第32話 対応会議

「それで、ご主人様。どうするのですか?」


「まずは、ブッチギーネに話しを聞いてみよう」


 俺とサラは、奴隷商人ブッチギーネの店へ向かった。

 女冒険者三人組、オリガさん、ジュリアさん、ロールさんは、ブッチギーネから買ったのだ。

 ひょっとしたら何か事情を知っているかもしれない。


 昨日、ミネヤマ領に訪問していたブッチギーネだが、既にバルデュックの街にある自分の店に戻っていた。

 ブッチギーネの店に入ると応接室に通され、すぐにブッチギーネがやって来た。


「これは、これは! ミネヤマ様!」


 ブッチギーネは、ギュッ! ギュッ! ギュッ! と揉み手全開で俺を迎える。

 俺はブッチギーネにとって、奴隷を買ってくれるお得意様だもんな。


「ちょっと確認したい事があります。実は――」


 俺はブッチギーネに事情を話す事にした。


「どうやらバルデュック男爵が結婚詐欺師を手配して、オリガさんたち三人を罠にはめ、奴隷落ちさせたようです」


「えっ!? まさか、そんな!?」


「つい先ほどバルデュック男爵と話しをしていたのだが、彼が口を滑らせました」


「それは本当ですか!?」


 ジッとブッチギーネを見る。

 うーん、かなり驚いているな。

 とぼけて芝居をしている感じじゃない。


「本当ですよ。バルデュック男爵から聞いていませんか?」


「聞いておりません!」


「本当に? 事情は知っていたましたか?」


「知りません! 知りません! もしも、知っていたら、バルデュック男爵に思いとどまらせましたよ!」


 ブッチギーネは、顔を真っ赤にして否定した。

 どうやら本当に知らなかったようだ。


「わかりました。ブッチギーネさんを信じましょう」


 俺とサラは、ブッチギーネの店を後にした。

 店の外に出た所で、サラに意見を聞いてみる。


「サラ、どう思う?」


「ブッチギーネさんは、本当に知らなかったみたいです」


「そうか、俺もそんな印象だよ」


「次はどうしますか?」


「ミネヤマ領に戻ろう。商人ギルド長のサンマルチノさんや冒険者ギルド長のラモンさんに会う」


「かしこまりました」


 バルデュックの街を後にして、ミネヤマ領へ向かう。

 街道を整備した事で、電動バイクなら一時間弱で到着する。


 ミネヤマ領の建設中の領主館の前に着くと、家令のネリーが出迎えてくれた。


「主、お帰りなさいませ」


「ネリー。商人ギルド長のサンマルチノさんと冒険者ギルド長のラモンさんと話しがしたい。すぐ呼んで来てくれ」


「かしこまりました」


 サンマルチノさんとラモンさんは、三十分ほどでやって来た。

 あまり人に聞かせられる話ではないので、人気のない領地の隅へ移動する。


「実は――」


 バルデュック男爵との面会で聞いた事を話すと二人は非常に驚き怒っていた。

 まず、冒険者ギルド長のラモンさんが殺気をみなぎらせながら話し出した。


「よくも、まあ、そんな事を! 下衆にも程がある!」


 ラモンさんは、体格が良いので、怒り出すと正直怖い。

 今にもバルデュック男爵邸にカチコミそうな勢いだ。


「あの三人は優秀な冒険者でした! それを! よくも!」


 ラモンさんに続いて、サンマルチノさんも頭に手をやりながら怒り呆れている。


「先代は良い領主でしたが……。息子は……。しかし、ここまで阿呆であるとは……」


 二人がバルデュック男爵について悪態をつきだした。

 家令のネリーをちらりと見ると、心底嫌そうな顔をしている。


「ネリー。こう言う事は、他の貴族家ではどうだ? あるのか?」


「そうですね……。領主一族が領内の女性に手をつける事はありますが……。まあ、その場合は、屋敷を与えて愛人にするとか。金銭を与えるとか……」


「ああ。まあ、つまり、その……もっと上手くやると?」


「そうですね……。まあ、いくら領主とは言え、領民をないがしろにしては領地経営が成り立ちませんから。領民に反乱でも起こされたら、やっかいですし」


 反乱か。

 この世界には魔物がいるし、冒険者が沢山いる。

 いわば領民は戦い慣れているのだ。

 領主が理不尽な振舞いをして、領民が怒れば反乱何て簡単に起こりそうだ。


「反乱が起きるのか……。まあ。それは、そうだよな」


「主、こんなバカバカしく、腹立たしいやり口は、聞いた事がありません」


 ふむ。そうか。

