第33話 王都へ、陞爵へ

 ――十二月初旬の水曜日。東京の会社。


「峰山さん。明日から有給休暇ですよね? 仕事の方は問題ないですか?」


 年下上司が、気持ち悪い程のナイス・スマイルで俺に質問する。

 ぞわっとしながらも、俺もグッド・スマイルで返す。


「はい。問題ありません。ご迷惑をおかけします」


「……」


 上司の口元は笑顔だが、目は笑っていない。

 嫌な感じだ。


 それでも俺は、十二月頭の木金に有給休暇二日間をもぎ取った。

 これで木曜日から日曜日まで四連休だ。


 なぜ俺が有休を取ったのかと言うと、王宮から連絡が来たのだ。

 王宮の審査に合格し、ミネヤマ領は一つの街として正式に認められた。

 俺の騎士爵への陞爵も決まった。

 ついては、王宮で俺の陞爵の儀式と晩餐会が開かれるそうだ。


 明日から四連休を使って王宮に行くのだ!

 ついに俺は異世界で正式な貴族、騎士爵になる!


 ふっ……四十歳独身貴族が、華麗なる異世界貴族にランクアップさ。



 ――翌日、木曜日の早朝。


 王都へ向かうのは、俺、家令のネリー、護衛としてサラと女冒険者三人組のオリガさん、ジュリアさん、ロールさんだ。


 さらに、商人ギルド長のサンマルチノさん、冒険者ギルド長のラモンさんも同行し、総勢八名が二台の馬車で移動する。


 先頭の馬車は、貴族用の箱馬車。

 商人ギルド長サンマルチノさんが、どこぞの貴族から御者も含めてレンタルしてくれた。

 俺、サラ、家令のネリー、サンマルノさんが乗る。


 後続の馬車は、冒険者ギルド所属の幌馬車。

 荷台に木製の盾が並べられていて、がっちりした作りだ。

 冒険者ギルド長のラモンさんが御者席に座り、赤髪の剣士オリガさん、金髪の神官ジュリアさん、紫髪の魔法使いロールさんが荷台に乗り込む。


 二台の馬車は、ミネヤマ領からバルデュックの街へ延びる石畳で整備された街道を軽快に走っている。

 バルデュックの街から、王都までは『転移門』と言う魔道具で向かい、王宮には午前中に到着するらしい。


 馬車の中で商人ギルド長のサンマルチノさん主導で打ち合わせが進む。

 王宮工作や今回の王都行きの手配をしてくれたのはサンマルチノさんだ。

 本当に頼りになる人で、ありがたい。


「それでは、本日からの予定を確認いたします」


 サンマルチノさんが、今日からの予定を読み上げる。


 一日目:王都へ移動、陞爵式典

 二日目:有力貴族と面会、夜に晩餐会

 三日目:ミネヤマ領へ戻り


「式典に晩餐会ですか……結構、大掛かりですね」


「ロレイン王国に新貴族家が誕生するのは、何十年ぶりですから。魔の森の開拓を進めたい王宮としては、宣伝効果を狙っているのでしょう」


 何十年ぶりに新貴族家が誕生する――つまり、それは、魔の森の開拓がそれだけ難しいと言う事だな。

 俺の場合は、日本・異世界間取引で資金が賄えた事と、家の周りの魔の森が消失してくれた事が大きい。


 それに……ふふっ……サラと色々とイロイロしていたから、モチベーションが落ちなかったからな。


「ところで……結婚詐欺師は見つかりましたか?」


 オリガさんたち三人を騙した結婚詐欺師は、まだ捕まっていない。

 商人ギルドや冒険者ギルドが探しているのだが、なかなか尻尾をつかませないようだ。


「まだです。バルデュックの街からは姿を消しております。王都方面へ逃げたとの情報が入っており、王都での捜索を進めています」


 うーん……、現代の日本と違って警察のような捜査網もないし、インターネットや電話もない。

 人を探すのも大変だな。

 今回の王都行きで、バルデュック男爵の悪行を王宮に報告するつもりだったのだが……。


 俺が腕を組み、眉根を寄せていると家令のネリーが話しかけて来た。


「主、見つからぬ男の事を考えても仕方ありません。それよりも陞爵に集中して下さい」


「おお! そうだな!」


 ネリーの言う通りだ。

 結婚詐欺師の件は、あくまで『ついで』。

 メインは俺の騎士爵への陞爵なのだ。


 隣に座るサラが俺の腕を組みギュッと力を入れて来た。

 サラの柔らかい胸が腕に当たって気持ち良い。

 ふうう、落ち着く。


 早朝六時にミネヤマ領を出発した馬車は、途中休憩を挟み三時間後の九時にバルデュックの街に到着した。


 ここからは『転移門』で移動だと言うが……。

 馬車はバルデュックの街の中心にある広場に進んだ。


「主、あれが『転移門』です」


「おおっ! あれが!」


 広場の中心に凱旋門のような白い石造りの大きな門がある。

 その白い門が『転移門』のようだ。

 転移門の周りには甲冑を着た騎士や革鎧姿の兵士が警備に立っている。


「主は、転移門のご利用は初めてでしょうか?」


「ああ、初めてだ。あれでどこへでも行けるのか? 誰でも転移門は使えるのか?」


「ロレイン王国内で転移門の設置してある街へは、どこへでも行けます。お金さえ払えば、誰でも利用可能です」


「へえ~」


「全ての街に転移門がある訳ではありません。転移門は高価な魔道具でもありますので、建設費用がかかります。各地域の主要な街に設置されています」


 新幹線みたいな物か。

 異世界は異世界で便利な移動手段があるのだ。


「外国へは?」


「一般の転移門は外国へは、つながっていません。王都にある専用転移門は外国へつながっているそうですが、小型で数人しか移動出来ないそうです。外交官用の転移門だそうです」


 ネリーの説明を聞いている間に、馬車は転移門の前で来た。

 箱馬車の窓からサンマルチノさんが顔を出し、警備の兵士に声をかける。


「王都まで! 馬車二台!」


「大金貨二枚、20万ゴルドだ!」


 結構な値段だが、八人で20万ゴルドなら、一人3万ゴルド弱。

 まあ、そんな物か。

 日本でも飛行機に乗れば、それなりの費用がかかる。

 早く安全に移動できるし、高額な魔道具の利用料金としては、安いのかな。


 家令のネリーが革袋から、大金貨を取り出し兵士に渡す。

 兵士の誘導で、馬車はそのまま転移門へと進む。

 馬車が一台通れる程度のアーチをくぐる瞬間、視界が一瞬暗くなった。

 次の瞬間、馬車は転移門をくぐり抜け王都に来ていた。

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