第27話 嬉しいピンフォール負け(2章最終話)

 サラは奴隷を増やして欲しいと言う。

 意外な言葉に俺は思わず聞き返した。

 奴隷を増やしたら、サラがやきもちを焼いたり、すねたりするかなと心配していたのだが……。


「そうなのか?」


「はい。最近、訪ねて来る人が多くて、忙しいです。出来れば人が増えるとありがたいです」


 あっ、そうか。

 サラは、水くれ、水くれって冒険者が図々しいと怒っていたな。


「それに『魔の森の定食屋』はやりたいので、お手伝いをしてくれる人が欲しいです」


 カレーが大人気だったからな。

 サラは、商売の面白さにハマったのかもしれない。


 もしも……。

 もしも、俺がサラと結婚したとする。


 するとサラは領主夫人になる訳だ。

 サラが商売感覚を持っていれば、助かるな。

 俺の事を色々フォローしてくれるかもしれない。


 それにサラが『魔の森の定食屋』を続けたいなら、やらせてあげたい。

 お店ごっこだとしても構わない。

 何事も経験だ。


 ブッチギーネも意見を付け加えた。


「ミネヤマ様。街道が完成すれば、もっと人が増えます。ご領地を運営していくには、人手が必要ですぞ」


 そうか、そうだよな。

 それなら三人を買うのもありかもしれないな。


「三人をここへ呼んでください」


「はい。承知しました」


 ブッチギーネが三人を呼び集めた。


「あっ! ミネヤマ殿!」


 赤髪の剣士のオリガさんが声を上げた。

 三人とも、ばつが悪いのだろう。

 目を逸らし、ソワソワしている。


 俺はゆっくりと落ち着いた声で、三人にやさしく話す。


「事情はブッチギーネさんから聞きました。それで、お三方にうちに来て、色々手伝ってもらおうと思います。料理が出来る人はいますか?」


 うちに来たら、サラの『魔の森の定食屋さん』を手伝ってもらいたい。

 料理が出来る人材は確保しないと。


 紫髪魔法使いのロールさんが、手を上げた。


「私が料理出来ます。野営の時は、私が料理担当だったのでスープとか、シチューとかなら作れますよ」


 シチューが作れるなら十分だな。

 ロールさんは即戦力!


「あと、オリガもイモの皮むきぐらいなら出来ますよ」


「うむ。野菜を切るとか、手伝い位は私も出来るぞ」


 ほうほう。

 赤髪の剣士のオリガさんも包丁を持てるのか。

 下ごしらえを手伝ってもらえるとサラも大分楽できるな。


 金髪神官のジュリアさんは、どうだろう?

 なんか目を合わせないようにしているが。


「ちなみに、ジュリアさんは……? 料理は?」


 間髪入れずに、赤髪の剣士のオリガさんと紫髪魔法使いのロールさんが答えた。


「申し訳ありませんが、ジュリアには料理をさせないで下さい。悲惨な事になります!」


「ええ、食材が無駄になります!」


 ジュリアさんは、メシマズか!

 まあ、それなら、注文を取り料理を運ぶ係り、ホールをやって貰えば良いな。


 そうすると、この三人を加えると――


 サラ:リーダー、調理担当

 ロール:調理担当

 オリガ:調理補助、ホール担当

 ジュリア:ホール担当


 ――となるのか。


 この体制なら店を回せそうだな。


 サラを見ると、コクリと肯いた。

 この三人でOKらしい。


「ブッチギーネさん。この三人を買います。代金は明日払います。それと今日中に装備品と野営道具を揃えさせてください」


「承知いたしました! ありがとうございます!」


 三人は俺の部屋に入れるつもりはない。

 内緒にしておきたい事が多いし、何より異世界―日本間の取引は大儲け出来る。


 悪いけど結婚詐欺師に騙された三人には、俺の部屋から日本に行ける事を教えられない。

 奴隷の首輪をつけているから、口止め出来るとは思うが、それでもリスクが高すぎるよ。


 だから、しばらくは野営をして貰って、なるたけ早く寝泊まり出来る建物を用意しよう。


 応接室に場所を移して、買い取り価格の話しになったが、一人1000万ゴルドだった。

 高いよ……。

 この前、十五歳の獣人が400万ゴルドだったよな。


 処女じゃないから安くしろと言ったのだけれど、容姿端麗につき値引き不可だと。

 冒険者としてすぐ活動できるからお買い得だそうな。


 そうなのか?

 騙されてないか?

 さっき『奴隷の幸せ』ウンヌンと言っていたのは、何だったのだろうか。


 一人1000万ゴルド、三人で3000万ゴルド……。

 やっぱり隙を見て、三人の胸をももう!

 そう、決心した俺であった。


 バルデュックの街から、部屋に戻るとサラのご機嫌が悪い。


「サラ。気が付かなくてごめんな。足りなければ、人は増やすからさ」


 サラはジロリと俺をにらむ。

 な、なんだろう……。

 物凄く悪い事をしたような気分にさせられる。


「ご主人様はエッチな事を考えていました」


「えっ!?」


「新しい奴隷三人を見るご主人様の目が、いやらしかったです。何を考えていたのですか?」


 しまった……。

 バレてた……。

 胸をもむ決心が、まずかったか……。


「……何も考えてないです」


「ウソつきです!」


 言うが早いか、サラは俺をベッドに押し倒した。

 ゴングが鳴る前の奇襲!

 俺はローリングして、ベッドから逃れようとしたが、サラは逃してくれない。


 そのままマウントポジションをとって、ガンガン攻めて来るサラはとても素敵だった。

 今日は俺のピンフォール負けだよ。

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