第三章 マヨネーズ男爵爆誕!
第28話 コブラツイストは愛の証
――十月末、東京の会社。
昼休み、俺は管理部を訪れていた。
ちょっと質問したい事があるのだ。
お昼休みだが、管理部の部長が残っていた。
一人で『鶏屋』の仕出し弁当を食べている。
あの仕出し弁当、一食350円で安いよな。
さすがは管理部長!
昼食も節約なのだな。
「あの~、お昼休み中に、すいません。契約社員の峰山ですけど」
「はーい。何でしょう?」
細身眼鏡で頭の薄い管理部長は、昼休みにも関わらず嫌な顔を一つしないで質問に応じてくれた。
人格者である。俺の上司も見習うべし!
「実は副業でちょっと収入がありまして、ウチの会社って副業禁止じゃないですよね?」
俺は日本・異世界間取引で莫大な金貨を得た。
物凄い収入だ。
一応、本業はこの会社の契約社員なので、日本・異世界間取引は副業にあたる。
年末が近いから、税金関係をちゃんと確認しないと。
「そうですね。会社の仕事に差し支えなければ、副業もOKですよ」
「年末調整は、どうなりますか?」
「年末調整は、管理部で今まで通りやりますよ。ちなみに副業の収入って、いくらぐらいですか?」
「えーと……。100万はいかないですけど、50万は超えていると思います」
色々考えたのだが、異世界で稼いだ金貨を日本で売却したら収入とする事にした。
厳密に考えだすとキリが無いのだけれど――
・異世界での収入は、異世界で税金を納める。
・日本での収入は、日本に税金を納める。
――と言う事に決めた。
まあ、異世界の領主は俺だから、異世界で稼いだ分は税金を納める必要はないけどね。
「それなら税務署に確定申告をして下さい。ウチで働いたお給料分は、年末調整で処理。あなたが副業で稼いだ分は確定申告で処理。これで問題ないですよ」
「ありがとうございます!」
会社に話しを通してスッキリした!
さあ、異世界の俺の領地を発展させよう!
――土曜日、異世界のミネヤマ領。
バルデュックの街とミネヤマ領をつなぐ街道が開通した。
約25kmの街道を、魔法を使って石畳で舗装し、この世界ではかなり立派な道路が完成したのだ!
八月末から工事を開始して、約二か月の工事で完成。
日本に比べて非常に短い工期だったのは、土魔法使いや力持ちの獣人が作業に参加したからだね。
今回の街道工事で、俺は異世界力をまざまざと見せつけられた。
日本よりも文明レベルが低い気がしていたけれど、異世界には異世界の力があるので単純に比較は出来ないな。
ミネヤマ領には、トンテンカンテンとトンカチの音が響く。
現在ミネヤマ領は建築ラッシュだ。
街道が開通した事で、バルデュック方面から馬車を使った陸送が可能になった。
商人ギルド長サンマルチノさんの仕切りで、大量の資材と大工が投入されている。
もうすぐ冬だからね。
ミネヤマ領近辺は温暖な気候らしいけれど、それでも冬は冷えるそうだ。
仮設でも良いから建物を建ててしまわないと。
「ミネヤマ様! ご領地で商売の許可を!」
「ミネヤマ様! オッペル商会にも宝石のご販売を!」
「ミネヤマ様!」
「ミネヤマ様!」
「ハイハイ~! 順番に並んで下さいね~!」
ミネヤマ領は、朝から忙しい。
国内外から商人が訪れ、ダンジョン目当ての冒険者も沢山来る。
俺個人への面会依頼も多い。
とてもさばききれないぞ。
「ミネヤマ様!」
「おー! ブッチギーネさん!」
奴隷商人のブッチギーネが二台の馬車に人を大量に乗せてやって来た。
まさにドナドナである。
非常に非人道的な光景なのだが、労働力が補充できると思うと顔がほころんでしまう。
それだけ俺は忙しいのだ!
