第20話 辺境開拓騎士爵に叙任

 ――翌日、土曜日。


 サラと二人で電動バイクに乗って、バルデュックの街にある商人ギルドに来た。

 

 八月なので異世界も暑い。

 それでも東京の暑さよりは、遥かにマシだ。

 体感だけど二十八度とかじゃないかな?

 湿度も低いみたいで、東京より遥かに過ごしやすい。


 俺は、日本製の黒のジャージパンツと黒のポロシャツ姿。

 サラは、日本製のグレーのパンツにピンクのシャツ。腰から剣をぶら下げる護衛スタイルだ。


 ジャージ生地やパワーストーンの入った大きなリュックを背負って建物に入るといつもより沢山の人がいた。


 商人ギルド長のサンマルチノさんが出迎えてくれる。


「ミネヤマ様、おはようございます! 王宮からご使者がいらっしゃっています!」


「王宮の使者!?」


 一人立派な貴族服を着た顎髭細身の男がいる。

 この人が使者かな?


「貴殿がミネヤマ殿ですか? 貴殿は辺境開拓騎士爵として認められました。こちらの承認書をお受け取り下さい」


 顎髭細身の男は、クルリと赤いリボンで巻かれた紙を差し出した。


 おおっ!

 王宮にワイロ……いや、贈り物をした甲斐があったな。


 俺は姿勢を正して両手で丁寧に受け取る。


「ありがとうございます」


「国王陛下に貴殿の贈り物は確かに届きました。国王陛下は大層お喜びで、貴殿の領主承認は異例の速さで行われました」


「なるほど、ありがたい事です」


「……」


「……」


 俺と顎髭細身の男は、無言で見つめ合った。


 あれ!?

 まだ、何かあるのかな?


 顎髭細身の男は、何か言いたげな……。

 何だろう?


 サンマルチノさんがコソコソと耳打ちをして来た。


「ミネヤマ様! ご使者には、ご足労をいただいたお礼をお渡しするのが慣わしですぞ」


 ああ!

 この人は、俺がお礼を出すのを待っているのね!


「いくらくらい包めば良いですか?」


「50万ゴルド、金貨五枚が相場です」


 なるほど!

 これがあるから、お金を持ってこいと伝言したのか。

 俺は奮発して100万ゴルド、金貨十枚が入った袋を、顎髭細身の男に渡した。


「ご足労を頂きありがとうございます。これはお礼です」


「いやいや、お心遣いありがとうございます。それでは私はこれで……」


 顎髭細身の男は、満面の笑みで商人ギルドを出て行った。

 まあ、金貨十枚は必要経費ってヤツだな。 


 さて、この書類だ。

 リボンを解いて受け取った書類を見る。


 分厚い羊皮紙に黒いインクで手書きされている。

 異世界の文字だから意味は分からないが、美しい筆致だ。

 最後に赤い蝋が垂らされて、ドラゴンの紋章が押されてある。

 このドラゴンの紋章が王様の紋章なのかな?


 書類をサラに手渡す。


「サラ。読んでくれ」


「かしこまりました」


 サラが書類を読みだしたが、高尚な修辞が多い文章だ。

 偉大なるとか、遥かにとか、大変とか、王宮独特の言い回しなのだろう。


 まとめると書いてある事は――


『国王は、マヨ・ミネヤマを、辺境開拓騎士爵として認める。マヨ・ミネヤマが開拓する土地とその周辺を、マヨ・ミネヤマの領地とする』


 ――と言う事だ。


「ご主人様! おめでとうございます! 凄いです!」


「ミネヤマ様、おめでとうございます!」


「「「「「「おめでとうございます!」」」」」」


「おおっ! ありがとう! ありがとう!」


 皆から祝いの言葉が相次ぐ。

 サラ、商人ギルド長のサンマルチノさん、宝石商のイシルダさん、いつもの繊維商人三人、サラを買った奴隷商人のブッチギーネも来ている。


 他にも一人見かけない顔がいるが、祝いの言葉を口にした。

 サンマルチノさんが、その男を紹介してくれる。


「ミネヤマ様。こちらはバルデュックの街の冒険者ギルド副ギルド長のラモン氏です」


「ラモンです。お見知りおきを」


「ご丁寧にどうも。ミネヤマです」


 ラモンさんは、肉体派の体育教師って感じで、眼光鋭く、体格の良い人物だ。

 着ている服はいたって普通の綿のズボンに半袖シャツなのだが、太い腕がやけに目立つ。


 商人ギルドは、今日に限って椅子が大量に持ち込まれていた。

 俺は応接ソファに座り、対面に商人ギルド長のサンマルチノさんが座る。

 サンマルチノさんの後ろに並べられた椅子に商人たちが腰かけた。


 サラは俺の後ろに立っている。

 護衛でお付きの奴隷だからな。


 どうやら、ここからは色々話があるらしい。

 俺も聞きたい事があったから丁度良い。


 全員が席に着いたところで、サンマルチノさんが話し始めた。


「ミネヤマ様。改めて辺境開拓騎士爵への叙任おめでとうございます」


「ありがとう! その……、辺境開拓騎士爵と言うのは……? 伯爵とか男爵と言うのは聞いた事あるが、辺境開拓騎士爵と言うのは初めて聞いた」


「辺境騎士爵と言うのは、一代限りの下級貴族でございます」


「一代限り?」


「はい。ミネヤマ様ご自身は下級とは言え貴族ですが、お子様に貴族の身分は世襲されません」


「なるほど……」


 サンマルチノさんの説明は続く。


 ・魔の森を開拓する人は、最初は辺境開拓騎士爵からスタートする。

 ・開拓が成功して、自分の村や町が出来れば、騎士爵に爵位がアップする。

 ・騎士爵は、子供に貴族の地位を世襲できる。

 ・戦時に自分を含めて五人の兵を出せる体制になれば、村や町として認められる。


 ふーん。

 なるほどね。

 仮免許みたいな制度だな。


 想像するに、この辺境開拓騎士爵と言う制度がある理由だが――。


 村や町を作るのに領主は貴族じゃないと国として具合が悪い。

 しかし、開拓する人間を世襲できる貴族にすると、貴族が無限に増えてしまう。

 そこで、一代限りの辺境開拓騎士爵があるって感じかな。


 開拓が上手くいったら、世襲可能な貴族にしてやる。

 開拓が失敗したら、はい、それまでよ。


「うーん、わかりました。そうすると開拓を成功させなければなりませんね」


 俺が納得するとサンマルチノさんは、きりっとした表情になった。


「左様でございます。その為にも街道整備をお願いいたします」


「街道整備?」

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