2章1話 16:07 文芸部に勧誘されて、たった2人きりで活動することに(1)
ところで、座れと言われても、いったいどこに座ればいいのだろう。
座る場所がない、というわけではない。
驚くべきことに、3畳ではあるものの、
しかもその下には収納スペースまで……。
恐らく文芸部を俯瞰したら――、
本棚が壁に背を向けるように4つ。それに挟むように、壁と直角になる感じで、取り出し面が北側を向いているのが3つ。最後に一番南側の壁面本棚に対して直角なのが1つ。
で、さらに、その一番奥手の本棚に座敷が隣接している感じ。
もっと言うならその隣、部室の南東の角にはPCとデスクと割と高級そうなチェアまで。
――本当にこんな見取りだろうけど、明らかにテンプレートな文化部の部室から逸脱しているような。
やむを得ない。
お菓子を用意してくれるらしいし、とりあえず座敷の手前側にでも座らせてもらおう。
「すまないね。ボクとしたことが、一番美味しいプレーン味を切らしていたようだ。フルーツ味とメープル味で許しておくれ」
「クッキーですか?」
「メイト・オブ・カロリーさ」
来客にメイト・オブ・カロリーを出す人、初めて見た。
メイト・オブ・カロリーを取り出して乗っけた皿を、漆塗りされたような座卓の中央に。
次いで、月島さんは俺の対面に座った。
「あの……、いきなり
「へぇ、ボクのことを心配してくれるのかい?」
「当たり前じゃないですか」
「――――」
「んっ?」
「クスッ、流石に即答するとは思わなかったよ。しかし安心してほしい。食事はきちんと取っているさ。1日3食、栄養バランスも考えて、ね」
「そっか、少しやつれているように見えたから」
「メイト・オブ・カロリーを1日4箱食べれば、厚生労働省が発表している、年代別のビタミンとミネラルの推奨量を上回る。覚えておくといい」
「は?」
「となると必然、仮に1日に5箱や6箱食べれば、むしろ平均的な女子高校生よりも、栄養バランスに優れたライフスタイルを送れている、ということになるだろう」
それはなんかダメでしょ……。
メイト・オブ・カロリーが不味いというわけじゃないけど、食事を楽しむという発想が完璧に抜けている。
「毎日同じ物を食べ続けるのは、本末転倒のような……」
「いやいや、流石にそんなこと、するわけないじゃないか。ビタミンとミネラルをカバーできていても、基礎代謝を下回るカロリーだけで1日を過ごしていたら、ガリガリになってしまうからね」
「えっ、問題はそこ!?」
「なかなか起床できなかった日の朝食と、学校がある日の昼食だけ、メイト・オブ・カロリーを毎回2箱いただくだけだとも。大半の朝食、ディナー、それと休日のランチは至極普通の料理だよ」
ウソくさい……。
いや、いい意味でウソくさいんだけど……、月島さんの家に専属シェフや管理栄養士がいてもおかしくなさそうというか……。彼女にとっての普通の料理が、俺とか
「それに、毎晩お風呂上りにプロテインだって飲んでいる」
「あれ? お風呂に入っていたら、確か、筋トレのゴールデンタイムみたいなヤツが……」
「あぁ、すまない、勘違いさせてしまったようだ。別に、ボクは運動が好きだからプロテインを飲んでいるわけではないのだよ」
「んっ?」
「よく、筋トレのあと、プロテインを飲むなら30分以内と推奨されているだろう? それは筋肉が痛んでいる状態でタンパク質を摂取すると、優先的にそれが修復に費やされるからさ。つまり、特に運動と関係ないタイミングでタンパク質を摂取すると、皮膚や粘膜にもそれが比較的配分される」
「へぇ、正直、プロテイン=マッチョの飲み物って印象だったから意外だ……」
「実際に計測したことがないから印象論になってしまうけれど、ボクの肌はとてもぷにぷにでスベスベだよ。主観だけれども、小学生の皮膚にさえ匹敵すると認識している。そして十中八九、肌がそうということは、粘膜も小学生レベルで健康のはずだろう」
「そ、そうですか……」
少なくとも食生活について心配皆無なのはわかった。
っていうか粘膜って、うん、あれ、だよな……。口の中とか、他には、うん、まぁ……。
いや、たぶん月島さんは栄養学とか生物学的にその単語を使ったと思うし、過度に動揺はしないでおこう。
が――、
「月島さん、本題に入る前に、興味本位だけどもう1個だけ」
「どうぞ、好きに質問してくれたまえ」
「改めて、運動はしていますか?」
「――――――」
「聞こえました?」
「結論から言えば、ほとんどしていないね。ボクは女子高校生として、かなり恵まれた体型をしているはずだ。しかしながら、筋肉量は平均を大きく下回っているだろうし、スポーツばかりはお手上げと言わざるを得ない。ふぅ……、神は人に二物や三物程度なら与えてくれるようだが、どうもそれ以上はダメらしい」
勢いで誤魔化すような真似はしなかった。
無論、特に運動不足を改善しようと感じている態度でもない。
本当に、必要最低限の運動さえすれば、あとはどうでもいい、と、いった雰囲気である。
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