梯子で、窓から地上に降りさせてもらうからね」
なかなかユニークな生徒らしい。わずかに
しかし、いつまでも棒立ちというわけにもいかない。
日の光が少ししか届かない、薄暗いドア付近。そこから勝手に奥に進ませてもらうが、流石に本棚で迷路は作っていないようで安心した。
本棚は全て東側の壁にくっ付いていて、部室の西側に奥へ続く道が用意されている。
それにしても、すごい。
アルファベットのLを左に90°回転させた感じ、とでも言うのだろうか……。それを5つも並べるようにして、合計10個も本棚がこの文芸部室にあった。しかも、そのほとんどが本で埋まっている。
そして薄暗がりから茜色の光の差す方へ――、
一種の隠れ家と化している部室の一番奥には――、
「――ようこそ、ボクの城、ボクの庭へ。
キミが仙波悠真くんで、間違いないかい?」
――亜麻色の長髪の妖精がいた。
赤らむ世界で黄昏るように
それは中世から時を超えて現れた妖精のようにも、魔女のようにも、吸血鬼のようにも、そして正直、サキュバスのようにも、どうしても、どうしても、失礼だから否定したくても、なぜかそのように目に映ってしまう。
少し不健康なぐらい色白な肌。
けっこう眠たそうな子ギツネのような瞳。
背丈にも恵まれているし、胸も平均よりかなり大きいはず。
なのに、どこか栄養不足でやつれているような感じ。
完璧に計算して生活してきた、発育良好な虚弱体質、というか。
大切に、立派に育ててもらったネグレクトの被害者、というか。
物憂げで、気怠そうで、退屈そうで。
微笑みは自虐的で、声は言わずもがな、演技みたいで。
病んでいるとか、いわゆるメンヘラというわけではないだろう。
むしろ、明らかにメンタルが強いタイプのような気もする。
けれど、自分で自分の感想を最低だと思った。
なんか、こう、暇だからって理由で、平気で麻薬とかに手を出しかねない危うさがある、なんて。
本当に、妖精のように綺麗な女の子だった。
それに間違いはない。
ただ、退廃的、という形容動詞が絶対に必要なだけで。
綺麗を耽美的、という言葉に入れ替えることも、容易いというだけで。
「え、えぇ、あっています。仙波悠真です。雪村の友達の」
「クスッ、ボクとキミは同学年じゃないか。タメ口でかまわないよ」
「……なら、お言葉に甘えて」
「とりあえず、適当に座ってくれないかい? 今、なにかお菓子を用意しよう」
学校に秘密裏にお菓子を持ってきている生徒は少数派だが、いないわけではない。
が、部員が部外者の生徒をお菓子で出迎えるとは……。
「その前に、2ついい……か?」
「なにかな?」
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