第9話

 赤土あかど支部の屋内に置かれている掲示板からEランクの薬草納品依頼を取り、受付嬢へ渡した太朗は依頼を受ける手続きを終え、赤土町あかどまち近くの紅樹魔界こうじゅまかい〟へ向かった。


 最初から欲張った末に過去を無駄にし、将来を駄目にするなら、他より遅れても良い――と考えている太朗たろうは比較的、簡単で安全な依頼を選んだ。


 魔物マモノの情報が書かれた印刷物、魔物マモノ図鑑の著者は魔物マモノの危険度を、〝攻撃性〟〝戦闘力〟〝集団性〟〝汚染力〟〝移動性〟の5種をA>B>C>D>Eの四段階と評価している。

 今回行く場所にいる魔物マモノは攻撃性Eランクの草食獣や戦闘力Eランクの肉食獣が多く、挑発行為や危害を加えなければ襲われる可能性は低く、襲われたとしても自分一人で撃退できる程度の弱さである。


 地理を把握し、魔界マカイの空気に身体を慣らしながら、魔界マカイに自生する草花や木の実などの採取を目標に赤色の葉で覆われる紅樹魔界こうじゅまかいの森林へ足を踏み入れた。


 依頼を絶対に達成しなければ――と考える程、追い詰められていない太朗たろうは衛兵の皆さんから「太朗たろうがAランク冒険者アドベンチャーに成ったら、たっぷりの利子と共に返してもらう予定だ」などと言われ、借りているお金がそれなりにある。


 白銀はくぎん赤土あかど支部で購入した地図を広げ、先輩アドベンチャーが残した目印と照らし合わせ、念入りに確認しながら目当ての薬草が自生する場所を回った。

 白銀はくぎん先輩アドベンチャーたちが幾重に進化させた地図は白銀はくぎんが販売している商品であり、魔物マモノの生息域や資源の場所、量などが記され、その土地に疎い者には頼もしい代物だ。

 合わせて魔物マモノ図鑑や冒険の心得などの本も購入した。

 お金は要するが得られた筈の知識が原因で失敗したら確実に後悔すると思い、悩んだ末に買った。

 無限に無いお金を無駄使いはしたくない。


 魔界マカイへ行った事がある衛兵の皆さんや冒険の心得などから、魔界マカイへ行く際、注意すべき事は事前に学んでいるが実践経験は初めてであり「他者から見聞きした知識だけで理解した気になるな」とまことさんから告げられた苦言を反復しながら、油断しない心構えを意識した。


 魔物マモノが流した血や体液を吸った土はに汚染され、汚染された土に根差し育つ植物もに汚染され、汚染された植物や木に実った果実を食らう獣もに汚染され、に汚染された獣を食らう人や獣もに汚染され……。

 などと循環し、は濃く、広く、世界を侵し、魔界マカイは広がる。


 の植物に囲まれた森林で先輩アドベンチャーたちが残した様々な目印と赤土あかどがわ紅樹魔界こうじゅまかい地図ちずを見比べる太朗たろうは迷わない様、慎重に目的へ向かい歩いている。


 依頼品の薬草を見つけた太朗たろうは背負う鞄から瓶を取り出し、抜き取った薬草を聖水セイスイ入りの瓶へ入れた。


 を浄化する聖水セイスイに漬けておけば、人界ジンカイへ帰る頃には汚染の程度が人界ジンカイへ持ち込める規定の値に収まっている筈。


 人間が暮らす領域〝人界ジンカイ〟へ魔物マモノを持ち込むと、が汚染する起点になる事から、魔物マモノや魔に汚染された物(生き物も含む)を人界ジンカイへ持ち込む事は原則、禁止されている。

 人界ジンカイ魔物マモノを持ち込むには土地の管理者が規定する値までを減らす必要がある。


 品質を正確に鑑定する自信がなかった太朗たろうは必要数より多めに薬草を採取した。


 薬草の数が予想以上に多く、予定していた場所全てを回ってはいないが依頼品を集め終わった太朗たろうは予定していた紅樹魔界こうじゅまかいの把握を欲張るより〝初めてだから〟を理由に依頼を優先して帰ろう――と考え、堅実な方針を意識した太朗たろう赤土町あかどまちへ帰ろうと森林を出た。

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