第7話

 翌朝、町を散策する準備を終え、宿舎の食堂で朝食を済ませた太朗たろうは宿舎を出て、街中を歩き始めた。


 セイなるカミ聖神セイなるカミ〟を信仰する宗教〝聖教セイキョウ〟の信者である太朗たろうは最大宗派〝聖教会せいきょうかい〟の赤土聖教会堂あかどせいきょうかいどうへ向かった。


 赤土聖教会堂あかどせいきょうかいどうの老爺な司教を尋ね、「明日、予定している初めての冒険を成功させるため、願掛けに清めの儀式を行いたいんですが……」と告げ「清めの儀式をさせてもらえませんか?」と頼むと、

 「本日の夕刻、再びここに来てください。準備してお待ちしております」と快く答えられた太朗たろうは料金や必要な物を聞き終え、赤土聖教会堂あかどせいきょうかいどうを後にした。


 明日の冒険に備え、市場や商店で携帯食料や携帯飲料水、応急用具などを購入し、今後、お世話になりそうな病院などの位置や込み具合を自分の目で確認した。

 今すぐ利用しない施設は位置や外観の観察に留め、昼過ぎに昼食を済ませた後、荷物を置きに宿舎へ帰った。


 指定された時間の少し前、赤土聖教会堂あかどせいきょうかいどうへ着いた太朗たろうは助祭に案内され、広場の長椅子へ腰かけ、聖神セイなるカミの像を眺めていた。


 老爺な司祭から名前を呼ばれ、大浴場に招かれた太朗たろうは老爺な司祭の指示に従って服を脱いで裸になり、温水を頭から被って身体を洗い流し、セイなる石〝聖石セイセキ〟の粉末が混ぜられている水〝聖水セイスイ〟で満ちている小さくて暖かな湯船に身体を漬けた。


 身体の何かが変わる感覚を感じながらも何が変わったかは分からなかったが変化する感覚の正体が何であれ、身体のを浄化できた――と思えたから悪い気分ではない。


 「ごゆっくり」と告げ、部屋を出る老爺な司祭へ「急なお願いに応えていただき、ありがとうございます」と感謝した太朗たろうは微笑んだ司祭を見送った。


 基本的に、1週間の終わりに聖水で満ちた湯船へ浸かり、身体を浄化し、暖かな水で身体と心を温める行為は聖教会せいきょうかいの信者が行う重要な儀式の1つ。

 この儀式は境界を超える為にも行うことがあり、今回は未経験と経験の境界を超えるために行った。

 本来はの領域〝魔界マカイ〟から人間の領域〝人界ジンカイ〟へ行く際に身体を浄化する行為だけを指していたが〝領域を行き来する事〟を〝境界を超える事〟と考えた人々が境界を超える際に行う儀式として行い始め、浸透した。

 1週間の終わりに行う儀式は次週との境界である週が変わる時(週末の夕刻)に行われていた。

 最初は社会の上位者が限定的に行う儀式だった。

 がとある聖教会堂せいきょうかいどうが大浴場を庶民に解放した事に始まり、今では五国ごこくの大衆文化になっている。

 が平民全員が時間内に入浴する事は難しく〝その日〟に妥協された結果、1週間の最終日に聖水のお風呂に入る習慣になったらしい。


 頼んだ当日という急なお願いに応えていただき、申し訳なさと感謝の気持ちがあり、何時かお返し出来たら……と考えるが、今は何も思い浮かばない。


 儀式を行い、聖神セイなるカミ様の加護を受けたと考え、「大げさに準備しているんだから、大丈夫だろう」と自分に言い聞かせ、立ち上がり湯船から出た。

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