第4話

ああ、とうとう捕まってしまった。

がっくりと項垂れる俺に、

「ちょっとあなた、薬飲んでないの?」

と非難めいた声がかけられた。恐る恐る見上げると、先程の素晴しいフォームだったスーツ姿の女性が輪から一人近付いてくる。俺を拘束していたサラリーマンと彼女がアイコンタクトをすると、サラリーマンが俺の手を離した。もう逃げられないから大丈夫だろうと合意でもしたんだろう。女性が俺にずいと近寄る。表情もまとめた髪もキリリとした30代くらいの綺麗なお姉さんだ。息を切らし上下の肩が揺れている。

「あ、はい。薬落としちゃって・・・」

と答えた瞬間、周りから

「まじかー」

「やっぱりだ。おかしいと思ったんだよ、身体が勝手に引き寄せられるっておいうかさあ」

「そうそう、気づいたらここにいたの」

「彼しか見えないって言うかさあ」

と非難の嵐が巻き起こった。


発情期(ヒート)状態のアルファのフェロモンにあてられると、決まったつがいを持っていない者全て__アルファ、ベータ、オメガ__は自分の意志に関係なく強制的にそのアルファに惹きつけられる。定年後のヒマ人ならまだしも、20から30代の働き盛りの皆さんは当然平日のこんな昼間は仕事や学業やらでお忙しいわけで。実際スーツ姿の人もちらほらいるし。彼らは俺に一歩詰め寄りながら非難の声をやめない。

「困るんだよね。今忙しいんだよ」

「ちょっとお昼を買いに出ただけだったのに」

「得意先回りがまだ途中で」

「ポチ(シェパード。今は大人しく飼い主の横に座っている)の散歩中なんだよね」

「これから合コンが」

「デートが!」

なんかもう、本当にすいません。ただ最後の奴は相手ととっととつがいになってくれ。

しかしこちらに100パーセント非があるのは確かなので、俺は選挙活動中の政治家のように周囲の人達に向かって360度周りながら低姿勢ですみませんとぺこぺこ頭を下げ続けた。

「君、飲み忘れ初めて?」

謝っている途中で先程のOLが声をかけてきた。心なしか口調が柔らかくなっている。

「は、はい」

「・・・高校生だし許してあげるわよ、今回だけね。次からは気を付けてよ。こっちは極端な話、葬儀に出かける途中でもフェロモンには抗えないんだから」

「す、すみません!」

げえ。まじか。

「じゃ、分からないだろうからこれからの事教えてあげるわ。聞いたことあるでしょ?'公開見合い’。あれ、これからするから。あなたがつがいにふさわしいか皆選ぶのは真剣だから、質問にはまじめに答えてね」

「は、はい」

アルファの先輩達や病院の先生が言っていた'あんな目’、精神がエグられる行為その名も「公開見合い」。ついにそれを経験するのかとおののきながら、俺は先程から気になっていた事を聞いた。




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