第5話

「あの、フェロモンってどんな匂いなんですか」

「え?」

「自分じゃ分かんなくて」


こんなにたくさんの男女を惹きつけてしまうフェロモンってどんな匂いなんだろう。人気イケメン俳優が愛用している香水みたいな爽やかな香りじゃないかな。檸檬のような柑橘系とか、きりっとしたミント系とか、嫌いな人はいない爽やか石鹸系とかだったりして。知らないけど。又はハリウッド俳優が付けているようなスパイシーな中にちょっと甘い大人の色気も感じられる香水とか。知らないけど!

せっかくだから聞いてしまおう。


きりっとOLさん(たった今命名した)は少し戸惑った様子で答える。

「えー、私もこんな事初めてでよくわかんないんだけど。抑制剤飲み忘れてうっかりフェロモンまき散らしちゃうなんてどこの漫画よ、みたいな」

ほんとすみません。

「ただ、ねぇ?」と彼女は周りの人達に助けを求めると、複数の男女が

「なんかすごく良いにおいがしたんだよね」

「それでいつの間にか吸い寄せらせたって言うか。ねぇ?」

「そうだな。すっげぇいいにおいがした」

と同意した。へぇ。やっぱりそうなんだ。


「あの、それ今もしますか?」

「そりゃあこんなに近かったらもちろん」

周りにいる全員が頷きつつ、俺に向かってふんふんと鼻をひくつかせる様はちょっと笑えた。顔には出さないようにしたけど。

「やっぱいいにおいだよな」

「これだよね」

全員が恍惚の表情で異口同音に「たまらない!」とのたまう。

「ど、どんな匂いなんですか!?」

俺は期待で胸を膨らませた。よくぞ聞いてくれましたとばかりに、皆が一斉に嬉しそうに話し始める。

「うーんと、これはあれだね・・・、そうそう、」

「キャラメルポップコーン!」

「マ〇ケンの甘いワッフルのにおいが」

「55〇の豚まん」

「焼肉」

「王〇の餃子」

「焼きとうもろこし」

「ケバブ」

お腹空きすぎか君ら。


え、フェロモンってそうなの?

食いモンの臭いオンリーなの?

引くわー。いや、キャラメルポップコーンとかも歩く遊園地みたいで嫌だけど、焼肉ってただの昨晩食事してから着ていた服をうっかり洗濯忘れたとんでも野郎みたいじゃないか!ないわー。


「あの、もういいんで。やりましょう公開見合い。ええ、とっとと」

すっかり気持ちの盛り下がった俺は、仏の顔で思わず合掌しながら、今もうれしそうに「屋台のカステラ」だの「ステーキ」だのお互いに発表し続け勝手に盛り上がっている皆さんにそう告げた。

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