第二章 異世界領主のスタート
第19話 吹き荒れる男と女の戦いのハリケーン
――二か月経過。八月。東京のオフィス。
「それでは、お先に失礼します!」
十八時なると同時に俺は席を立ち出口へ向かう。
例の口うるさい年下上司が呼び止める。
「ちょっと! 峰山さん! 残業は!?」
「もう、仕事は終わりましたので、残業はしません! 失礼します!」
家でハーフエルフの性奴隷サラが待っているのである。
アンタなんかに構っていられないよ!
俺が先陣を切ってオフィスを出ようとすると同僚たちも次々に帰り出した。
金曜の夜に残業はしたくないよね。
今日はノー残業デーだし。
「それじゃ、ノー残業デーなんで、私も今日はお先に~」
「あー、俺も帰ります!」
「私も!」
「ノー残業! ノー残業!」
オフィスには、口うるさい上司が一人ポツンと座っていた。
電車で会社から自宅まで一時間。
今日も十九時帰宅だ。
電車の中で音楽を聴き時間を潰す。
ヘッドフォンから懐かしい曲が聞こえて来る。
最近、スマホにダウロードした『小沢健二』の『愛し愛されて生きるのさ』。
家でサラが待っていると思うと、すし詰めの電車の中でさえ楽しい気持ちになれる。
ふっ……。
四十歳独身貴族にとって、通勤電車など何の苦痛にもならないのだよ。
「ただいま~!」
「お帰りなさいませ! ご主人様!」
サラが部屋の奥から走って来た。
日本製のシンプルなベージュのキュロットスカートに、白いシャツが良く似合って可愛い。
抱き着いて来たので、ギュッと抱き返す。
柔らかい胸があたり、髪の良い匂いがする。
ああ、家に帰って来たな。
ホッとする。
サラを買って二か月になる。
俺とサラの関係は『主人と奴隷』だが、どちらかと言うと新婚夫婦や同棲を始めたばかりの恋人同士のような雰囲気だ。
まあ、はたから見たら、俺とサラは、親子か親戚にしか見えないだろう。
俺四十歳、サラ十八歳だからね。
だが、四十歳独身貴族は、そんな世間の目など気にしないのだ。
俺とサラの間には、確かなつながりがある。
昼も夜もな。
俺はサラを大事にしているし、サラも俺に良く懐いている。
最近、サラは俺の部屋での生活に慣れて来たし、夜の性活も慣れて来て随所に積極性が見られるようになって来た。
良い傾向だ。
サラが自分から唇を重ねて来たので、俺は我慢できずそのまま玄関で闘魂デスマッチのゴングを鳴らした。
吹き荒れる男と女の戦いのハリケーン。
俺のよみがえったネプチューンが暴れ出し、ワンルームマンションの玄関は興奮のるつぼと化す。
いつもと違う玄関でのデスマッチに、サラは興奮していた。
声を出したくても、出せないのが嬉しいらしい。
よしよし、立派な変態性奴隷へ成長しているな。
このまま育成をしよう。
次は、飛竜十番勝負みたいな感じで、色々バリエーションを増やしてみるか。
勝負は俺の勝ち。
サラは、犬のように四つん這いでギブアップした。
ちなみに玄関の問題は解決をした。
これまでは玄関にボールペンを挟んで、薄くドアを開けておく事で、俺の部屋を日本とつながった状態にしていたのだ。
現在はボールペンをドアポストに差し込んでいる。
ドアについている郵便受け、あそこにボールペンを差し込んでドアポストの口が少し開いた状態にしておくのだ。
そうするとドアを完全に閉じても、日本とのつながりをキープ出来る。
これでエアコンの効きも良いし、暑い夏だろうが、寒い冬だろうが何も心配ない。
うっすらドアが開いた玄関でいたすと言う羞恥プレイが出来ないのが残念ではあるが……。
さて、一戦交えた後は夕食だ。
今夜はカレー。
サラが作った。
「サラ、美味しいよ! 上手に出来たね! ありがとう!」
「ご主人様に教わった通りに作りました。カレー美味しいです!」
最近、家事はサラにお任せしている。
異世界人のサラは、最初はこの部屋で何もできなかったのだ。
だが、今はすっかりこの部屋に馴染んでいる。
掃除機の使い方、洗濯機の使い方、ガスレンジや湯沸し器の使い方、一つずつ根気よく教えた甲斐があった。
料理の方は、最近カレーを教えたのだ。
ルーをS&Bの辛口にして、ピーマンを入れるのがミネヤマ流カレーだ。
パンチのある辛さと苦みで、大人も満足のカレーである。
次は、ビーフシチューやホワイトシチューを教えよう。
カレーが出来るなら、簡単に作れるからな。
「ご主人様。今朝、商人ギルドのサンマルチノ様からお使いが来ました」
夕飯を食べながら、サラがその日の報告をするのが俺たちの日課だ。
俺が仕事に出かけている間、サラの仕事として留守番をお願いしている。
俺が会社に行く時は、玄関のドアポストのボールペンを抜いてしまう。
つまり俺の部屋のドアを開けると、異世界に繋がった状態だ。
異世界では冒険者が『水を分けてくれ』と俺の家を訪ねて来るのだ。
この対応は留守番のサラにお任せだ。
「今朝? 俺が出掛けたすぐ後に、サンマルチノさんの使いが来たのか? 」
「はい。そうです。『明日は必ず来てくれ、お金を持って来てくれ』だそうです」
「わかった」
異世界取引は順調だ。
パワーストーンやジャージ生地を週一で、バルデュックの街で売却する。
もう、いくら稼いだのか数えていない。
なにせ、毎週数百枚単位で金貨が増えて行くのだ。
金貨の入った袋は、クローゼットに放り込んでいる。
タンス預金ならぬクローゼット預金状態だ。
商人たちの注文は、商人ギルド長のサンマルチノさんがとりまとめてくれるので、俺は注文された品を商人ギルドに運べばOKだ。
時々、今日みたいにサンマルチノさんからのお使いがウチにやってきて、追加注文を伝えて来る事がある。
しかし、今日のような伝言は初めてだな。
必ず来い、金を持ってこい。
俺は何も注文していないのだが、なんだろうな?
まあ、それよりも、もう一試合だ。
「サラ、ご飯が終わったらお風呂に入ろう」
「はい。ご主人様……」
結局、お風呂とベッドで二試合、この日は三本勝負だった。
白熱した勝負の結果、三連勝で俺の勝利。
しかし、サラのグランドテクニックは日々上達しており、俺が負かされる日も近い。
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