第11話

 初めて依頼を達成してから10日ほど、薬草や木の実の納品依頼を行いながら、

紅樹魔界こうじゅまかいの地理を確認していた太朗たろうはEランクの冒険者に推奨されている範囲〝Eランク区域エリア〟を3分の1程度、把握できていた。


 ある程度、土領つちりょう赤土町あかどまち側の紅樹魔界こうじゅまかい、Eランク区域エリアを知った太朗たろうは静的植物の採取依頼ではなく、魔獣マジュウの素材を納品する依頼を行おうと考えている。


 白銀はくぎん赤土あかど支部でEランクの依頼が張り出されている掲示板を眺めた太朗たろうは草食の魔獣マジュウの中でも戦闘力が低い魔物マモノから取れる納品依頼を見つけた。


 今までは動的な魔物マモノとの戦いを避けながら、静的な魔物マモノを採取し続けていた事で、重傷を負うことは無かったが、戦闘力が低い魔物マモノと言えど、戦えば大けがを負う可能性が無いと言い切れない。


 買い出しや夕食を終えた太朗たろうは自室で明日の冒険に使いそうな剣や弓、鞄や矢などの道具を手入れしながら、傲慢だった幼き自分がここまで慎重に……、否――臆病になった原因を思い返していた。


 過剰とも考え得る慎重さの原因は、自身の適性値アプティテュードを過信していた自分が様々な経験を積んだ衛兵に圧倒的な力や技術で負けた際、強くなる未来を持ち出し自尊心を守った時、

 『自分の適性値アプティテュードが高いから』と能力値ステータス至上主義を持ち出し、自らの将来性で誇り、の勝者を見下すことは過去から今を軽んじる愚かな行為だ――と苦言を呈された太朗たろうは自らの暴論を厳しいが正しい衛兵から教えられた。


 能力値ステータス至上主義や戦技スキル至上主義が間違っているわけではなく「実態が伴わぬ主張は権威無き暴論に過ぎない」では皆を納得させられない。

 などと説教された太朗たろうは不確かで自覚なき根拠から形成された「適性値アプティテュードが高いから」という自信は失われ、「適性値アプティテュードが高くても、今の自分が強くなければ」という教訓が刻み込まれている。

 能力値ステータス適性値アプティテュードは一つの指標であり、絶対的な存在できない。何故なら、能力値ステータス適性値アプティテュード一つで世界の全てを説明できないのだから……。


 治安部隊長の厚意や同情で仕事を与えられ、労働の対価に衣食住を与えられていた太朗たろうは自分が「子供だから」と許されていた我が儘や暴論などの言動は許容されなかった。

 子供や大人ではなく、雇用主と労働者の関係は稚拙な自分を叩きなおす機会となった。

 厳しいながらも幼稚な自分を心身ともに鍛え、送り出してくれた衛兵の皆さんには超越した恩があり、期待に応えるため、学んだ事を忘れてはならない。

 否、忘れたくない。

 忘れるような自分に成りたくない。

 そう思える間は大丈夫だろう――と思いながら手入れを続けた。

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