第26話 新たな奴隷、意外な奴隷

 ――土曜日、早朝。


 サラと二人、電動バイクを飛ばしてバルデュックの街を目指す。

 九月末になり、異世界は陽が昇るのが遅くなって来た。

 早朝は薄暗い。


 朝の空気がヒンヤリして来た。

 だが、異世界魔物の革製のジャケットを羽織っているので、電動バイクでの移動も寒くない。

 このジャケットは革が厚くて、電動バイクに乗っても風は通さないので助かるよ。


 獣道は途中から石畳で舗装された立派な街道に変わる。

 電動バイクのスピードもアップだ。

 もうすぐ、開通だな。


 いつものように商人ギルドでパワーストーンとジャージ生地の取引をする。

 ありがたい事に、この二つのアイテムは、需要が減らない。

 街道整備でかなり稼いだ金貨を吐き出してしまったので、かなり助かっている。


 さて、商人ギルド長のサンマルチノさんと街道整備の打ち合わせを終えて、奴隷商人ブッチギーネの店を訪問だ。


 俺も結構忙しいな。


「これは! ミネヤマ様! ご訪問ありがとうございます!」


「どうも、どうも」


 ブッチギーネは、揉み手全開だ。

 最低、三回は揉んだね。

 キュッ! キュッ! キュッ! って、音が聞こえてきそうだ。


「ミネヤマ様に、ぜひお買い上げいただきたい奴隷が入荷いたしました!」


「はあ、じゃあ、拝見します」


 俺に買って貰いたい奴隷?


 うーん。

 正直な話し、夜の方はサラで満足しているからなあ。


 サラとは性格の相性も良いみたいで、主人と奴隷を超えた関係になっている。

 最近は、可能ならサラと結婚したいと思っているのだ。

 そうなると性奴隷を増やす必要はないな。


 ブッチギーネには、この前会った時『領地経営に役立つ奴隷なら買っても良い』と伝えてある。


 うん、そうだな。

 性奴隷目的じゃなくて、領地経営の視点から、買うか買わないか判断しよう。


 ブッチギーネに案内されて、店の裏にある訓練場のベンチに座る。

 ブッチギーネが俺の隣に座り、サラは俺の横に立っている。

 ちらりとサラを見たが、奴隷を増やす事に悪感情はないみたいだ。


 ブッチギーネが訓練場の中を、あちこち指さす。


「あちらと、あちらと、あちらの三人でございます」


「あっ!」


 そこには、知った顔がいた。

 俺の部屋に初めて訪ねて来た三人組女冒険者たちだ。


 赤髪の剣士のオリガさん。

 紫髪魔法使いのロールさん。

 金髪神官のジュリアさん。


 ええっ!?

 三人は奴隷落ちしたのか!?


 むううう。

 三人とも美人なんだよなあ。


 冒険者やって体を動かしているから、スタイルも良いし……。


 クッ!

 さっき性奴隷は不要とか考えたけど……。


 アリだな!

 アリ!


 特に金髪神官ジュリアさんのお椀型巨乳は指でピンピンしてみたい。

 むうう……。

 ピンピン係として買うか?


 それとも三人同時に俺をペロペロなめさせるペロペロ係として買うか?

 ピンピン、ペロペロか。

 夢と股間が膨らむな。


「ミネヤマ様、三人を覚えていらっしゃいますか?」


「ええ、もちろん。覚えていますよ。あれ……? 三人は結婚する予定があったとか?」


 そうだ!

 そうだよ!


 ブッチギーネから聞いた話しだけれど、三人ともお付き合いしている男性がいて、もうすぐ結婚すると噂が流れていると……。

 それが、どうして奴隷に?


「いや、それが気の毒な話でして、三人は結婚詐欺にあったのです」


「結婚詐欺? えっ!? 三人同時に!?」


「はい。同時と言うか……。三人が付き合っていたのは、一人の同じ男性だったのですよ」


「なっ!?」


 そんな事があるのか?


「えーと、じゃあ、三人はお互い知らなかったけれど、同じ男性にカモにされたと?」


「そのようですね」


 さらに詳しく事情を聴くと、三人はこの結婚詐欺師の男に多額の金を貢いでいて、あげくに借金の保証人にさせられたらしい。

 そして、搾り取るだけ搾り取って男はドロン。

 女三人は借金のカタに奴隷落ちしたと言う訳だ。


 なんか、どこかのマニアックAVメーカーが作っていそうなストーリーだな。

 現実で聞くと悲しすぎる……。

 そう言うのは大人のおとぎ話の中だけにしてくれよ。

 俺は深くため息をついた。


「はあー。それは何と言うか……。悲しいと言うか……。信じられないですね」


「いや、正直、私も驚きました。奴隷商人を長くやっておりますが、こんな事は初めてです」


 でしょうね。

 その結婚詐欺師も良くバレずに、同じパーティーの三人をカモに出来たな。


 いや、待てよ。

 まさか……。


「まさか、ブッチギーネさんが、その結婚詐欺師の男を仕込んだんじゃ?」


 あり得る!

