第3話

ここで捕まるわけにはいかない!

通路横から飛び出してくるお兄さんをかわし、前から走って来るOL達の間をすり抜け既に限界に感じ始めていた身体に鞭を打ち、俺は両腕を振り上げ両足に力を込め寄ってくる男女の集団の中を全速力で駆け抜ける。

ゾンビ(仮)集団の動揺が空気を通じて伝わって来た。


「ちょ、ちょっと待って!」

「聞こえてないの、君だよ、君!」

俺が気づいてないと思っているようで、皆追って来つつ走りながら口々に叫んでいる。

聞こえてるけど止まるわけにはいかないんだ。

「そこの、男子高校生!」

「グレーのブレザーとチェックのパンツの!」

「黒髪のショートで背が高い!」

周りのフェロモンにあてられていない人々が何だろうと言うように俺を見る。くそ。こっちが不審者扱いだ。逆だってぇの。

追跡者達は構わず声を張り上げる。

「足がめっちゃ速い!」

「走るフォームがムダに綺麗な!」

ムダってなんだムダって。

「まぁまぁイケメンの!」

「だぁれがまぁまぁだあ!?」

最後のコメントに反応して思わず振り向いた俺は、背後から猛然と迫ってきていたガタイのいいサラリーマンに腰をタックルされ、なす術もなく道路にヘッドスライディングする形で突っ伏した。

ラグビー経験者がいたんかい!


「いって・・・」

立ち上がろうとすると、先ほどタックルしたサラリーマンが「大丈夫か」と手を貸してくれ、手やひざについた泥を優しくはたいてくれたりなんかしたが、引っ張り上げた時に掴んだ俺の手首をがしりと握ってそのまま放してくれない。俺は、放してくれません?と無言のひきつった笑顔で問いかけながら試しに上下に振ってみようとしたがびくともしない。掴まれた片手を見、サラリーマンに視線を向けると、彼は表情こそ額から流す汗も様になるスポーツマン爽やかスマイルなものの、ドスの効いた声で一言告げた。

「つかまえた」

DEATH《デス》よね。

そうこうしているうちに男女の集団が息を切らせながら駆けつけて来て、俺は彼らにぐるりと周囲を取り囲まれてしまった。


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