第37話 華麗なるカレー晩餐会(JO)
――翌日、夜。
晩餐会は王宮の広間で行われた。
大きく長いテーブルが並べられて、百人強の参加者に酒や料理が振舞われている。
料理と言っても、魔物の肉を焼いたステーキが中心で、味付けは塩コショウと非常にシンプルだ。
出席者は、王様をはじめとする王族と貴族家当主が中心だ。
つまり、おっさん比率が非常に高い。
むさいなあ、異世界。
だが、奥さんや娘さんを同伴している貴族もいるので、ちょっとは女子もいる。
俺は料理を食べながら、異世界人妻や異世界お嬢様に熱視線を送っている。
ドレスの胸元をガン見中なのだ!
なんと言っても、サラがいない。
何をしても怒られる事がないのだ!
もし、サラがいる所で、他の女の胸元をガン見しようものなら、速攻でオクラホマ・スタンビートをかけられてしまう。
だから、サラのいぬ間にエロチャージだ!
自由万歳!
ビブラ・フランス!
さて、この晩餐会は新たな貴族家――つまり俺、ミネヤマ家をロレイン王国の貴族社会に迎える晩餐会だ。
俺は貴族としての身分が低いにも関わらず、前方の王様に近い席に座らされた。
料理が一通り出た所で、王様から俺に声が掛かった。
「さて、そろそろ、ミネヤマ辺境開拓騎士爵の料理を頂こう」
来た!
準備は万端だ!
厨房にはサラと女冒険者三人組オリガ、ジュリア、ロールが入り、王宮の料理人たちと一緒に、カレーとから揚げをガンガン作っている。
メシマズのジュリアが余計な事をしなければ、大丈夫!
俺は王様の言葉を受け肯き、近くの給仕に料理を運ぶるように指示した。
すると王弟派が固まっているテーブルから、低い笑い声が聞こえて来た。
この野郎!
こいつらが意地悪するから、俺の騎士爵陞爵が保留になったんだぞ!
王弟やバルデュック男爵のニヤニヤ笑いがムカつく。
鉄拳制裁を加えたいが、ここは王宮だから自重だ。
しばらくして、カレーの良い匂いが大広間の外から漂って来た。
赤い服を着た給仕たちが、カレーを運んで来たのだ。
大広間の貴族達が匂いに釣られて、入り口の方を凝視する。
俺の用意した舟形カレー皿に入ったカレーが、次々とテーブルに並べられていく。
王様が鼻をヒクヒクさせながら俺に問う。
「ミネヤマ辺境開拓騎士爵。この料理は?」
「この料理はカレーと申しまして、私の母国日本では国民食と言われております。栄養があって力が付きます。昔、軍に採用された事で、国中に広がった料理です」
これは本当だ。
カレーは元々インドの地元料理だった。
インドはイギリスの植民地になり、カレーがイギリスに渡って元のインドカレーから、英国風カレーに変化した。
そして、明治時代になり文明開化の流れに乗って、カレーがイギリスから日本にやって来た。
肉、野菜が入っていて、栄養がバッチリ!
これに目をつけたのが、帝国陸軍だ。
ほどなく帝国陸軍の軍用食にカレーは採用された。
昔の日本は、今よりも軍の規模が大きくて、各地方の大きな街に師団があった。
従軍経験者が多かった時代なのだ。
陸軍でカレーの味や作り方を覚えた人が、民間に戻ってカレーを広めた。
そして、明治、大正、昭和、平成、令和と時がたち、時代が変わってもカレーは日本人に愛され続け、ここ異世界のミネヤマ領でも愛されている。
あっ!