 この世界の人たちにとっても、バルデュック男爵の行いは、許せない事なんだな。


 ネリーはあまり表情を変えないように、冷静に話すように努めているが、怒りは隠しきれない。


 正直、この話しは。女性のネリーにあまり聞かせたくなかった。

 だが、彼女はミネヤマ領の家令だ。

 仕事として割り切ってもらうしかない。


 俺は感情を外に出さないようにして、ネリーに次の質問をする。


「ネリー。バルデュック男爵の行いは、罪に問えるのか?」


 ここが大事なポイントになると思う。

 もしも、日本なら何かの罪に問えるだろう。

 警察に被害届を出して捜査をして貰えば良い。


 けれども、ここは異世界。

 王様に貴族がいて、日本とは違う社会だ。

 領主の権力は、かなり強い気がする。

 領主を逮捕とか出来るのか?


「主、領地の法は、領主が定めます」


「つまり、領主であるバルデュック男爵を、罪に問う事は出来ないのか……」


「左様でございます……」


 悔しいな。ダメなのか。

 家令のネリーも、サラも悔しそうにしている。


 商人ギルド長のサンマルチノさんが、こちらの話しに加わって来た。


「ミネヤマ様は、あの三人を救ってやりたいとお考えですか?」


「そう……だな……」


 あの三人とは特別な関係ではない。

 けれども、さすがに今回のケースは気の毒だ。


 ただ、なあ。

 高かったからな。

 せめて一モミと言う気持ちも正直ある。


 冒険者ギルド長のラモンさんが、俺の考えを見透かしたように、もの凄い圧をかけて来た。


「ミネヤマ様は、さすがに人格者でいらっしゃる! それでしたら、三人を奴隷から解放して下さい!」


「むっ……、奴隷から解放ですか……」


「そうです! そうすれば三人は、元の冒険者生活に戻れるのです! どうですか?」


 ラモンさんは、『どうですか?』と質問の形をとったが、『当然、解放するよな?』と顔面が雄弁に物語っている。


 いや、待ってよ!

 三人で3000万ゴルドもしたんだぜ!

 まだ、回収できてないよ!


 俺がうんうん唸っているとサンマルチノさんが提案をして来た。


「王宮に訴えられては、いかがでしょうか?」


「王宮に?」


「はい。バルデュック男爵の行いは、王宮としても看過出来ないと思います。貴族らしからぬ振舞いですし、こんな話が広まれば暴動や反乱が起きかねません」


「なるほど……。王様にバルデュック男爵の処分をお願いすると言う事ですか?」


「そうです。ミネヤマ様が騎士爵に陞爵する際は、王宮にて陞爵の儀式が行われる」

 はずです。その時に、国王陛下に訴えてみてはいかがでしょうか?」


「陞爵の儀式で、俺が王宮に……。そう言う機会があるなら、出来そうですね。ネリー、どう思う?」


 サンマルチノさんの案は、悪くない気がする。

 ずっと宮廷工作をお願いしてきた人が言うのだから、出来るのだろう。

 後は、家令のネリーがどう思うか?


「主。サンマルチノ様の案に私も賛成です。バルデュック男爵は隣の領主ですから、直接構えるのは得策ではありません。あくまで王宮に『報告』と言う形で訴えれば、よろしいかと」


「そうだな。それじゃあ、その方向で行こう」


「でしたら、オリガたち三人は、今しばらく奴隷のままにしておいた方が良いでしょう。奴隷から解放すれば、またバルデュック男爵がちょっかいをかけて来るかもしれません」


「わかった」


 ネリーも乗り気らしい。

 王宮に『報告』する方向で進めよう。


 後は、証拠か……。

 証拠が無ければ、言いがかりにしかならない。

 結婚詐欺師を捕まえる必要があるな。


「サンマルチノさん、ラモンさん。お二人で犯人捜しは出来ますか? 結婚詐欺師の男を捕まえて欲しいのですが?」


「お任せください。商人ギルドの情報網を使って探してみましょう」


「もちろん、協力しますよ。冒険者をハメた野郎を、野放しには出来ません。追手をかけさせてもらいますよ」


「頼みます。じゃあ、ウチの方は今まで通り三人を『森の定食屋さん』で働かせておきます。俺の手元にいる方が安全でしょうから。それから、この件は内密に!」


「「「「はい!」」」」


 これで良し!

 後は、結婚詐欺師の男が捕まるのを待つだけだ!

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