2章11話 13:43 望未と一緒にレストランへ(2)



「ヒント、100円につき1ポイント」

「よし、お姉ちゃんが奢ってあげるぞ! 悠真の分も、望未の分も!」


 手の平を返すの早いな、おい。


「アッハッハッ! クレジットカードで領収書をもらうなんて初めてだったから、すっかりその発想が抜け落ちていたし! そっか! ってことは、さっきも!」

「入社して間もない新卒社員みたいな発言だな……」


「提案ですが、ドリンクバーに行くことを推奨します。原価を考慮すると、元を取ることはかなり難しいです。ですがそれでも、お腹を壊さない程度に多く飲んだ方が好ましいと判断できますので」


 と、いうことで、望未の提案により3人でドリンクバーに向かう。

 俺はメロンソーダを、姉さんはカフェラテを、望未は野菜ジュースを。

 各々コップに注ぎ、普通に自分たちの席へ。


「さて、悠乃、お兄ちゃん」

「なに?」


「どうかした?」

「先ほどの話はまだ終わっておりません」


「「あっ……、はい……」」


 ジッ、と、望未はこちらをジト目で見て淡々と言う。

 一方で、妹相手にたじろいでしまう俺と姉さん。


 騒がしいのは言い換えれば賑やかとか、無口なのは言い換えれば冷静沈着とか。

 就活でよく言われるらしいテクニックだが、これは望未にも使えそうだな。


 お淑やかだけど、言い換えれば淡々としていて、少し、つまらなそうな感じだし。

 そして、躱せないような追及をしてくるけど、俺の感覚で言い換えれば、それは好奇心旺盛ってことだし。


「推測ですが、2人は私に罪悪感を覚えているのでしょう。根拠は一番初めに謝罪したことと、今、私が話題を元に戻した瞬間、声のトーンが落ちたことなどです」

「まぁ、姉と結託して妹を騙すなんて、兄としては後ろめたいことだし……」


「ですが、ウソ偽りなく、私は怒っていません。そして以前にも同じ意味合いのことを言いましたが、私が怒ったのならば、その時点で実験は成功したということです。よって、私を騙す、という行為も正当なモノと判断します」


 望未を騙したのはこっちだ。

 理由だってあったし、自分の良心に誓って、それは望未のための理由だった。


 とはいえ、騙すことを、その騙された本人から正当なモノと言われてしまうのは――、

 なんか、こう……、もどかしい! こっちだけ勝手に意識して、相手がなにも思っていないのが、すごくもどかしい!


「コホン! にしても、悠真、望未を怒らせるにしては、少し遠回りすぎない? しかも、ウソを吐くにしても不必要に大きすぎだし」


「は? 怒らせる?」

「えっ? それが目的のはずだし」


「は?」

「えっ?」


 あ~、なるほど。そういう勘違いを……。


「姉さん、ゴメン」

「んっ? なにが?」


「姉さんにはウソを吐いたわけじゃない。けど別に、俺は望未に怒ってほしかったわけじゃないんだ」

「こいつ、地味に狡猾だし!」

「では、どのような目的があったのでしょうか?」


 望未が俺に問う。

 それは至極当然な質問だけど、どこから話せばわかりやすいんだろうか。


「いや、ほらっ! 実験の目的は望未に感情を知ってもらうことだけど、今日のデートの目的は、望未の好きなことを探すことじゃん」

「はい。私も、悠乃も、昨夜の時点で、お兄ちゃん自身からそのように聞かされました」

「あ~、なるほどね」


 姉さんは自分のバッグから先ほどの書店のレジ袋を取り出した。

 本をここで出すということはなかったが、姉さんはレジ袋のテープを剥がして中を覗く。

 言わずもがな、そこには15冊の恋愛小説が。


「姉さんの話を聞いて思ったんだよ。望未は目標のために頑張る女の子だけど、制限時間があったら、その縛りを前提として効率的に動くんじゃないか、って」

「だから時間無制限と私に認識させた、ということでしょうか?」


「うん、それであっている」

「えぇ……、アンドロイドに自律行動させるのに、前提条件をぶっ壊すとか……」


 マジかよ、こいつ……、と言いたげなジト目で、姉さんは俺を睨む。


「あとは時間無制限、つまり全ての書籍を読んでいいぞ、って指示されたら、望未は本当に全て読むはずだろ? 少なくとも、俺や姉さんよりは長時間。で、その時、望未が一番初めに読むのはどのジャンルなのかな、って」


 と、ここで俺はひと息吐く。

 そして話の途中だったけど、メロンソーダを一口だけ飲ませてもらった。


「つまり、時間無制限で望未が率先して読んだ本こそ、望未が好きな本、って悠真は結論付けたわけだ」

「まぁ、少しニュアンスは違うけど、大まかに言えば」


 ふと、望未と目があってしまった。

 厳密に言えば、恐らく望未の方は、俺が話していたから、ずっと俺の方も見ていたはずで、そこで俺が望未に視線を向けたから、目があったように思ってしまう感じだ。


 けれど、そこまでわかっていても、照れくさいモノは照れくさい。

 気恥ずかしくなって、俺は望未から視線を逸らした。


「お兄ちゃん、その結論は間違えていると考えます」

「ちょ、望未……」


「姉さん、大丈夫だ。むしろ、きちんと言ってくれた方が俺のためにもなるし、望未のためにも、姉さんたちのためにもなるだろ?」

「――わかった」


 たぶん、こういうことが以前にもあったんだろうな。

 それも1回や2回じゃなくて、10回とか、もしかしたら100回とか。


「私はお兄ちゃんに偽りの時間無制限の自律行動を指示された時、学術的な書籍よりも、創作物を先に読もうと判断しました。一番大きな理由は、学術的な書籍を読んで感動した、と、SNSなどで発信する人は傾向として少ないですが、翻り、創作物を読んで感動した、と、SNSなどに書き込む人は、学術的な書籍の読者と比較して多い傾向にあるからです。それが地球上の真実と断定することはできませんが、少なくとも、私の記録媒体の中身を参考にすると」


「ふむふむ」

「そこから私は、物語性のない情報の集合体よりも、物語性のあるそれらの方が、読者の感情を刺激する2つの傾向――、具体的には、登場人物の内心を想像して、共感する傾向、そして登場人物の変化を通して、読者の方も変化する傾向、主にこの2つが強いと判断しました」


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