1章3話 4月10日 自虐ネタにするぐらい、今どき珍しい黒髪ロングでツリ目の委員長が怒ったようだ!(1)



 左隣の席から長身瘦躯ちょうしんそうくの男子が――、


「仙波、寝不足か?」

「あぁ……」


 前の席から振り返って、今度はブレザーを着崩した男子が――、


「どうせスマホでも弄ってたんだろ」

「そうだな……」


 昨日あんな超展開を経験しても、今日は普通に学校だった。

 食後はどうしても眠くなるし、昼休みの残り時間が10分を切っている、というのもつらい。昼休みが24時間あればいいのに……。


「眠い……」


 あの女の子は人間じゃない。姉さんはそう言った。

 それに、仮に人間だったとしても、初対面の相手に間違いを起こすほど、俺は良識を捨てたつもりはない。


 けれど、流石に緊張はする。

 そりゃ、シーカーさんは姉さんの部屋で寝て、俺と添い寝したとか、そういうわけじゃないけどさ。


 でも、なかなか寝付けないに決まっているだろ。

 高校生の割に初心だとは自覚しているが。


「そういや、今日の数学の宿題、仙波と雪村ゆきむら、やってきた?」

深水ふかみ、寝言は寝て言え。宿題はやってくるのが当然だぞ?」


「んじゃ、雪村、ノート見せてくれ」

「フッ、やったけど家に忘れた」


「小学生か!」

「眠いのにキンキンうるさい……」


 机に突っ伏す。


「いやいや、いくらなんでもそこまで眠くは、なぁ?」

「肯定だ。朝方まで起きていたなら、理解できなくはないが」


「あぁ~、話変わるけど、俺も早くカノジョほしい! 黒髪ロングで胸が大きくて、料理が上手で趣味が読書で、初心だけどエッチなカノジョがほしい! 朝までイチャイチャして缶コーヒー飲んで登校したい!」

「流石、我が盟友。同感だ。酒池肉林の限りを尽くし、オレも朝日が昇ってから、微睡まどろみにいざなわれ意識を闇に落としたい」


「無理だろ~、お前たちには~」

「「は?」」

「えっ?」


 殺意の波動を感じる。

 あっ、やべ、しまった。


 女子が教室に残っているのに、そういう発言しているうちは無理。そういう意味で言ったのに、これはもしかして誤解されたんじゃ……?

 追及される前に先手を打たなければ!


「女子が教室に残っているのに、そういう発言しているうちは無理だと思うぞ?」

「あ~、そういう意味か。ビックリした」


「まったくだ。驚かせないでくれ。仙波だって、友人が傷害事件の容疑で逮捕されるのは、好ましくないだろう?」

「それも2人も」


「どういう意味だ! その場合の被害者は俺じゃないよな!?」


 おちおち寝てもいられない……。

 顔を上げると雪村と深水が笑っていた。


「安心しろ。冗談だ。流石にオレも深水もそこまではしない」

「なら、どこまでならするつもりだ?」


 いぶかしむように雪村のことを睨む。


「寿司ぐらい奢ってもらおうか、誓約を破棄した対価として」

「誓約なんてした記憶がないんだが……。っていうか、回転寿司って地味に高いな」


「面白い冗談だな。回すのは経済だけにしておけ」

「無理だろ! 高校生が回らない寿司を他人に奢れるわけないだろ!?」


 しかも雪村のことだ。

 絶対にその中でも高額なネタを注文するに決まっている。


「安心しろって。オレは雪村と違って謙虚だからさ!」

「謙虚なヤツは――黒髪ロングで胸が大きくて、料理が上手で趣味が読書で、初心だけどエッチなカノジョがほしい、なんて絶対に言わない件について」

「片腹痛い。深水が謙虚なのは成績と、告白の呼び出し成功率だけだろ?」


 言わずもがな、告白成功率については0%だ。

 明るいヤツではあるが、エロイ男子ということで、みんなから認識されているし。


「まぁ、あれだ。仮に仙波にカノジョができたとしても、オレは売店のカレーパンで許してやるよ」

「許すもなにも、仮に俺に恋人ができたら、普通友達なら祝福するんじゃないか?」


「フッ、この理不尽な現実で、あくまでも理想を貫くか。面白い。それを普通と認識しているなら、お前は普通ではない。努々ゆめゆめ、忘れることなかれ」


「仙波、こいつヤバイぞ」

「今さらだろ。ドン引きしている間になにも考えていない方が、まだ有意義だ」


 その時、うるさくし過ぎたからだろう。

 1人の女子生徒がこっちにやってきた。


 黒髪ロングで胸が大きくて、料理が上手で趣味が読書。

 けれど深水とは絶対に上手くいくわけがない、強気なツリ目でこちらを睨んでくる美少女が。


 かなりの美人に属するはずの顔には、引きつった笑みが浮かんでいる。

 AR技術が発展すれば、額のあたりに怒りマークが浮かびそうだな。


 いつもは明るくて、賑やかで、優しくて、同級生どころか先輩後輩にも人気って聞いたことあるし、雪村と深水が相手でも、もう少し……、こう……、心の余裕を……。


「少~し、静かにしてもらえるかな~?」

「問おう、何デシベルだ?」

「おちょくっているの!?」


 即行で仮面が剥がれたか。


「少し静かにしてもらえるか? 他の生徒の迷惑だろう?」

「なっ……!?」


「落ち着けって、委員長。今どき珍しいぞ、そこまでテンプレな委員長は。ほら、隠して持ってきたポテチやるから。そうだ、水筒の中身はメロンソーダだけど、いる?」

「雪村と深水が問題児すぎるせいでしょうが!」


 キッ、と、効果音がしそうなほど、委員長、白崎しらさき美弥みやは問題児2人を睨む。

 残念ながら、雪村も深水も特に怖がらず、次の瞬間には屁理屈を並べるとは思うが。


「委員長、責任転嫁はよろしくない。オレたちは問題児ではなく風雲児だ」

「流石、雪村。物は言いようだな。オレは風雲児の意味知らねぇけど」


「ぐぬぬ……っ、内申点でも稼ごうと思って、名ばかりの風紀委員会に入ったらこれよ!」


「委員長、君はそのような不純な動機で風紀委員会に入ったのか? 風紀委員会は、風紀違反者を取り締まるための組織だろうに」

「そーだ、そーだ!」


「今どき、風紀委員が風紀の乱れを取り締まっているわけないでしょ! いい加減にして!」


 言っていることはわかるけど、風紀委員にあるまじき発言だ。


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