2章14話 17:52 たまたま天音と出会って、彼女の私服を見てしまう(1)



 昼食のあと――、

 姉さんに「アタシが望未から離れるわけにはいかないけど、そろそろ、本格的に2人でのデートを楽しんでみたら?」と言われてしまったので、遠慮なく、俺は望未とのデートを午前以上に楽しむことにした。


 望未と並んで恋愛映画を観たり、その時、飲み物と間違えて彼女の手を握ってしまったり。

 LOFTで望未と一緒に雑貨を見て回ったり、俺から望未にはペンギンのぬいぐるみを、望未から俺にはスマホケースを選んでプレゼントし合ったり。

 展望テラスを訪れて地上31階から綺麗に赤らむ夕日と空と、茜色に染まる街並みを眺めたり、2人で高いところが苦手な姉さんを少し置いていったり。


 そして、まだ時間があったので、少し目的地も決めずアーケードを歩いていると――、

 ゲーセンが見えてきて、望未にゲームをやらせてみることになったのだが――、

 

「バカな!? クラウドがストレート負け!?」

「ハッ!? アルファオメガ、きたのか!?」


 大学生ぐらいの男性2人が、なんか戦慄しながら話し始める。


「それだけじゃねぇ……ッッ! それだけじゃねぇんだ……ッッ!」

「なん……だと……? どういうことだ!?」


「ファントムも、ベルフェゴールも、ムラクモも、全員やられちまった……。クッッ……、しかも、ジャッジメントアビスさんまで……ッッ!」

「ライトニングさんは!? 閃光のライトニングさんはどうした……ッッ!?」


「彼はまだきていない……ッッ! バイトで遅れるそうだ……ッッ!」

「ライトニングさんさえ……っ、~~~~ッッ、閃光のライトニングさんさえ間に合えば、あるいは……ッッ!」


 よくわからないが、あと少しで閃光のライトニングさんがゲーセンに着くらしい。

 今、俺と姉さんの目の前、格ゲーの筐体きょうたいでは、望未が新しく乱入してきたチャレンジャーと戦っている。


 12連戦12連勝。

 ラウンドの話ではない。12人のチャレンジャーと戦って、望未はその全員にストレート勝ちした。


「姉さん、どうする?」

「アタシだって最終的には悠真の意向に従う。とはいえ、このまま観察を続けていたい気持ちもある。珍しい展開だし。あと、望未が連勝してくれれば、お金も使わずにすむし。ゲーセンってクレジットカード使えないし」


 言わんとしていることはわかる。

 次にゲーセンにきても、同じようにチャレンジャーがたくさん現れてくれるとは限らないからな。


「クソおおおおおおお! なんなんだ、あの銀髪の美少女はァァ……ッッ! 戦いを挑むってレベルじゃねぇぞ!?」

「これほどの技量、実力、凄絶さ……ッッ! なぜ今まで、風の噂程度でも聞こえてこなかったんだ!?」


「どこに隠れていたんだ!? この銀髪の戦士はよォォォオオオオオオオ!?」

「あぁ! 今度はミラインさんが2連敗だ! あと1敗で、ストレート負けだぞ!?」


「ライトニングさんさえ……ッッ! 閃光のライトニングさんさえいてくれれば、あるいは……ッッ!」


 う~~~~ん…………。

 やっぱり、どうするか……。もう一度だけ考え直そう。


 ゲーセンにきて、望未に格ゲーをやらせたのにはもちろん理由がある。

 正直、格ゲーの技量とかじゃなくて、望未がどのキャラクターを選ぶのかを知りたかったんだ。


 この格ゲーについて、望未はなにも知らなかった。名前さえ、さっき初めて知ったらしい。

 ということは当然、名前と外見以外、キャラクターごとの違いも知らなくて当然だった。


 幸い、この格ゲーのキャラクターは総勢30人程度。

 今度こそ、今日中は無理でも、最終的には30人のキャラクター全てをプレイさせる。そのように約束して、望未にプレイ、厳密に言えば、使うキャラクターを外見だけで判断してもらった。


 可愛らしい女の子のキャラを使うなら、相対的に可愛らしいキャラを選ぶ傾向が強い。

 カッコイイ男性のキャラを選んだのなら、相対的にカッコイイキャラを選ぶ傾向が強い。


 そうやって、少しでも望未のことを知ろうと、いろんなことを頑張る予定だった。

 が、しかし――、


「まぁ、一番初めにカーソルが置いてあったキャラクターを選んだわけだが……」

「この展開をどう見ますか、仙波悠真解説員?」


「……仙波望未は、すごく面倒くさがり屋さんな女の子、ということだと思います」

「ポジティブだなぁ、おい!」


 望未の後ろで呑気に話す俺と姉さん。


「望未はどうだ? 続けるか……は、たぶん俺の指示に従うって言うと思うけど、有意義か? なにかメリットはあるか?」

「初戦以降、歓迎すべき変化がありません。ただ、プレイヤーと、その人が操るキャラクターが作業的に変わるだけです。端的に言えば、時間の無駄かと」


「なっ!?」

「ひぇ!? はるまぁ……、はるまぁ……」


 瞬間、コンボが繋がってミラインさん? が負けた。

 タイミング、悪すぎない?


 いい年した大学院生なのに、俺の腕にギュッ、と、抱き着き、震えて怯える姉さん。相手が血縁者だから言えることだが、豊満な胸をむにゅ、と押し付けられても、その部分が暑苦しい。

 っていうか汗ばんでいない? 地味にシャツが湿っていない? 仲が悪いわけじゃないから、これぐらいで不愉快とは言わないし、やわらかさそのものは、まぁ、姉の胸であってもやわらかいが、見事に動きづらくなった。言い換えれば逃げられなくなった。


 一方で、望未に自分たちの戦いを時間の無駄、そう断じられたゲーマーさんたちも震えていた。

 もちろん、姉さんとは別の意味で震えているのだろう……。


「お嬢さん、今のは少し、オニイサン傷付いちゃうねぇ」

「つまり、どういうことですか? 今、どのような気持ちなのでしょうか?」


 マジかよ……ッッ!

 それを本当に、誰かに面と向かって言える人がいたのか!


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