第7話
と、言うわけで期待したような「ちょっと待ったあ!」も何もなく、俺の前にずらりと行儀よく縦列に並んだ成人男女とのお見合いが始まった。平日昼間の比較的人の往来が少ない大通りといえど、大勢の人間が一人の男子高校生の前に並ぶ様はやはり奇妙に見えるらしく、他の通行人がチラチラとこちらの様子を窺っている。
「え、何?芸能人?」
「ユ〇クロのセール?」
「〇phoneの発売?」
と一瞬近寄ってくるものの、恐らく俺から漏れているフェロモンを感じ取り、「あー」としたり顔で詰まらなさそうに去って行く。セールでもスマホ新機種の発売でもないし、何より結構恥ずかしい。地味に神経が削られる。今も俺の隣をゆっくり移動中のおばあさんのグループが、
「まあ今どきの若い人たちはこれだから。あたしの若いころはねぇ・・・」
と文句を垂れながら通り過ぎる。
若い頃はどうだったんだ!逆に気になるわ。
「いいかな」
俺の思考は目の前のスーツ姿の眼鏡をかけた20代とおぼしき男性の言葉に遮られた。腕時計をチラチラ見ている。
「す、すみません!」
確か会議抜け出して来たさん(仮名)だ。ひえ、早く済ませないと。でもどうするんだこれから。
彼は相当急いでいるらしく、口を開けると
「僕ベータ27歳サラリーマン君は初めてだよね自己紹介は年齢だけでいいよ名前は
と一息で告げた。迫力に思わず押される。
「・・・えと、17歳です。高校生です」
「見ればわかる」
ですよね!
彼は口をつぐみ、再び腕時計に目を落とした後俺に視線を戻し、頭のてっぺんから足のつま先まで上下2往復しげしげと見つめた。そうして悩まし気に表情をゆがめて一言。
「んー・・・。やっぱりブラッドピット似じゃないと。以上」
一切の質問もなく秒で終わった!!
「じゃ、急ぐから」と会議さんは俺に片手をあげ、元来た道を駆け戻っていく。
「す、すみませんでした!」
反射的に俺は彼の後ろ姿に向かって深々と一礼した。
本当にすまんかった。しかしそのままアメリカまで行ってくれ。ここよりブラピ似に会えるかもしれんぞ。
その後、特に急いでいた人々__これからデート男、合コンに行く女子、ポチの散歩中の男子大学生等々ちょっぱや希望の上位10人は最初のサラリーマンと同じように質問なしで俺をざっと一瞥すると「ご縁がなかったようで・・・」とそそくさと去って行った。
え、俺そんなに不細工?いやいやまさか、天下のアルファ様だよ!?イケメンって言ってくれる人達(注意:家族ではない)もいるし、そんなに悪い方じゃないって、大丈夫だよ俺!きっとあれだよ、単純に見た目が好みじゃなかっただけだろうし、急いでたんだから余計に早く終わらせたかったんだよ、きっとそうだ。ネバーマインド俺。だけど断りが続くのってきついな。これか。そういう事か。これがアルファの先輩方が言っていた「精神がえぐられる」って事か。確かに他国のオメガバースみたいに襲われるのは論外だけど求められるって良いよな。見合い連敗中って噂の古文の吉田先生にもっと優しくしよう。
「ねぇ、次、いい?」
しかし俺はまだわかっていなかった。ここからが「精神がエグられる」本当の本番だったという事を。
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