第6話

病院の先生から聞いていた「公開見合い」とは、(発情している)アルファが自分のつがい__つまり、一生の伴侶かどうかを見極める一対集団のお見合いイベントなるものらしい。

「公開」と呼ぶのは、うっかり発情してしまったアルファと鉢合わせるなんて屋外がほとんどで、そのまま屋外で見合い活動をする為他の人に見られ放題だからだ。落ち着いたカフェなどに入ったらいいじゃないかと言われそうだが、そもそも惹きつけられる人数が半端じゃないので店には入りきれない事が多いし、フェロモンで無理やり惹きつけられた人達は大抵用事をすっぽかして来ているので、さっさと見合いを済ませたいからそのまま屋外になる、という理由がある。


と、話には聞いているけれど、実際どんな感じなんだろう。ちょっと恥ずかしいけど我先にとアピールされちゃうのかなあ☆「私が先よ!」「ちょっと待ったあ!」みたいな。これでも俺も一応アルファだし希少種だし優秀な性だって言われているし、みんな取り合いになっちゃうよね、辛いなあ。


なんて恥じらいでもじもじしていると、俺の思いとは裏腹に男女のみなさんは押し合いへしあいする事なく、淡々と且つ冷静に俺の前にずらりと列を作った。みんな、図ったように一列で。しかもなにやらお互いにぼそぼそと話し合っている。

「・・・先、行きます?」

「え」

「ほら、デートあるなら急いだ方がいいでしょ」

「あ。すみません」

「他に急ぐ方は」

「すみません、俺会議抜け出しちゃってきたんで一番にしてもらっていいすか」

「はい」

「どうぞどうぞ」

「わんちゃん待たせるの可哀想だし、お先にどうぞ」

「助かります」


・・・なんか、みんな俺の目の前ですげえ冷静に列の順番待ちを作ってる・・・。

え?みんな俺とアレやコレしたいんじゃないの?そういうもんじゃないの?

びっみょー・・・。


中には、スマホを見ながらどこからか取り出したおにぎりをほおばる男性、日傘を差したりコンパクトを出して淡々とメーク直しをしている女性、「あ、時間かかりますよね」ってアウトドア用のおりたたみ椅子を出して座る猛者も出てきた。どこに入れていたんだそれ。

と言うか、コミケか。コミケの順番待ちか。めちゃくちゃ手馴れてんじゃん。アルファのヒートに出くわすってそんなに日常茶飯事なのか。アルファって(俺も含め)どんだけ飲み忘れバカが多いんだ。もうアルファじゃねーだろ。もう夢見るのやめろうやお互いに。


そういう感じで見合い待ちの行列は、拍子抜けしている俺の目の前で実に粛々と作られていき、順番は

仕事の会議を抜け出してきた君(たった今命名した)が一番、

その後デート君(たった今以下略)が二番、

合コンさん(略)が三番、

ポチ連れさん(同)が四番め。

他の人達がその後ずらりと並び、

「特に用事ないんで」がブービー、

「どうでもいいんで」が最後尾。


って最後の二人あきらかにやる気ねぇだろ!

フェロモンにあてられて来るしかなかったものの嫌々だったんだろ。

って俺のせいか、ごめん!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る