 鬼畜奴隷商人なら、それ位はやりそうだ!

 俺は厳しい目でブッチギーネをにらんだ。


「そんな事は、致しません! そんな事がバレたら犯罪になります!」


「本当ですか? ブッチギーネさんが、三人をハメたんじゃ?」


「違います! 神に誓って私ではありません!」


「ふむ……。そうですか……」


 ブッチギーネは必死で弁解している。

 この様子だとブッチギーネは、関係なさそうだな。


 しかし、あの三人を俺が奴隷にねえ……。


 改めて訓練場の三人を見る。

 性奴隷うんぬんを抜きにして、純粋に人材として見たらどうだろう?


 剣士、魔法使い、神官、バランスは良い。

 何かあった時の戦力として、手元に置いておくのも手か?


「ミネヤマ様。私も、あの三人には同情しているのですよ」


「ほう」


「奴隷商人とは言え、何でもかんでも良い訳ではないのです。なるたけ良い主人に、手元の奴隷を販売したいと思っております」


「奴隷にも幸せになって欲しいと?」


「その通りです。偽善と言われるかもしれませんが、奴隷にも奴隷なりの幸せと言うのがございます。一度奴隷に落ちれば、そこから脱する事は難しいのです。ならば、奴隷なりに良い人生を送れるようにしてやりたいと思うのです」


「なるほど……」


 ブッチギーネも殊勝な事を言うな。

 なるたけベターな選択を、と言う事か。


「しかし、俺の所に来たからと言って、幸せになれると言う訳ではないでしょう?」


「何をおっしゃいますか! ミネヤマ様は慈悲深く、奴隷の扱いが良い主人です! その証拠に私がお売りした奴隷は、高価な魔道具で声が出るようになり、幸せそうにお仕えしているではありませんか!」


「あー、まー、そうですね」


 サラの声が出るようになったのは、たまたま、本当に偶然だけどね。

 サラの気を引こうとパワーストーン・ブレスレットをプレゼントしたら、サラにかかっていた呪いがブレスレットに吸収されたのだ。


 チラリとサラを見るとニコリと笑った。

 うん、まあ、面と向かって言われると照れ臭いが、俺は良い主人かもしれません。


 ブッチギーネが咳払いをして、話題を変えて来た。


「ミネヤマ様。あの三人を買えば、条件の五人を満たせますよ」


「条件? 五人? 一体それは何の事でしょうか?」


「お忘れですか! 辺境開拓騎士爵から、騎士爵へ陞爵する条件ですよ!」


「あっ!」


 それか!

 あったな!


 陞爵と言うのは、爵位が上がる事。

 つまり貴族としてランクアップする事だ。


 今の俺は、辺境開拓騎士爵と言う一番下の爵位で、自分の子供に爵位を相続する事が出来ない。

 一代限りの仮免許みたいな爵位なのだ。


 確か陞爵の条件は――


 ・開拓が成功して、自分の村や町が出来れば、騎士爵に爵位がアップする。

 ・戦時に自分を含めて五人の兵を出せる体制になれば、村や町として認められる。


 ――と言う事だ。


 街道が整備されて、俺の領地に人の出入りが増えるだろう。

 やがて家も出来るだろうし、住む人も増える。

 そうすると陞爵も現実味のある話だ。


 ううむ。どうしよう。


 陞爵はした方が良い。

 けれど、下手に奴隷を増やしてサラのご機嫌を損ねたくない。

 ここは、サラに意見を聞いてみましょう。


「サラは、どう思う?」


 サラに話しをふると、サラは驚いた顔をした。

 たぶん、自分に意見が求められるとは思わなかったのだろう。


「俺とサラは、上手くいっていると思う。だから、二人の関係を壊したくない。サラの意見を聞きたいから、正直に言って欲しい」


 本当に俺は今の関係に満足しているし、毎日が楽しいのだ。

 だから、サラがノーと言えば、この話しは断る。


 サラは少し考えてから遠慮がちに意見した。


「……そうですね。出来れば人を増やして欲しいです」


 意外な答えが返って来たな。

 えっ? 奴隷を増やして良いの?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る