ちなみにビールも同じパターンね。
陸軍や海軍の売店で取り扱うようになって、日本中に広がった。
なんでそんな事を知っているのかと言うと、大学の卒論を書くのに調べたからなのだ。
そんな日本最強料理四天王の一角を占めるカレー。
異世界でもカレーの香りは暴威を振るっている。
王様は、もう辛抱堪らんと言った風だ。
「良い匂いがする! 早速頂こう!」
「お召し上がりください!」
王様は、木製のスプーンを手に持つとカレーに突撃した。
一口……二口……。
スプーンを持つ手が早まる。
三口! 四口! 五口!
加速がついた王様の手は止まらない。
高貴なお方がガツガツとカレーをかっ込んでいる。
周りを見ると他の貴族たちも、夢中でカレーをかっ込んでいる。
俺はゆっくりとカレーを食べながら、補足説明を始めた。
「えー、本日のカレーは、オーク肉を使ったオークカレーでございます。じゃがいも、にんじん、玉ねぎ、ピーマン、オーク肉を炒めた後に煮込みます。丁寧にアクをすくいカレー粉と言う香辛料を投入し、コトコト煮込めば出来上がりです。パンとも良く合いますので、パンをつけてお召し上がり頂いても良いです」
「むほむほ!」
「はふはふ!」
「ほう! ほう!」
みんなカレーに夢中。
俺の説明を聞いてはいるが、視線は目の前のカレーから一ミリたりとも動かない。
やがて晩餐会の会場には、食器とスプーンが当たる音と咀嚼音だけが鳴り響く。
会場に立っている王宮の給仕たちが、恨めしそうな顔をしている。
すまんな。
多めに作ってあるから、余ったのがあったら後で食べてくれ。
しばらくして、みんなカレーを完食した。
どの顔を満足し、少し汗をかいている。
王様も額の汗をハンカチでぬぐいながら、水をゴクゴクと音を鳴らして飲んだ。
「いや! ミネヤマ辺境開拓騎士爵! 見事な料理であった!」
「ありがたき幸せ」
貴族たちも口々にカレーを賛美する。
「素晴らしい料理!」
「口の中でドラゴンが暴れているかの如く、香辛料が素晴らしく効いている!」
「それを言うならオークキングでございましょう。素晴らしい料理でした!」
よし!
大方の貴族の評判は良いぞ!
問題は王弟派の連中だよな。
王弟派に目をやると物凄く複雑な表情をしている。
たぶん、旨かったのだろう。
けれど立場上、『旨い!』とは言えない。
口にしたい言葉があるけれど、我慢しているって所かな?
そこに王様が追い打ちをかける。
王弟アンリに無慈悲な質問を浴びせた。
「アンリよ。どうか?」
「むっ……くっ……」
王弟アンリは返答に窮している。
まあ、そりゃそうだ。
旨かったと言えば、俺の陞爵が決まってしまう。
つまり王弟派の負けである訳だ。
なかなか負けを認められないでいるのだ。
王弟アンリが言葉に詰まっているとバルデュック男爵がわめき始めた。
「こ! こんな料理は! シチューと変わらんではないですか! シチューの味付けを変えただけ!」
ああ、それ間違ってない。
シチューもカレーも途中まで作り方一緒だからな。
「バルデュック男爵。そう言うわりには、そちの皿は空ではないか」
王様がツッコミを一閃。
確かにバルデュック男爵はケチをつける割には、きっちりカレーを完食している。
「そりゃ、不味くはありませんよ……、まあ、どちらかと言えば旨い部類にはいるかもしれませんが……。と! とにかく! この料理では、我ら王弟派は満足したとは言えませんぞ!」
「うーむ」
王様は腕を組んで考え込んだ。
料理で貴族みんなを満足させる。
それが俺に課せられた陞爵の条件だ。
だが、心配ご無用! ゴム無用! つけて外して突撃一番!
王弟派が満足していないと言うなら次弾を放つまでだ!
「国王陛下、次の料理を運ばせてもよろしいでしょうか?」
「おお! ミネヤマ辺境開拓騎士爵! 次の料理もあるのか!? それは楽しみだ! して、料理の名は?」
「から揚げにございます」
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