2章15話 17:52 たまたま天音と出会って、彼女の私服を見てしまう(2)



 と、俺がズレたところに変な感動をしていると、ミラインさんがこっちにきた。

 それを見て、次になにが起こりそうか気付いた瞬間、俺と姉さんは慌てて2人の間に割って入る。


「すみません……っ、この子、悪気があったわけじゃなくて……」

「っていうか、言っていいことと悪いことの区別が、本当にまだ付いていなくて……」


「悠乃? お兄ちゃん?」

「この子の姉貴と兄貴か?」


「あっ、えっと――」

「そうです。妹が失礼なことを言ってしまい、本当にすみません」


 メチャクチャ怖いが頭を下げる。

 続いて姉さんも頭を下げたが、いや、おかしいだろ! 弟より先に、姉さんの方が頭を下げるべきでは!?


「――かまわないさ。頭を上げな」

「「はい……」」


「この子、ゲーセンは初めてか?」

「「はい、そうですけど……」」


「昨今、ゲーセンの風当たりは強い。モラルのない一部の連中が、全体のイメージを悪くしているからだ」

「「はい……」」


「フッ、高校生の挑発に顔を真っ赤にするほど、おれたちもガキじゃねぇよ」


「ミラインさん!」

「あなたって人は! あなたって人はァ!」


「悪いな、ギャラリーは無視してくれ。――ともかく、だからこそ、兄貴と姉貴なら、妹さんにゲーセンでのモラルとマナーを、しっかり叩き込んでおいてくれよな。強さって言うのはよォ、マナーを守れて始めて認められるモノなんだぜ?」


 メチャクチャ大人だった。

 ただただ優しい人だった。


「あ、ありがとうございます……」

「本当に、すみませんでした……」

「かまわねぇよ。誰だって、大なり小なり通ってきた道だ」


 謙遜するように笑うと、ミラインさんは望未に視線をやった。


「お嬢さん。名前は?」

「――仙波望未です」


 そして、思えば初めてだった。

 望未が自分のことを、仙波望未と自己紹介したのは。


「今回はおれたちの負けだ。そして今の実力差だと、次におれたちが勝つのも難しいだろう。だが――」


「はい」

「――少なくとも、次回は時間を無駄になんてさせねぇぜ」


「ミラインさん!」

「あなたって人は! あなたって人はァ!」


 恐らく、彼はこのグループのリーダーみたいな立ち位置にいるのかもしれない。

 彼のことを慕う声がけっこう上がってくる。


「お前ら! いつまでもボ~っとしているな! 周りから見たら遊びでも、おれたちは本気でプロを目指すんだろ!?」


「ミラインさん!」

「あなたって人は! あなたって人はァ!」


 そして徐々に各々、格ゲーの筐体に座っていくゲーマーのみなさん。


「あばよ、仙波望未。次に会う時はライバル同士だ」

「さようなら、ミラインさん」


 なんか、もう、ただただ優しい人だった……。


「あぁ、それと――、これは姉貴さんの方にも同じことが言えるが、ゲーセンにくるなら一応、スカートよりもズボンの方がいい。頻繫に湧いて出るわけじゃねぇが、神聖なゲーセンにゲームじゃなくて、パンツを盗撮しにくるゴミクズがいるからな。滅多にいないが、念のため」


「ありがとうございます」

「本当の本当に、この恩は忘れません」

「じゃあな。お前らの最強への旅路は始まったばかりだ。健闘を祈るぜ」


 いや……、迷惑かけた俺たちがツッコムのは間違っているかもしれないけどさ……。

 俺も姉さんも望未も、格ゲーのプロゲーマーになりたいわけじゃないんだ。


「あ~、すごくいい人で助かった~」

「うん。それに、あの人も望未のことを、1人の女の子として接してくれたし。もちろん、目の前の女の子がアンドロイドなんて、天文学的な確率かもしれないけど。それでも、親切な人と巡り合えたわけだし」


 と、そこで俺は望未に向き直った。

 次いで、姉さんの方も。


「?」

「望未、まぁ、その……、えっと……、あれだ」


「あれ、とはなんでしょうか?」

「無神経、だったな……。奇跡的に何事もなくすんだけど」


 ふと、俺は望未の頭を撫でる。

 触ったのは初めてだったけど、予想通り、いや、予想以上にサラサラだった。


 手の平が心地いい。

 毎朝毎晩撫でても、きっといつまでも飽きないほど。


「ちょっ、悠真……!?」

「でも、無事でなによりだ」


「――はい。推測ですが、実験の成功を目指すばかり、無関係な人に、そして連鎖して、悠乃やお兄ちゃんにも、迷惑をかけてしまいました。申し訳、ございません」

「次に会った時に、きちんと謝るしかないな」


「次、でしょうか?」

「あぁ、向こうは望未と再戦したいみたいだし」


 先ほどまで望未と戦っていたゲーマーさんたちをチラ見する。

 各々、自分たちのプレイに勤しんでいた。


「邪魔したら悪そうだし」

「――心の伴わない謝罪に、意味はあるのでしょうか?」


「そんなこと言ったら、ただ悪く思っているだけで、言葉にしない謝意なんて、もっと無意味なモノだし。言っておいて、デメリットはないと思うぞ?」

「悠真も悠真で、かなり寛容だよね。ぶっちゃけ、高校生とは思えないぐらいだし。でもさ――」


「んっ? どうした、姉さん?」

「いつまで女の子の髪、触っているつもり?」


 バッ、と、俺は望未の髪から手を放した。

 確かに気安く触り過ぎたか……。


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