2章7話 10:00 デート開始!



 翌日――、

 仙台駅前――、

 今日は土曜日ということで、俺、姉さん、望未の3人で外出することになっていた。


 晴天だが暑くはない。

 気温的にも湿度的にも快適で、降水確率も0%とのこと。


 まさに外出するのには打って付けの休日だった。

 今はペデストリアンデッキの花壇の前に集まっているけど、いつもの休日よりも、人で賑わっている印象を受ける。


「お兄ちゃん」

「なに、望未?」


「なにを思い、通行人の多くが、私に視線を向けるのでしょうか?」

「まぁ……、望未は可愛いし、銀髪だとさらに目立つから」


「申し訳ございません。質問が漠然としていたようです」

「んっ?」


「通行人の方々は、どのような感情を胸に、私を見るのでしょうか?」

「それこそ、あの子、可愛いなぁ、って思っているんじゃないか?」


 ウソ偽りなく、現実の女の子と、アニメとかゲームのヒロインで可愛さを比べるよりも容赦がない。

 自分たちの目の前に、正真正銘、そのレベルの美少女が現れてしまうわけだし。


 銀髪、碧眼、色白で、しかもどこかの箱入りお嬢様のような白いワンピース。

 これで綺麗だと思うな、なんて言う方がどうかしている。


「姉さん、なんで望未を銀髪にしたの?」

「太陽光の熱の吸収率を最小限に留めるため」


「反論の余地がなかった……」

「人間のアルビノと違って、肌が弱いわけじゃないし」


「なら、今日の望未の服装がワンピースなのは?」

「できるだけ薄着になってもらって、熱がこもるのを回避するため」


「ぐぬ……」

「もちろん、高等学校に転入する計画は最初からあったし、ブレザーを着ても問題なし。今日は一応、こういう服装を指示しただけで」


 ちなみにそういう姉さんはパンクファッションをしていた。


 ダボダボで全然サイズがあっていないグレーのインナーと黒のパーカー。

 胸の部分には蜘蛛の巣のような模様があり、肩も鎖骨のあたりもかなり剝き出しになっている。実際にすることはないが、少しでも近付けば、胸の谷間の上の部分は絶対に見えるだろう。


 パーカーは三分丈なのに、なぜか黒と白で縞々のレッグウォーマーを着けている。

 太ももまで届いているパーカーの裾付近は、チェス盤のようなガラをしていた。


 黒のフリルをあしらった、赤をメインにしたチェックのスカート。そこからはやはり黒のガーターベルトが伸びていて、意図的にナイフで割いたような黒のニーソックスを留めている。

 それと、スカートからは2本のチェーンが伸びていて、もっと言うなら、パーカーの方にも2本のチェーンが。

 靴はブーツで、まぁ、かなりの厚底。


 そんな姉さんに――、

 俺は――、


「姉さん」

「なに?」


「お帰りはあちらです」

「どういう意味だ!? あと、さりげなく駅じゃなくてタクシー乗り場を指差してやがるし!」


「ここで一句。いたたたた、いたいたしいよ、いたたたた」

「なに!? 黒歴史、暴露されたいの!?」


「――――なっ」

「――――ふっ」


「仕方がない。この組み合わせだとすごく注目浴びると思うけど、とりあえず移動するか」

「まぁ、そうだね。ここにいてもなにも始まらないし」


 たぶん俺は今、満更でもない感じで笑っていたと思うし、姉さんは普通に笑っていた。

 それを視界に収めたのだろう。望未は俺たちに1つ、質問をしてきた。


「お兄ちゃん、質問があります」


「なに?」

「お兄ちゃんも悠乃はるのも笑顔ですが、今、楽しいんですか?」


「たぶんね」

「なら、なにが楽しいんですか?」


 イヤな予感というか、悲しい予感がして、なんとなく姉さんのことをチラ見してみる。

 姉さんの笑みは苦笑いに変わっていた。恐らく、その質問に応えられないから。きっと、何度もこういうことを繰り返してきたのだろう。


「望未」

「はい」


「今から、個人的にはかなり恥ずかしいことを言うけど」

「なんでしょう?」


「感覚に、理由なんてないと思うぞ? 唯物論みたいに考えるなら、なにかがあって、ただ俺たちがそれに反応しているだけ。だから、望未が楽しいと思わないなら、周りにあわせて、無理に楽しいと思う必要はないんだ」


 瞬間、望未から即行で答えは返ってこなかった。

 そして少しすると――、


「それでは、実験の目的達成に近付けないのでは?」

「まぁ、そうだけど……、そんなこと言ったって、多くの人が絶賛するゲームにもアンチはいる。逆に、どんなに酷評されている映画にも、好きな人がいる。だから――」


「だから、なんでしょうか?」

「とりあえず、今日は論理的でもいいから、望未が好きなモノを見付けてみようか」


「わかりました。過程に差異がありますが、本来、それが今回、3人で出かける理由ですので。異論はありません」

「よし! 悠真! 望未! 出発だ!」


 今まで気まずそうにしていた姉さんが、結論だけは持っていく。

 たぶん、空気を切り替えるために。


「ところで悠真、唯物論なんて言葉、よく知っていたね? あれでしょ、あれ。感情とか意識とか、やる気とか元気とか、心とかも、今はまだ解明されていないだけで、物理的に説明できる、ってヤツ」

「姉さんも知っていたのか」


「流石にそれは傷付くけど!? アタシだって一応、大学院生だし! まぁ、アタシたち、例の22人は機械論って言っているけど」

「友達に教えてもらったんだよ」


 さて、その友達に教えてもらったことを参考にして、そろそろこの3人で遊ぶか。


「お兄ちゃん?」

「どうした?」


「推測ですが、これはもしかして、デート、というモノなのでしょうか?」

「ぷっ、クフ、ククッ」


 姉さんがニヤニヤしながら俺を見ている。

 これは絶対にフォローしないと判断して間違いないな。


 ……俺だって、ただのお出かけよりも、デートってことにしておきたい気持ちが、ないわけではない。

 なら――、


「じゃあ、デートってことにするか」

「わかりました。お兄ちゃん、デート、楽しくなるといいですね」


 スッ、と、望未は俺に右手を差し出した。

 俺が緊張して、その差し出されたを握れずにいると――、


「デートをする時、大半の男女は手を繋ぐ。それがステレオタイプという説明を以前受けましたが、違いますか?」

「いや、正しいとか違うとか、そういうことじゃないけど、嬉しいよね」


 望未と手を繋ぐ。

 本当に、人間の女の子みたいに、細くて、やわらかくて、白くて、か弱くて、あたたかい手だった。


「あはっ、悠真の人生初デートは、お姉ちゃん同行かぁ」

「やめてくれ、それ以上は俺に効く」


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