ブッチギーネは馬車の御者席から降りると、一人の小柄な女性を連れて来た。
「いやいや、ご領地はにぎやかですな。さて、奴隷と合わせて、ミネヤマ様ご希望の家令や執事が出来る人材を連れて参りました。ご紹介いたします。彼女はネリーです」
「はじめまして。ミネヤマ様」
「こちらこそはじめまして」
家令、執事――つまり俺の代わりに領地を経営し、奴隷や使用人に指示を出せる経営能力、事務能力の高い人材だ。
さすがにそんな優秀な人間は、奴隷にはいないらしい。
そこでブッチギーネに人材紹介をお願いした。
ブッチギーネは、ネリーのプロフィール紹介を始める。
「ネリーは、父親がボーフォート子爵家で家令をやっております。仕事は父親仕込みでございますので、安心してご領地を任せられるでしょう」
「ほうほう。良さそうな人ですね!」
ネリーは、小柄な女性だった。
首元で切りそろえた短めの金髪。
聡明そうな深い青色の瞳。
キリっとした表情をして、いかにも仕事が出来そうだ。
仕立ての良いフロックコートは、黒地にライトブルーのピンストライプ。
白のブラウス、控えめな胸元に美しいシルクの青いスカーフがひるがえる。
フロックコートと同じピンストライプのパンツに、黒のスラッとしたチャッカブーツは、動きやすそうだ。
濃い色の上下は、ネリーの金髪と白い肌を際立たせる。
うん、きりっとした感じの小柄細身の美人だな。
サラと同い年位?
十八歳くらいかな?
ふむ……、悪くない……。
良い感じの子を雇えたな。
ネリーにぴっちりとしたビジネススーツを着させて、メガネをかけさせてだな……。
エロ秘書的な感じで、お仕事をしながら……、こう――。
「ご主人様……。何を考えているのですか……」
「サ……サラ!」
ゴゴゴゴゴゴゴと嫉妬の炎を背中に纏ったサラが現れた!
ま、まずい!
「サラ! こちらは新しく家令になってくれるネリー!」
「……」
サラはジトッとした目で俺をにらんでいる。
俺とサラとの仲は、日々深まっているのだが、俺がちょっとでも他の女に興味を持つと独自のセンサーで嗅ぎつけて来るのだ。
おかげで他の奴隷にはまったく手を出せていない状況だ。
せめて一もみと思うのだが……。
「ボクハ、ナニモ、シテイマセン……」
「また、いやらしい事をかんがえていましたね?」
「イイエ……」
「正直に白状して下さい」
さっと俺に組み付いたサラが、コブラツイストをかけて来た。
ぐおおおお!
背骨とわき腹が痛い!
「痛い! 痛い!」
「さあ、ご主人様! 白状して下さい! 何を考えていましたか!」
「ぐおおお! ネ……ネリーに……! どんな服を着させて、仕事させようかと!」
「ほら! やっぱりいやらしい事を考えていましたね! 罰として肘でグリグリします!」
サラの肘が俺のわき腹にあてられ、グリグリと俺の体を痛めつける。
もう、プロレスを見るのは禁止にしよう。
サラは戦闘力があるから、シャレにならない。
ネリーが近づいて来た。
「主……こちらは?」
サラにコブラツイストで痛めつけられながら俺は答える。
「ネ……、ネリー! こ……、こちらはサラです」
「サラ? 奴隷にしては、主と仲がよろしいようですか? 愛妾でございましょうか?」
「え、えーと……」
「ほら! ご主人様! ネリーさんに答えるのです!」
「痛い! 痛い! 痛い!」
あ、あいしょう?
ああ、愛妾ね。
「そ、そうだね。俺の一番好きな人です」
「よろしい!」
俺の返事を聞いて満足したのか、やっとサラが解放してくれた。
サラは、俺と腕を組んでべたっとひっつく。
最近、シングルマッチでサラに負け続きだ。
俺とサラの様子を見ても、ネリーは顔色一つ変えない。
顎に手を当て淡々と対応する。
「なるほど。奴隷とは言え、主のご愛妾……ならばサラ様とお呼びするようにいたしましょう」
「ネリーさん。よろしくお願いするのです!」
「こちらこそ、サラ様」
ふんす! とサラの鼻息が荒い。
まあ、良いや。なんか話がまとまったな。
「主、まず、この街をご案内願います。その後、わたくしが差配をいたしましょう」
「ああ、そうだね。じゃあ、行こうか」
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