1章6話 4月10日 意外とリアルにブラコンで、美人なお姉ちゃんと外食へ(2)



 正直、今回はどこかの店で、腰を据えて会話するとは思う。

 けど友達と遊ぶ程度なら、自販機で適当に飲み物を買えば、そこら辺のベンチで1時間は潰せるだろう。個人的には仙台駅前って、ベンチを探すよりも自販機を探す方が難しいと認識しているし。


「悠乃も悠真さんも、地元を気に入っているのですか?」

「……俺も何回か東京に行ったことあるけど、あそこ、歩道狭すぎでしょ」

「……かといって、山形とか福島だと、プロ野球チームとヨドバシがないし。あとゲマズとメロブととらあな」


「……仙台駅前になれていると、東京に行った時、信号にぶつかる回数が多くて絶望する。仙台駅から1kmぐらい離れている国分町に行くにしても、遊歩道を使えば横断歩道を3回渡るだけですむのに……。しかも遊歩道の9割に屋根が付いているし……」

「わかる、超絶わかりみがマリアナ海溝を下回る。それとペデストリアンデッキに隠れがちだけど、それ以上に西口を網羅している地下鉄の構内が、偉い子すぎてよしよししたくなってくる……」


「つまり、地元愛は相対的な総合評価で決まる、ということでしょうか?」

「姉さん」

「なに?」


「昨日から薄々察し始めていたけど、シーカーさんって、本当に……」

「最初から言っているじゃん。感情や意識についての実験用のアンドロイドだ、って」

「はい、このあと具体的な説明が悠乃の方からありますが、私はウソ偽りなく、人間ではありません。アンドロイドです」


 ふぅ、と、俺は溜息というか、どちらかと言えば深呼吸を吐く。


「不愉快に感じたら申し訳ないと思うけど、1つ、訊いていい?」

「かまいません。そもそも、私が不愉快になるということは、実験の大きな前進を意味します。どうぞ、お気になさらず」


「シーカーさんがアンドロイドってことは、その身体は――」

「心音、並びに脈拍、その他多くの本来人間に必要なモノがありません。例えば、一度止まっていただき、手をこちらに」


 言われて、俺は足を止めて右手をシーカーさんに差し出した。

 すると、同じく止まっていた彼女は、俺の右手を――、


 むにゅ


「は?」


 たゆたゆ

 ふにふに


「もっとご自身で力強く押してくださってかまいませんが、鼓動、しますか?」


 ウソ……。

 心臓のことなんて正直、一瞬でどうでもよくなった。


 女の子の胸、それもこんな美少女の、こんなに大きい胸に触ってしまっている。

 昨日は見ただけで、1mmも触っていない。


 すごくやわらかい。

 たゆんたゆんだ。


 服の上からでも、充分感触が伝わってくる。

 っていうか、普通に体温あるじゃん。温かい。熱には変わりないのに、自分、男子のモノとはなぜか違うように思えてドキドキする。


「なにやってんの、2人共?」


 冷たい声が聞こえてきた。

 バッ、と、慌ててシーカーさんの胸から手を離す。


「悠真さんに、私がアンドロイドである証明を試みていました」

「ここでやる必要あった?」


「服の上からなら、公然わいせつには当てはまらないと判断したのですが――」

「いやいやいやいや! 近くにいたアタシまで恥ずかしいかったし!?」


「姉さんだってさっき俺にウザ絡みしただろ!?」

「あれは周りから、じゃれついているように見えたはずだけど、こっちはもう、弁明のしようがないじゃん!」


「ぐっ、すまない……、あまりにも突拍子がなくて、反応できなかった」

「ハァ、とにかく、早くここから移動しよう。視線が痛いし」


 確かにその通りだ。

 俺も姉さんに迷惑かけた側だけど、それでも早くここから退散したい。


「着いた」

「近いな」


 東口から徒歩で3分程度の距離だった。

 姉さんが俺たちを先導し、ゲーセンやネカフェ、ラーメン屋やイタリアンレストラン、ステーキ屋やタピオカショップ、回らない寿司屋やパチンコ店が入っている、テナントのバリエーションに富んだ建物の中へ。


「今さらだけど、姉さんって何学部だっけ?」

「工学部の機械・電子・通信工学科卒、今はロボティクス専攻」


「志望動機は?」

「機動戦士を造りたかったから」


 エスカレーターに乗って上へ。

 心配になって後ろを確認したが、シーカーさんは雛鳥のように俺と姉さんについてきてくれていた。


「あれ、自重で潰れるだろ」

「戦場は宇宙でいいじゃん。新しい紀元の幕が上がる!」


「っていうか、あれってどうやってあんなにビュンビュン動き回るんだよ……。しかも宇宙で……」

「いやいや、宇宙空間だからこそ、1回のイグニッションで高速移動できるわけじゃん。空気抵抗ないんだし」


「どうでもいいけど、宇宙空間で戦争するなら、機体は黒塗りの方がいいんだよな……」

「え~、機動戦士なら赤外線カメラどころか、X線カメラとかも標準的に搭載しているはずだし! それをパイロットにもわかりやすくするために、機体が補正をかけた映像をディスプレイに映しているだけだし!」


 2階に着くと目の前に広がるゲーセンは無視して、姉さんはファミレスに突撃した。

 幸いにも待ち時間なく席に案内され、俺の対面に姉さん、その隣にシーカーさんが座ることに。


 お冷を置いて、お決まりになりましたらウンヌンカンヌン、と、仕事を終わらせ去っていく店員さん。

 それを後目しりめに確認して、姉さんはシーカさんに指示を出す。


「シーカー、アタシたちが注文する時、あなたはとりあえず……ドリアとドリンクバーを頼んでくれる? お金はアタシが出すから」

「わかりました」


「悠真も、合計700円までならお姉ちゃんが出してあげる」

「ありがとう」


 メニューを見る俺と姉さん。

 とはいえ、ドリンクバーは確定だから、残りは500円程度。


 パスタ――カルボナーラが無難か。

 ハンバーグだとライスまでほしくなって700円超すし。


「決まった」

「アタシも」


 十数秒後、店員さん呼んで各々、注文を終わらせる。

 次にドリンクバーで俺はアメリカンコーヒー、姉さんはカプチーノ、シーカーさんはあとで姉さんに奪われる宿命のカフェラテを淹れて、再び席に着くと――、


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